Lab. Clin. Pract., 19(2) : 121-125 (2001)

臨床検査医会振興会セミナー

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21世紀の臨床検査を考える
遺伝子検査の将来
―21世紀における遺伝子ビジネスの展望―

Japan Genome Solutions
窪 田 規 一


2000年6月26日ホワイトハウスで国際ゲノム解析チームのDr.フランシス・コリンズと米国のベンチャー企業セレラ・ジェノミクス社のDr.クレイグ・ベンターの共同記者会見が開催されヒト・ゲノムの解析がほぼ終了したとの発表がありました. その後,2001年2月15日には国際ゲノム解析チームが「nature」へ2月16日にはセレラ・ジェノミクス社が「Science」に解析データを発表し,いやが上にも医療における応用,新しい時代の到来が期待されています.
遺伝子創薬,テーラーメード医療など,つい最近まではサイエンス・フィクションの世界での話が現実のものとなりつつあります.その中でも遺伝子検査と分類される分野の進歩は,他の分野に比べ遥かに早く現実のもの…臨床現場での活用・実現の可能性が高いと言えるのではないでしょうか?
しかし現在,遺伝子検査として分類されている検査の大勢は,細菌やウイルスを遺伝子レベルで同定する検査であり…言うならば「遺伝子で調べる」モノで,テーラーメード医療などにおいて期待されている「遺伝子を調べる」モノではありません.当然,ここで明言する遺伝子検査は「遺伝子を調べる」モノのことです.
そこで,今回発表したスライドに合わせて遺伝子検査の将来を考えてみたいと思います.


スライド1 遺伝子解析の方向性

ヒトの30億塩基対の塩基配列を解析することを目的とした,ゲノムプロジェクトの終了を受けて,次の目標は多型解析や発現解析を基盤とした遺伝子の機能解析およびタンパク質の各種解析に移りつつあります.


スライド2 遺伝子創薬と遺伝子解析技術

現在,遺伝子解析に関するニーズは遺伝子創薬の市場にて最も顕在化しています.「遺伝子の配列解析」⇒「遺伝子の絞り込み」⇒「遺伝子の機能解析」⇒「タンパク質の解析」⇒「化合物の特定〜臨床治験〜製薬」という遺伝子創薬のプロセスにおいて,DNAシーケンサーやDNAチップ(アレイ) などの技術を活かした遺伝子の多型および発現解析が行われています.


スライド3 遺伝子解析技術の臨床検査への応用

臨床検査として遺伝子検査が一般化するには遺伝子創薬で培われた,各種遺伝子解析技術が臨床で活用できるように転換され応用されることが必要だと考えられます.


スライド4 遺伝子の発現解析と臨床検査

遺伝子検査には大きく分けて発現解析と多型解析の二つの側面があります.発現解析は個人の病態や状態を反映する情報と考えられます.言わば,「動的遺伝子情報」と言えます.
遺伝子発現解析が臨床検査として活用されたとき,個人の病態・状態に合わせたテーラーメード医療としての「個人別治療の選択」や「治療結果の予測・評価」といった情報を提供できる可能性があります.


スライド5 遺伝子の多型解析と臨床検査

SNPs (Single Nucleotide Polymorphism) に代表される,もう一つの側面である多型解析は遺伝子の多様性を反映するものであり,疾患や治療に対する個人の体質に関連すると考えられます.言わば,発現解析の「動的遺伝子情報」に対して「静的遺伝子情報」と言えます.
遺伝子多型解析が臨床検査として活用されたとき,個人の体質による特性といった面から「病気のリスク予測」や「薬剤の副作用予測」にかかわる情報を提供できる可能性があります.また,単一遺伝子疾患に関してその診断手法としての可能性もあると考えられます.


スライド6 肝疾患・C型肝炎の現状

次に弊社で開発を進めている肝疾患に対する遺伝子検査の可能性をお話します.
今や我が国においてウイルス性肝疾患は第二の国民病となりつつあります.その中でも急性肝炎⇒慢性肝炎⇒肝硬変⇒肝細胞癌へと進行する,C型肝炎は最も大きな問題になっています.特に治療に関して見てみるとインターフェロンという有効な治療薬はあるものの現在の治療選択基準(臨床検査による)では,治療効率が 60% 程度であり,さして高いとは言えません.
現在,インターフェロン治療の指標はC型肝炎ウイルスのRNA量やジェノタイプを中心にしたウイルス側の情報分析が中心になっています.しかし,前述のとおりその基準では十分な治療効率は得られていません.


スライド7 C型肝炎と遺伝子検査

インターフェロン治療に当たっては多くの場合,肝臓の組織生検が実施されます.その組織から肝臓で発現する遺伝子情報を分析するシステムがあればより,多くの情報が入手できる可能性があります.
弊社ではDNAアレイの技術を活用してインターフェロンの治療効率をupさせられるシステムを開発しています(2001年度中には完成予定).


スライド8 遺伝子検査の市場規模推移予測

遺伝子検査の市場は大きく分けて三つに分かれます.一つは遺伝子の研究を中心とした遺伝子研究市場,二つ目は新薬の開発を目的とした遺伝子創薬市場,三つ目は臨床で活用することを目的とした遺伝子診断市場です.
当初は遺伝子研究市場が中心となり市場形成されますが,徐々に遺伝子創薬市場そして遺伝子診断市場にその趨勢はシフトしていくものと予想されます.最終的に遺伝子検査の市場は遺伝子診断市場が中心になるものと予測しています.


スライド9 DNAチップの市場規模推移予測

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