Lab. Clin. Pract., 19(2) : 121-125 (2001)
臨床検査医会振興会セミナー
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21世紀の臨床検査を考える
遺伝子検査の将来
―21世紀における遺伝子ビジネスの展望―
Japan Genome Solutions
窪 田 規 一
今年の4月に大和総研が発表した『DNAチップの市場規模推移予測』のデータを見ると2003年ごろから市場規模が拡大し始め,2006年にはDNAチップの 70% 以上は遺伝子診断用に使われていると予測されています.
スライド10 遺伝子検査の問題点
遺伝子検査を進める上で必ずクリアしなければならない問題点があります.1点目は「人権・倫理問題の明確化」,2点目は「検査データ解析の複雑性」,3点目は「対コスト経済環境の構築」です.
スライド11 人権・倫理問題の明確化
人権・倫理面における指標として2001年3月29日に「文部科学省」「厚生労働省」「経済産業省」3省合同にて『ヒト・ゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針』が出されました.これは,「生殖細胞系列変異又は多型を解析する研究」が対象になっています.しかし今後,遺伝子検査の中心になる体細胞変異に関する解析や遺伝子発現に関する解析も同一基準にて検討する必要があると思われます.
スライド12 個人匿名化・秘匿情報管理の必要性/弊社事例
個人の遺伝子データを取り扱うに当たり,匿名化システムと個人情報の秘匿管理システムは不可欠になります.弊社では医療機関から一貫した匿名化データ管理システムの運用が重要であると考えています.
スライド13 遺伝子相互関連におけるデータ解析の複雑性
遺伝子の生体内における働きは単一なものではありません.細胞外リセプターから伝達された情報は核内に入り,特定の遺伝子に作用します.その後,同時並行的に複数の遺伝子に情報伝達がなされ生体内における生命反応として作用します.
すなわち,遺伝子検査は多くの場合,単一遺伝子の情報だけでは生態反応解析には結びつかないと言えます.
スライド14 遺伝子発現情報解析の一例
そのために,一つの遺伝子チャネルからの発現解析を行う場合でも各種細胞・組織・リンパ球発現データベースを基に関連する複数の遺伝子発現を解析した上,診療情報データベースを加味して最終的な分析結果を導き出すことになります.
スライド15 臨床検査の市場価格と遺伝子検査
現時点における遺伝子検査のコストは既存の臨床検査の価格構造,特に診療報酬(検査実施料)の範疇では包含できません.遺伝子検査が診療の手段として使われるには今までとは異なった・仕組みが必要になると思われます.
今までの臨床検査は多くの場合,診断の補助データや診療の参考データとして活用されていたのに対して,遺伝子検査は「予備診断⇒確定診断⇒治療検索⇒治療決定⇒予後判定」といった,診療プロセスの中でそれぞれのステージを通して確定検査となる可能性が高いと考えられます.
スライド16 遺伝子検査の臨床的ポテンシャル
今後の診療報酬体系は今までの出来高払い積上げ方式から一部の分野では実行されている包括マルメ方式に移行すると思われます.当然ながらEBMに則った効率的な診断・治療が必要になり,そのための・手段が今まで以上に必要になると思われます.
まさに遺伝子検査はそのニーズを満たしうる・手段となりうるのではないでしょうか.よって,遺伝子検査の経済的判断は診療報酬全体に対してどれだけの経済的インパクトを与えられるかによって評価されるべきではないかと考えています.
スライド17 医療経済における遺伝子検査の可能性
遺伝子検査が診療の場で活用されるようになるには,いま少しの時間と環境整備が必要かもしれません.しかし,遺伝子検査がもつ可能性は今後の臨床検査の概念を根本から変えてしまうと言っても過言ではないのではないでしょうか.
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