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臨床化学編

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―臨床検査専門医および臨床検査専門医を目指す方のための、画像を中心としたクイズ形式のセミナーです。

  • 出題と解答:日本臨床検査専門医会 教育研修委員会
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設問番号:QM0011

下図は、ある施設で一定の基準で耐糖能障害が疑われた患者について、75g経口ブドウ糖負荷試験を実施し、糖尿病型と判定された患者100名と、正常型を呈した患者100名について、ヘモグロビンA1c(HbA1c)および血清フルクトサミン(FRA)を測定した結果を示したものです(データは演習用に作成したものです)。

下表を利用して各カットオフ値での感度・特異度を求め、ROC曲線を作成して両者の病態識別能を比較してください。

●HbA1c

Cut off値 >10.2 9.8 9.4 9.0 8.6 8.2 7.6 7.2 6.8 6.4 6.0 5.6 5.2 4.0
感度%                            
特異度%                            
Cut off値 >400 360 340 320 300 290 280 270 260 250 240 230 220 100
感度%                            
特異度%                            

ヒント1(QM0011):検査の病態識別能-感度・特異度

 日常診療における臨床検査の役割は、疾患の有無の鑑別やその重症度の判定、治療効果の判定など、患者の病態の識別が主な目的となります。したがって、その検査が目的とする病態をどれだけ正しく判別する能力があるか、という点 ― 検査の病態識別能 ― が検査の臨床的有用性を決定する重要な因子になります。

 この病態識別能は疫学的調査に基づいて評価されます。例えば、ある疾患Dの診断に用いる定性検査Tを評価する場合、鑑別診断の目的で検査Tが施行されるであろう集団を対象として集め、各患者を一定の確立した基準(gold standard)に基づいて、検査Tの成績と独立に疾患Dの有無を決定します。ついで、各患者に検査Tを施行して図のような2×2分割表に集計し、以下の指標を求めます。

・感度 sensitivity:疾患Dを有する群での検査Tの陽性率(真陽性率)
・特異度 specificity:疾患Dを持たない群での検査Tの陰性率(真陰性率=1-偽陽性率)
・予測値 predictive value:検査Tが陽性(陰性)の場合に疾患Dを有する(有さない)確率

 横方向に集計する予測値は有病率(prevalence)の影響を受けます。例えば、陽性予測値は、下図のように有病率によって大きく変化し、有病率が低くなると陽性予測値は急速に低下します。したがって、病態識別能を表す検査固有の指標としては感度、特異度が用いられます。

ヒント2(QM0011):定量的検査の感度・特異度とROC曲線

 定量的検査の場合、疾患Dを有する群(D+群)と有さない群(D-群)で測定値の度数分布を描くと多くの検査で下図 i)のような重複した分布となります。この検査の病態識別能は、ある一定の値(例えば図のa)を陽性・陰性の2分割値(カットオフ値)として、定性的検査と同様に感度、特異度として求めることができます。

 しかし、定量的検査では感度・特異度は固定した値ではなく、カットオフ値を変更すれば変動します。例えば、カットオフ値を図のa→b→c点と変更していくと、感度は高くなりますが、特異度は低下します。このように検査の感度と特異度の間には損益(trade off)関係が存在しており、単一のカットオフ値での感度・特異度のみでは病態識別能を十分評価できません。

 そこで、縦軸に感度(真陽性率)、横軸に偽陽性率(=1-特異度)をとって、カットオフ値を変更した場合の両者の変化を順次プロットしていくと上図 ii)に示すような曲線になります。これをROC曲線(receiver operating characteristic curve;受信者操作特性曲線)呼びます(この名称は、もともとレーダーの性能評価を目的として考案された手法であることに由来します。)

 ROC曲線には選択しうるすべてのカットオフ値での感度・特異度が描出されます。したがって、ROC曲線を作成しておけば、任意のカットオフ値を選択した場合の病態識別能を容易に知ることができます。また、ROC曲線は最適なカットオフ値(病態識別値)を決定するためにも利用されます。

 ROC曲線のもう一つの利点は、複数の検査の疾患識別能が比較できることです。ROC曲線はD+群とD-群の測定値分布がどのように重なるかによって変化します。両群の分布が完全に一致し、病態識別能力のない検査では、左下から右上への対角線に等しくなり、重なりの程度が少ないほどROC曲線は左上の隅に近く描かれます。したがって、同じ病態の識別を目的とする複数の検査についてROC曲線を比較すれば、曲線が左上に近いほど病態識別能が高い検査と判定することができます。

 このように、ROC曲線は検査診断上きわめて重要な情報を含んでおり、診断的意義の類似した検査項目から、最も有用性の高い検査を選択する手法として普及してきています。

模範解答:QM0011

1.臨床検査の診断能(diagnostic accuracy)は感度(sensitivity)・特異度(specificity)によって評価されます。
(診断能に関する基本的事項はこちらを参照してください。)

2.本例題のような定量的検査では、カット・オフ値(病態識別値)の設定で、感度・特異度が変動するため、ROC曲線(receiver operating characteristic curve)による評価を行うのが一般的です。
(ROC曲線についてはこちらを参照してください。)

3.ROC曲線作成のため、各カットオフ値での両者の感度・特異度を算出すると以下のようになります。

Cut off値 >10.2 9.8 9.4 9.0 8.6 8.2 7.6 7.2 6.8 6.4 6.0 5.6 5.2 4.0
感度% 19 24 32 36 39 49 61 77 84 91 94 97 99 100
特異度% 100 100 100 100 100 99 98 96 94 88 75 48 20 0
Cut off値 >400 360 340 320 300 290 280 270 260 250 240 230 220 100
感度% 21 31 36 46 55 58 63 79 83 90 94 95 97 100
特異度% 100 100 100 100 98 96 90 83 75 68 51 32 25 0

両者のROC曲線は下図のようになり、HbA1cが左上に位置することから、この検討群ではより診断能の高い検査と判定することができます。

参考文献:QM0011

●Clincial Epidemiology

1.Sackett DL et al:Clinical epidemiology: A basic science for clinical medicine, 2nd ed., Little Brown, 1991
2.久道茂:医学判断学入門-われわれの判断や解釈はまちがっていないか-、南江堂、1990
3.久繁哲徳:臨床情報のチェックポイント-ベッドサイドの医療評価学-、医歯薬出版、1994
4.福井次矢:臨床医の決断と心理-Clinical Decision Making、医学書院、1988
5.Griner PF et al(福井 次矢 抄訳):臨床診断ストラテジー(Clinical diagnosis and the laboratory), メディカル・サイエンス・インターナショナル、1988
6.日野原重明、福井次矢 監訳:臨床決断分析-医療における意志決定理論-、医歯薬出版、1992(原典:Weinstein MC, Fineberg HV; Clinical Decision Analysis, WB Saunders, Philadelphia, 1980)

●ROC curve

1.McNeil BJ., Keeler E., Adelstein J.:Primer on certain elements of medical decision making., N. Engl. J. Med. 293 : 211-215, 1975 (Review)
2.Zweig MH, et al:Assessment of the clinical accuracy of laboratory tests using receiver operating characteristics (ROC) plots: NCCLS Approved Guideline., NCCLS Document GP10-A. Vol. 15, No. 19, 1995
3.Zweig MH, Campbell G:Receiver-operating characteristics (ROC) plots: a fundamental evaluation tool in clinical medicine.: Clin. Chem.; 39: p561-577, 1993 (Review)
4.Christensen, M. :Clinical Test Evaluation. Basic Concepts. : Scand. J. Clin. Lab. Invest.; 52: p13-29, 1992(Review) 5.松尾収二、高橋浩:検査診断学におけるROC曲線の利用の実際.臨床病理 42:585-590, 1994