[寄 稿]
マニュアル化・SOP化
庶務・会計幹事 高木 康
世の中、右も左もマニュアル化である。臨床検査領域でもSOP (Standard Operating Procedure: 標準操作手順書)が一般に浸透してきており、検査はSOPに則り行われることになる。検査センターでの査察でも、「SOPのチェック」は採点対象となっており、SOPはセンターが最低常備しなければならない書類の1つである。インスペクターは適切なSOPが備わっているかを確認しなければならない。SOPを作成するには、凄まじいばかりのエネルギーを必要とする。臨床検査項目全ての項目について、検体採取、測定機器、測定手順、測定結果報告、トラブル処理、などについて詳細に記載しなければならない。このSOPに従って作業をすれば、検査ができて正確な結果を患者に返却できる、のがSOPである。誰でも同じ検査ができるためにはSOPは欠かせないものである。
一定の標準した操作により検査を行うにはSOPは優れており、マニュアル化は優れた手段である。そして、少なくともSOPを作成した技師はその検査項目については詳細を勉強し、全てに精通することができる。しかし、これを使用するだけの技師が果たしてSOPを作成した技師と同等な知識と技術を習得しているかは疑問である。しかも、SOPだけを検査室に並べているだけで、内容をほとんど理解していない検査室、検査技師もいる。技師は検査を行うにあたっては、少なくともSOPの欠点を見つけて、あるいはトラブル対処についての新知見を加筆する意欲がなくてはならないであろう。
マニュアル化は最低の作業はできるもののより良い作業を模索するには妨げになる危険もある。マニュアルどおりに作業していればいい、マニュアルに書いてないことはできない、する必要がない、などの誤った考えが蔓延しないとも限らない。事実、フレキシブルなものの考え方、行動ができなくなった技師が増えており、企業はこのような技師をアテにできないためにますますブラックボックス化に邁進しているように感じるのは筆者だけであろうか。
検査室のSOPの優秀さは、改訂が多いことであると自覚して、真摯かつ柔軟に検査を行う検査技師を育成し、検査室を構築することが、我々検査医のもう1つの役目ではないだろうか。
[お知らせ-1]
◆第23回イムノアッセイ検査全国コントロールサーベイ
社団法人日本アイソトープ協会医学・薬学部会とイムノアッセイ研究会は共催で、標記コントロールサーベイを下記のとおり実施します(後援:日本放射性医薬品協会)。
RI検査のみならず、各種イムノアッセイ法による参加が可能ですので、奮ってご参加ください。
○対象項目
ホルモン、腫瘍マーカーなど40項目
○試料血清(凍結乾燥品)
ホルモン等測定用と腫瘍マーカー測定用の2種類
○参加費用(税別)
・病 院
参加項目 5項目まで(※) 10,000円
10項目まで 15,000円
15項目まで 20,000円
20項目まで 23,000円
25項目まで 25,000円
26項目以上 30,000円
・衛生検査所(検査センター)
参加項目 5項目まで(※) 10,000円
10項目まで 15,000円
15項目まで 20,000円
20項目まで 25,000円
25項目まで 30,000円
30項目まで 35,000円
31項目以上 40,000円
※ただし,「試料血清A」または「試料血清B」のいずれか一方で測定する項目のみを申込の場合に限る.試料血清Aで測定する項目とBで測定する項目の双方で参加項目数の合計が5項目以下の場合は,10項目までの区分とする.
・体外診断用医薬品の製造または販売メーカー
参加項目 15項目まで 40,000円
16項目以上 50,000円
○実施スケジュール
2001年 11月下旬 案内書送付
12月末 参加申込締切
2002年 1月下旬 参加者へ試料血清送付
2月末 測定結果の提出期限
10月下旬 参加者へ成績報告書送付
連絡先:医学・薬学部会事務局
113-8941 東京都文京区本駒込2-28-45 日本アイソトープ協会学術課
Tel 03-5395-8081, Fax 03-5395-8053
E-mail mailto:gakujutsu@jrias.or.jp
[お知らせ-2]
◆公開研究討論会「生体の計測と制御」未来の進路を問う
主催:日本学術振興会 未来開拓学術研究推進事業
複合領域 「生体の計測と制御」研究推進委員会
協賛:産業技術総合研究所 生命情報科学研究センター
日 時:平成14年1月25日(金) 9:50〜17:30
会 場:産業技術総合研究所 臨海副都心センター4F大会議室
(東京都江東区青海2−41−6 TEL:03−3599−8078)
会 費:無 料
09:50~10:00 開会挨拶 研究推進委員会委員長 古川 俊之
10:00~11:00 《フォトニック生体技術の誕生から成長への期待》
大阪大学大学院工学研究科教授 河田 聡
11:00~12:00 《生体動的センシング研究の夢と当面する課題》
東京大学国際・産学協同研究センター教授 満渕 邦彦
12:00~13:15 昼食・休憩
13:15~14:00 《生命情報科学研究センターとバイオインフォマテックス》
産業技術総合研究所 生命情報科学研究センター長 秋山 泰
14:00~15:00 《逆問題の生物研究応用の歩みと克服すべき問題》
金澤工業大学 先端電子技術応用研究所教授 賀戸 久
15:00~15:20 コーヒーブレイク
15:20~16:20 《超音波診断治療の回顧と革新への研究目標》
大阪大学医学部教授 堀 正二
16:20~17:20 《バイオセンサーの急激な進歩を担うスピリット》
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科教授 民谷 栄一
17:20~17:30 《生体の計測と制御》研究総括:社会の期待に答えるために
金澤工業大学人間情報システム研究所教授 鈴木 良次
申し込み先:
北陸先端科学技術大学院大学材料科学研究科 民谷栄一、村上裕二、小杉紀代美
〒923―1292 石川県能美郡辰口町旭台1―1
Tel:0761-51-1660、Fax:0761-51-1665
[お知らせ-3]
◇教員の公募について
各 位 平成13年11月21日
女子栄養大学 栄養学部長 五明紀春
教員の公募について,下記の担当教員を公募いたしますので、ご協力をお願い申し上げます。
記
1.専門分野 臨床化学
2.担当科目 臨床化学、臨床化学実験、臨床病理学総論、検査管理総論ほか
大学院(修士課程):臨床化学
(博士後期課程):臨床化学検査学
3.募集人員 1名
4.採用職名 教授
5.応募資格 博士の学位を有する者。医師免許証を有することが望ましい。
6.年 齢 採用時 65歳未満
7.採用予定日 平成15年4月1日
8.応募期限 平成14年1月16日(必着)
9.応募書類 (1)履歴書 1通(本学所定の様式)
(2)教育研究業績書 1通(本学所定の様式)
(3)主要論文または著書 5点以内(コピーで可)
(4)応募の理由書(1200字程度)
(5)健康診断書
10.給与 本学園職員給与規程による。
11.提出・問合せ先 〒170-8481東京都豊島区駒込3-24-3
女子栄養大学 学務担当
TEL 03-3576-3235
[お知らせ-4]
◆Medical Biopathologyについて
「資 料」
国際臨床病理センター所長/自治医科大学名誉教授
河合 忠
まえがき
去る2001年11月21~24日にドイツ国デユッセルドルフ市で開催された第21回世界病理学/臨床検査医学会議において、専門医認定制度についての意見交換会がもたれた。米国のTraverse博士が司会をし、欧州各国、ブラジルから代表者が参加し、日本からは小生が出席した。その中で、欧州連合としての動向が判明したので、その概略を紹介する。詳細については、URL: http://e.lio.se/uems/からも情報が得られる。
2002年1月1日からいよいよユーロ貨幣が欧州連合のうち、英国、スエーデン、デンマークの3国を除く12カ国に出回る。1951年4月に欧州石炭鉄鋼共同体が設立、1958年1月には欧州経済共同体(EEC)と原子力共同体が発足、1967年7月3つの共同体が欧州共同体(EC, European Community)の下に統合し、1993年11月に欧州連合(EU, European Union)が発足した。かくして、欧州では産業と市場の統合が進み、現時点ではEU全加盟国の足並みは一致していないが、近い将来加盟国の拡大は確実な趨勢である。各国が長い伝統の中で培ってきた規則や習慣を打ち破って、今後欧州連合の中でどのように統合が進められるのかが注目される。
U.E.M.S.の誕生
EU統合の動きの中で、医療も例外ではなく、医師の交流についても国境がなくなる予定であり、欧州経済共同体の発足にあわせて専門医の集団としてU.E.M.S.(Union Europeenne des Medecins Specialistes; European Union of Medical Specialists)〔欧州専門医連盟〕が1958年7月20日に誕生した。最初は、EEC加盟6ヶ国の代表者が参加したが、現在では18カ国の医師会が参加し、準メンバーとして10カ国の医師会が参加している(表1)。また、40の専門分野が登録されており、臨床検査に関連したものとして、Medical BiopathologyとPathologyがある。
Specialist Section of Medical Biopathology U.E.M.S.
Specialist Section of Laboratory Medicineとして発足したが、1988年にはAnatomo-Pathology(英語圏でいうAnatomic Pathology)が分離して、Specialist Section of Pathologyが発足し、1995年4月1日のルクセンブルグ会議においてSpecialist Section of Medical Biopathologyに変更された。Medical Biopathology(Laboratory Medicine)を一応日本語に翻訳すると医科生病理学(または医科生物病理学)とでもなるであろうか。
Specialist Section of Medical Biopathologyには次の5つのCommissions(審議会)が設けられている:
Polyvalent Medical Biopathology〔全科医科生病理学〕
Monovalent Medical Biopathology〔単科医科生病理学〕
Microbiological Biopathology〔微生物学的生病理学〕
Chemical Biopathology〔化学的生病理学〕
Immunological Biopathology〔免疫学的生病理学〕
Haematological Biopathology〔血液学的生病理学〕
European Board of Medical Biopathology (E.B.M.B.)も上記の5つのカテゴリーについて専門医認定制を設置し、1年の内科または他の臨床医学を含めて合計5年間の卒後教育を義務づけ、しかも5つのカテゴリーについての教育目標を設定している。
Polyvalent Medical Biopathology
Polyvalent medical biopathologyは、わが国でいう臨床検査医学に相当するが、2001年4月27日に教育目標が公表され、4年の専門教育と1年の臨床研修を基本としている。その研修内容(おおむね日本臨床検査医学会の卒後研修カリキュラムと同様であるが、病理学は含まれていない)と研修期間は、欧州指令93/16に基づいて、以下の国々において法律で定められている:オーストリア、ベルギー、フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、ルクセンブルグ、ポルトガル、スペイン。ただし、名称については、未だ統一されていないので、現在、表2の通りである。とくに、EU統合に一歩遅れている英国では、米国やオーストラリア圏などの英語圏と同様に、病理学の中に包括されている。今後、欧州連合がさらに進む中で、研修内容と研修期間については統一されたものの、名称の統一がどのように進むかが注目される。とくに、フランスでは臨床化学自体が薬科大学でのみ教育されている現状であり、今後脱皮するのに何〔十〕年もかかるのであろうか。
Polyvalent Medical Biopathologyを専攻し、E.B.M.B.が認定するThe Medical Biopathologistは、わが国の臨床検査専門医に相当するが、次のように定義している:
The Medical Biopathologist is a medical doctor with expertise in several fields of Laboratory Medicine. He/she works with other physicians in the diagnosis, therapy and prevention of illness. As a specialized medical doctor he/she should be able to select and perform the most appropriate laboratory tests to be used, and he also interprets laboratory results for other clinicians. He/she is active in the education of postgraduate medical trainees and other laboratory professionals.
医科生病理学者〔または生病理医〕は、臨床検査医学のいくつかの分野に秀でた医師である。彼/彼女は疾病の診断、治療及び予防において他の医師と協働する。専門医として、彼/彼女は利用される最適の臨床検査を選択し、実施すること出来なければならず、また他の臨床医のために検査結果を解釈する。彼/彼女は卒後研修医や他の臨床検査専門家の教育を活発に担当する。
Monovalent Medical Biopathology (Subspecialties of Medical Biopathology)
欧州のいくつかの国にはPolyvalent Medical Biopathologyの専門分野が現存しないが、その中のsubspecialtyについては何らかの形で存在し、4年の専門教育と1年の臨床研修の卒後教育課程については合意が得られており、表3のような国において法律で定められている。
表1 U.E.M.S.の加盟国医師会と準メンバー国医師会
U.E.M.S.加盟医師会
オーストリア;ベルギー;デンマーク;フィンランド;フランス;ドイツ;ギリシャ;アイスランド;アイルランド;イタリア;ルクセンブルグ;オランダ;ノルウェー;ポルトガル;スペイン;スエーデン;スイス;英国
U.E.M.S.準加盟医師会
クロアチア;ハンガリー;マルタ;ポーランド;チェコ;スロバキア;スロベニア;トルコ;エストニア;ルーマニア
表2 Polyvalent Medical Biopathology について現在欧州各国で使われている名称
国 名: 名 称
Austria:Medizinische und chemische Labordiagnostik
Belgium:Biologie Clinique
France:Biologie Clinique
Germany:Laboratoriumsmedizin
Greece:Medical Biopathology
Italy:Patolgia Clinica
Luxembourg:Biologie Clinique
Portugal:Patologia Clinica
Spain:Analisis Clinicos
表3 Monovalent Medical Biopathologyが実践されている国々
専 門 科 目: 実践している国
Haematological Biopathology:Denmark, Finland, France, Luxembourg, Portugal
General Haematology:Finland, Greece, Ireland, Italy, Luxembourg, Portugal, Sweden, UK
Chemical Biopathology:Denmark, Finland, Ireland, Luxembourg, Netherlands, Spain,Sweden, UK
Medical Microbiology:Austria, Denmark, Finland, Germany, Greece, Ireland, Italy,
Luxembourg, Netherlands, Spain, Sweden, UK
Immunological Biopathology: Austria, Finland, Ireland, Spain, Sweden, UK
[お知らせ-5]
◇平成14、15年度日本臨床検査医会役員が決定しました。
会長 河野 均也
副会長 森 三樹雄、渡辺 清明
常任幹事
・庶務・会計 土屋 達行
・出版情報 森 三樹雄
・教育研修 熊坂 一成
・会則改定 渡辺 清明
・渉外 村井 哲夫
全国幹事
北海道 伊藤 喜久
東北 茆原 順一、富永 真琴
関東甲信越 下 正宗、木村 聡、中原 一彦、玉井 誠一、山田 俊幸、勝山 努、宮 哲正、満田 年宏
東海北陸 清島 満、前川 真人
近畿 高橋 伯夫、尾鼻 康朗、藤田 直久
中国四国 猪川 嗣朗、石田 博
九州 岡部 紘明、上平 憲
監事 河合 忠、大場 康寛
[お知らせ-6]
◇第1回の常任委員会、全国幹事会の日程
・日 時:平成14年1月19日(土)
常任幹事会:午後2 : 00〜3 : 00
全国幹事会:午後3 : 00〜6 : 00
・場 所:東京駅ルビーホール(12F)
東京都千代田区丸の内1-9-1 TEL: 03 3211 5611<
[お知らせ-7]
◇第13回日本臨床微生物学会総会のお知らせ
会 期:平成14年(2002年)1月25日(金)、26日(土)、27日(日)
会 場:江戸川区総合区民ホール
〒134-0091 東京都江戸川区船堀4-1-1 電話03 5676 2211
総会長講演、教育講演(医療行政・保険の流れと臨床検査、成人肺炎の検査、創薬パラダイムの変化と革新)、シンポジウム(感染症検査に最低限必要な微生物検査、院内感染対策) 教育セミナー:学会員が知っておきたい感染症に関する法律)、特別企画:認定臨床微生物検査技師制度をめぐって、他が予定されております。詳しくは関連のホームページ (
http://cmj.umin.ac.jp/) をご覧下さい。
第13回日本臨床微生物学会総会事務局
〒105-8461 東京都港区西新橋3-25-8
東京慈恵会医科大学臨床検査医学講座内 保科定頼
TEL: 03 3433 1111 内線2292, FAX: 03 5401 0467
E-mail: mec@jikei.ac.jp
[お知らせ-8]
◆会員動向
2001年12月25日現在 会員総数 601名,専門医 426名
《入会》3名
笠島 里美 金沢大学大学院分子細胞病理学
佐藤 忍 横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター内分泌糖尿病内科
神田 晃 秋田大学医学部臨床検査医学講座
《退会》8名
福武勝博、平山牧彦、市田篤郎、清瀬闊、外間政哲、川井一男、大久保光夫、江崎幸治
[ニュース-1]
◆東ヨーロッパでエイズの流行が急速に進行
〈Press November 2001 WHO-154〉
東ヨーロッパのHIV感染者は急速に増加している。数字でみると過去3年間、ロシアでは75,000名と15倍に増加した。HIV感染者は東ヨーロッパ全土に拡大し、2001年だけでも25万の新患者が発生している。アフリカでも流行し、2001年には340万のエイズ新感染者が発生し、230万人が死亡している。スワジランド、ボツワナ、南アフリカの一部では、妊婦の30%がHIV陽性である。西アフリカで最も人口の多い国家 (ナイジェリアを含む)は、以前エイズの低感染国であったが、現在は感染者が5%以上に増加した。
先進国ではエイズの治療が進んでいるが、予防が遅れているため、危険な性交渉が増加し、HIV感染を含む性行為感染症が増加している。一部の国で予防対策が実施されているにもかかわらず、アジアではエイズ感染者数が増加し続け、新感染者は100万人に達した。
サハラ砂漠以南のアフリカ諸国では、2020年にはエイズのためにこGDPが20%の低下すると予想されている。また、多くの国で教育システム、住民管理、公共医療サービス、農場などに対しエイズが重大な影響を与えている。今後、若年者間のHIVの広がりを効果的に防止するためのプログラムを早急に取り入れるのことが重要である。
20年間のエイズの流行にもかかわらず、数百万人の若者は、エイズの流行を知らない。多くの人がエイズという言葉を一度も耳にしたことがない。エイズ感染を防止するために、エイズの情報と適切な性交渉を若年者に提供することが重要である。
[新規収載検査-1]
平成13年12月1日より適用の血液化学検査
1.ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)(準用先区分D007−33)(区分D−2)
保険点数:230点 定性検査
カットオフ値:6.2ng/mL未満
直線性:2,000 ng/mL
製品名:ラピチェック H-FABP
製造元:湧永製薬(株) TEL:06-6350-3555
発売元:大日本製薬(株) TEL:06-6386-2164
測定法:免疫クロマトグラフィー法 5テスト/キット(シングル測定)
結果が出るまでの時間:15分 自動化:不可
検体:全血(EDTAまたはヘパリン使用)
【特徴】全血を血液滴下部に滴下すると、血球分離膜で血球が分離され、血漿がストリップ上を展開する。金コロイド標識抗H-FABP抗体とストリップ上に固相化された抗H-FABP抗体により、血漿中のH-FABPとサンドイッチ状の免疫複合体が形成され、現れる赤紫色の線を肉眼的に検知する。
急性心筋梗塞(AMI)は治療開始までの時間が大きく予後に影響することから、早期診断が重要である。胸痛を有し、AMIが疑われる患者は心電図や心筋傷害マーカーの検査により診断される。しかしながら、発症早期においては従来からある検査による診断精度には限界があり、より早期に精度良く診断できるマーカーが望まれていた。ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)は、心筋細胞の細胞質に比較的豊富に存在する低分子可溶性蛋白で、心筋虚血障害を受けると速やかに血液中に逸脱する蛋白であることから、胸痛発症後3~12時間のAMIの早期診断に有用である。既にELISAによるH-FABPの測定が保険適用(平成11年1月)され、臨床的に利用されている。本キットは、H-FABPを特異的に認識する2種のマウスモノクローナル抗体を用いた免疫クロマト法を検出原理としており、特別な機器を必要とせず、全血150μLを滴下するのみの簡易な操作で短時間に全血中のH-FABPを検出することができる。本キットは、従来のELISA法に比べて簡易性・迅速性に優れたPOCTであり、緊急検査として循環器救急あるいは外来診療において実施できる。
本法と他法(マーキットH-FABP、ELISA法)とを比較するとそれぞれ、有病正診率は94.3%(66/70例)、88.6%(62/70例)、無病正診率は50.0%(19/38例)、57.9%(22/38例)であった。
AMIの診断についてH-FABP、ミオグロビン、トロポニンT、CK-MBの有病正診率を比較すると、それぞれ94.3%(66/70例)、52.9%(37/70例)、48.6%(34/70例)、30.0%(21/70例)となり、無病正診率は50.0%(19/38例)、78.9%(30/38例)、89.5%(34/38例)、94.7%(36/38例)となった。
【保険請求上の注意】ただし、ヒト心臓由来脂肪酸結合蛋白(H-FABP)と同区分の「33」のミオグロビン精密測定を併せて実施した場合は、主たるもののみ算定する。
【文献】Watanabe T, et al.: Development of a simple whole blood panel test for detection of human heart-type fatty acid-binding protein.
Clinical Biochemistry, 34: 257-263, 2001.
[新規収載検査-2]
平成13年12月1日より適用の腫瘍マーカー
1.乳頭分泌液中CEA精密測定(準用先区分D009−17)(区分D−2)
保険点数:360点
基準範囲:400ng/mL以上陽性
測定範囲:100〜1000ng/mL
製品名:ラナマンモカード CEA
製造・発売元:日本化薬(株) TEL:03-3237-5225
測定法:免疫クロマトグラフィー法 5テスト/キット(シングル測定)
結果が出るまでの時間:15分 自動化:不可
検体:乳頭分泌液
【特徴】試験紙中の金コロイド標識抗CEAモノクローナル抗体(マウス)は、検体中のCEAと反応して複合物を形成する。この複合物は下流の抗CEA抗体(ウサギ)を固定した判定ライン上に補足され、検体中のCEA濃度に応じて、濃さの異なる赤紫色の着色を呈する。
「ラナマンモカード CEA」は、イムノクロマトグラフィー法により乳頭分泌液中のCEAを測定し、乳癌の早期診断に用いられる。乳頭異常分泌は乳癌、乳管内乳頭腫、乳腺症などの乳管増殖性病変に対する臨床像の一つである。特に腫瘤を触知しない無腫瘍性乳癌で、乳頭異常分泌液中のCEAを測定し、癌を発見することが多い。400ng/mlをカットオフ値とすると、有腫瘤性乳癌の陽性率は43%(13/30)、無腫瘤性乳癌の陽性率は73%(22/30)であった。無腫瘤性乳癌について比較すると、乳頭異常分泌中CEA、マンモグラフィー、乳管造影、乳頭分泌液細胞診における有病正診率は、それぞれ73%、9%、39%、29%であり、無病正診率は91%、85%、84%、99%と他の方法と比較し良好であった。すでにEIA法を測定原理とする持田製薬(株)の「マンモテック」が平成3年7月に保険適用を受けている。本キットとマンモテックとの相関係数は、y=0.984x+2.21で、相関係数は、r=0.9879と良好であった。測定時間は15分と短く、試験紙上に現れた赤紫色のラインを目視で判定する。本法と他法(マンモテック)を比較すると有病正診率は64%(7/11例)、73%(8/11例)、無病正診率は100%(24/24例)、96%(23/24例)であった。
【保険請求上の注意事項】乳頭異常分泌患者に対して非腫瘤性乳癌を強く疑って、乳頭分泌液中のCEAを測定した場合に算定する。
【文献】西 敏夫,他:乳頭分泌液中CEA測定の新しいImmunochromatographic assay法の検討.第9回日本乳癌学会 総会プログラム・抄録集,A-172,2001.
[声の広場-1]
第9回ISQCを終了して
2001年11月2〜3日第9回ISQC国際会議 (The 9th International Symposium on Quality Control and Management; global standardization and advanced quality management) は1974年に第1回が東京で開催され我国の臨床検査標準化に大きな足跡を残してきたものであり、その第9回が管野剛史教授(浜松医大)会長の下、2001年11月3〜4日に大阪千里ライフサイエンス・センターで開催された。当日は海外12カ国から26名が参加(うち3名の方が世界貿易センター・テロ事件で欠席)され、わが国の参加者を含めると総計246名が集まる盛況であった。そこでは、菅野教授が「外部精度管理用生物学的酵素標品」について会長講演、河合忠国際病理センター長が「臨床検査におけるISO標準」について講演され、カナダのI. Wilkinson先生が「臨床検査の経済性」に関して教育講演された。
シンポジウムとしては、「臨床検査における最新精度管理法」として川崎医大市原清教授のご司会で、英国Shinton先生以下3名の方が、「感染症の管理と標準化」としては京都大学一山智教授のご司会で、東北大学賀来満夫教授以下3名の先生が、「POCTと関連項目の精度管理」としては筑波大桑克彦教授のご司会で、Mount Sinai病院のE. Jacob先生以下3名の先生と、追加発言として聖路加国際病院の村井哲夫先生がそれぞれ話された。ワークショップでは慶応大川合陽子助教授のご司会で東京大北村聖助教授を含む2名の方がフローサイトメトリーに関しての最近の精度管理事情を話された。
最新トピックスとしては2題が用意され、オランダのIsala KlinikenのK. Miedema先生が「HbA1cの国際標準化」、Sloan Kettering研究所のM. K. Schwarz先生が「遺伝子検査の精度保証」について解説された。一般演題は口演とポスターで計42題、全てが素晴らしい内容のものであった。
本会の盛り上がりは、プログラム委員長である昭和女子大戸谷誠之教授の企画のよさによるものであると判断された。有意義で、かつ実り多い2日間の本会議を無事終えることができたのは、ご後援いただいた国際試薬株式会社と日本臨床検査標準協議会(JCCLS)のお陰であり、本紙面をお借りして深謝いたします。
(組織委員長 大阪市立大学 巽 典之)
[声の広場-2]
若い臨床検査医をどう増やすか
山梨医科大学検査部で勤務を始めて、14年になる。血液内科医としてしばらく臨床をやった後に、好中球の研究を数年して何とか好中球研究の嗅覚というか、どのような課題をやれば研究として面白いのかが分かりかけた頃、血小板研究で有名な山梨医大の久米教授から呼ばれた。“君が好きなことをやればよいから”との甘い言葉につられて来たのはよいが、いつしか血小板の研究が中心になってしまい、完全に久米教授の罠にはまった感がある。
このような経過で、山梨医科大学では今も血小板、内皮細胞等血栓に関係した研究を続けているが、現在最も気がかりなのが、若い検査医、研究者の養成である。山梨医科大学で臨床検査医学が講座化されて9年になり、これまで幸いに9名の大学院生が入ってくれた。そのうち、4名は中国からの留学生であった。驚くほど優秀な学生も、また同様に驚くほどレベルの低い子もいたが、いずれにせよ皆真面目に仕事をしてくれた。山梨医科大学では大学院生の半数は外国からの留学生であり、特に基礎系では大多数が留学生で、日本人はほとんどいない。このような状態の中で、この9年間で臨床検査医学講座には5名の日本人学生が入局し、大学院生となった。4名は山梨医科大学の卒業生であり、あと1名は富山医科薬科大学の卒業生であった。皆、まず2年間は東京の関連病院で内科研修をした後、山梨医科大学に戻り血小板、内皮細胞機能の研究を開始してもらった。良い研究が次々と実ったのは、彼らの努力の証拠である。
しかし、この数年新しい入局者が途絶えてしまった。私の学生に対するアピール等に問題があることは確かではあるが、このような現象は山梨医科大学のみではないらしい。学生たちは皆世の中の動向に敏感である。少子化の兆候があると、産婦人科、小児科を目指す学生は減る。臨床検査のパイが縮少の一途を辿る傾向は、当然臨床検査を一生の仕事とする意欲を当然削ぐものであろう。また、臨床検査を専門に習得した医師の勤務先は、現在のところほとんど臨床検査医学講座のある大学に限られ、ゆえにポストに限りがある。ある程度の規模の病院にはすべて専門の検査医を配置する制度は、まだ実現には時間がかかりそうであるし、積極的に多くの若い人を勧誘したくとも、将来のことを考慮すると躊躇してしまう。今でも臨床検査を生業とするMDにはかなり高齢化の兆しが見える。この上、若い戦力の供給がなければ臨床検査医会の未来はない。
このような状況において、賢明な諸氏はいかなる方策を考えておられるのであろうか。是非、それぞれの先生方のご意見を伺いたいものである。私はこの頃、臨床検査医としての特徴を保持しながら、検査医が積極的に診療活動をするのが一法ではないかと感じている。山梨医科大学のみならず国立の単科医科大学はスタッフの数に限りがあり、3つの内科ですべての疾患をカバーするのは困難である。実際山梨医科大学には血液内科グループはないに等しい。そこで例えば私の場合は、血液内科学臨床の一環を担う形で臨床に参加し、若い医師たちに臨床検査医学をアピールするのである。臨床検査医学講座が臨床科として患者の治療に当たっている大学が既にあることは知っているが、どのような状況なのであろうか。これから十分に検討すべき課題と考えている。
(山梨医科大学臨床検査医学 尾崎由基男)
[声の広場-3]
優秀なIT革命最前線
JACLaP NEWSから6月頃にe-mailで原稿の依頼がきたが、スッポカシてしまった。私にとってはパソコン(PC)は得意ではない。まずPCの字が小さく、また薄い字体で良く見えない。さらデイスプレイを見ていると初光体の刺激で網膜が侵されるのだろう、元来目が悪い上に近眼と老眼が加わり若い人の4倍以上は疲れる。長い文は普通はプリントしてから見ることにしている。PCの前に長く座り続けることはまずない。5分も座っていれば、電話や事務連絡や外来者がくる。アポイントもなくくるので困る。文章等を書いているときは何を考えていたか忘れてしまう。中断すると、省エネ対策のため、画面は消えてしまう。満田先生からは題名は自由とのこと。つまり、なくても良いので、Yesと返事をしたらしい。テーマのない原稿も書きにくいものである。文筆家は何時も考えながらメモし、また、記憶力も良いらしく、余り苦にならないようである。何を書こうかと考えているうちにこのような文章で誤摩化すことにした。私の癖だろうが、学会、大学、病院、医学部、検査部、輸血部、県、市の行政、医師会、技師会の委員会や協議会等々日時順に依頼状を積んでおく。しかし、また、頻繁に日時の変更、延期、中止の通知がくる、それが、電話、FAX、e-メール、郵便と様々である。郵便が一番確実かもしれない。私の机の上のスケジュールに入っていないと、カレンダーにも手帳にも書き込まれないため、忘却の彼方となる。e-メールは2週間で自動的に消えるシステムにしている。二度目の催促のメールは字化けして、分からないよと返送した覚えがある。そのe-メールのコピーは取って置かなかったと思う。先月ぺンシルバニア大学の教授からのメールでも、彼のPCは古いからと言ってFAXも送ってきた。信用していないらしい。最近の郵便物は比較的速くはなつたが、大学では機能していない。FAXもどういう関係か分からないが関係のないところにもいくらしい。大学に何百台あるか分からないが、私宛てのFAXが他部局から親切にも転送してくれることがある。私の方では、発信人や受信人が不明の場合は没にしている。なにせ、紙屑が多すぎる。FAXやe-メールは不在の場合は電話同様役立たないが、後で処理できる。電話は最近DIとなり、私に繋がるのは稀である。こちらから掛けるときも同様で、何回掛けても繋がらないと、後回しで、忘れてしまう。流行りの携帯電話は持たないようにしている。IT革命は、医療の世界にも導入され有効利用されている。大学内の事務通信もメールで行われているが、ほとんどの教授は見ていないのに気付いたらしく受信確認のマークを付け、クリックするようになった。
(熊本大学臨床検査医学 岡部紘明)
[声の広場-4]
独立行政法人化における国立大学病院検査部の
あり方を考える
思いもかけなかったことが起こりつつある。日本経済の低迷が、人間に問題あると思ったのか、日本政府は、戦後50年にして、高等教育改革に着手した。平成16年度から、99国立大学を、研究・教育大学、教育専門大学、民間払い下げ大学に3分類するらしい。国立大学病院も当然のことながら、3分類されるだろうし、このような状況下で、「国立大学病院の検査部はどうあるべきか」と、検査部長としての責任の重大さを感じる昨今である。ある有名な会社の重役さんの「企業においては、人間が大切だ。万策尽きて、従業員のリストラを考える。平常時には無能力と言われている人が、非常時には猛烈な能力を発揮することがある。機械ではそれはできない。」という言葉が忘られない。独立行政法人化後の検査部の未来を切り開くのは我々人間であり、決して大金をかけて構築した自動検査システムではない。
1) 検査医とは?
私は、機械より人を取る。検査の担い手である、検査医と臨床検査技師について、「検査医は、何をしているのか? 検査医のIdentityは? 」と言われて久しい。
私自身、内科医から検査医に転向し、「検査医は、検査や病気の診断はできるが、治療の手段を持たない」のが自信を持てない原因の一つと考え、教室員に実際に患者さんを診察させ、「検査的治療法」を模索している。毎年、1回、開催される「国立大学検査部会議」でも、数年間、検査部の診療を検討したが、まとまらなかった。基礎医学出身からの検査医は、「診察する必要なし。検査に専念し、病態解析について探究すべし。」と主張される方が多い。一理ある。最近、文科省の大学院大学の条件についての文章を読んでいると、「基礎医学の研究成果を臨床医学に活用できる能力者を養成できる」という文言があった。まさに、我々、検査医は、基礎医学を臨床医学へ、検査を通じて活用し、患者さんのために役立つことを目標にすべきかなと思ったりもする。
2) 臨床検査技師とは?
私たちが大学を卒業したときは、検査は医者のするものであった。何時の頃からか、看護婦さんが手伝ってくれ始め、そして、検査は、看護業務の一つとなった。次いで、検査は、検査項目が増えその後多用化に伴い、検査は臨床検査技師に委ねられるようになった。ぼやきになるが、LASとかLISとかの検査の自動化システムは、科学技術の象徴のような評価も受けたが、結果的には、検査技師の価値を下げ、医療費の高騰の一因と言われるようになった。検査を愛する有能な検査技師の最近の傾向は、機械が苦手とする病理検査や微生物検査領域を希望する。21世紀の新しい検査体制を目指して、検査技師教育の改革が必要と思う。Clinical Pathology からClinical Laboratory Medicine に変革したのだから、それにふさわしい学問体系を完成させたいものだ。
(広島大学医学部附属病院検査部 神辺眞之)
[声の広場-5]
SNPによる疾患感受性診断
多因子病の疾患感受性を遺伝子多型、とくにsingle nucleotide polymorphism (SNP) が決定しているという仮説のもとに、現在SNPと疾患との関連解析が盛んに行われています。2つのアプローチがとられており、1つは以前より行われている候補遺伝子アプローチです。これは解析する遺伝子を対象疾患の病因・病態に密接に関連するものに絞る方法で、現在発表されつづけている膨大な関連解析論文のほぼ全てがこれに相当します。研究ごとの再現性が問題視されますが、病気の基本的表現型は人種間で差はありませんので、SNPが疾患感受性に関連するなら、人種間でも共通のSNPが見つかるはずです。実際、アルツハイマー病とApoE4との関連は人種を超えて再現性が認められていますし、そのような本質的なSNPが徐々に見つかってきています。
一方、候補遺伝子アプローチでは時間がかかりすぎるということで、網羅的アプローチが試みられています。産学官一体となって大規模な予算のもとにSNP解析が行われているのはご承知のとおりです。先日の臨床検査医学会総会でも、イブニングセミナーで理研の心筋梗塞チームの田中先生が研究成果を披露されていました。彼らのアプローチは、イントロン領域は捨てて、コード領域を中心に15万のSNPを1,000人の心筋梗塞患者で検討するというものです。1,000人というのは、オッズ比が1.5〜2.0程度の関連を明らかにするには500〜1,000例の解析が必要との根拠に基づいています。しかし実際に15万の1,000倍は1億5千万ですので、1億5千万回のSNP解析を行わねばなりません。1 SNP あたり安く見積もって10円かかるとしても15億円を要しますし、基礎的検討などを含めるとさらに費用は膨らむでしょう。現時点では100例を対象にしてスクリーニングを行い、まず関連の強いものを拾い上げる作業を進めているようです。これまでのところ 3,000 SNP をスクリーニングして1つだけ強い関連を示すものが見つかったそうです。15万を3千で割ると50ですが、田中先生は、最終的に残るものは数個から多くても10個以内だろうとの印象を述べていました。
SNPは集団の 1% 以上に見出されるありふれた遺伝子変化ですので、これらが疾患感受性に関与するとすれば、これまでの膨大な関連解析結果からも、個々のSNPの寄与度がそれほど大きくなることは考えにくい。また、SNPと疾患との関連解析では、対照集団のとり方に様々な問題があります。近い将来、網羅的研究プロジェクトとこれまでの候補遺伝子アプローチで得られたSNPを、検査でいう基準母集団でしょうか、限りなく危険因子を除いた健常者集団で洗い直す必要があると思われます。さらに、最も重要なことは、ある疾患の感受性に寄与するSNPの組み合わせがわかったとしても、それに対応した適切な予防法が確立されなければなりません。対処のない予知診断では救いがありません。
我が国における網羅的アプローチは、一部の主要疾患を対象として一刻も早く疾患感受性SNPの輪郭を明らかにすることを目指しています。従って、対照集団の検討、詳細な臨床病理学的解析、予防法の研究、検査として適切な検出法の確立等々、我々一般研究者のやるべきことは山積しています。何十台と並んだシークエンサーの写真に惑わされることなく、近い将来の検査法の1つとして位置づけ、積極的に研究に関わっていきたいものです。
(山口大学医学部臨床検査医学 日野田裕治)
[声の広場-6]
ミャンマーでのC型肝炎対策で思ったこと
私は国際協力事業団(JICA)の個別専門家派遣事業の専門家として、ミャンマーにおける「C型肝炎対策」事業の指導を行っています。これは文部省科学研究費での「ミャンマー国肝癌発生要因としてのサラセミア症の鉄過剰症と輸血関連疾患の調査研究」に端を発しています。研究では輸血依存性成人サラセミア患者の 56%、同小児患者の 47% がHCV抗体陽性であることに加え、一般住民で抗体陽性者が 10% 以上と極めて高率であり、WHO統計資料の空白が埋められそうな状況になりました。血液事業が世界水準に比べて遅れていることもわかってきました。すなわち輸血血液の多くが売血に依存していること、成分輸血は行えず血液はガラス瓶で採取供給されていること、血液製剤はHBs抗原とHIV抗体検査は行われているがHCV抗体検査は行われていないことなどが明らかになりました。経済的にはアジアで1・2位の最貧困であり、軍事政権の誕生以来西側が経済支援を控えたことがこの事態を招いたのかもしれません。
事情を承知したうえで、どのような「C型肝炎対策」が行えるかが課題でした。ミャンマー厚生省・国立医学研究所との協議により、血液事業そのものを改善するこがHCV汚染の拡大を食い止める最重要課題であるとの結論に達しました。売血を廃止し、輸血血液をすべて献血に依存する計画が進められました。わが国から献血車を寄贈し、安全確認ができた献血者を登録して、頻回献血に協力してもらう体制が整いつつあります。ここでの最大の問題はHCV抗体検査を1回1ドル以下にできないかという問題でした。この事業に参加していた日赤血液センターの研究員が、これを解決するグッドアイデアを出してくれました。すなわち、PA法によるキットをテラサキプレートで展開し、虫めがねで凝集を判定することにより1回分のキットで5人分の検査ができるという方法です。高度な機器の維持管理は不要であり、検査キットの安定性も正確性も保たれるすばらしい方法です。現在ではこの方法で輸血製剤の安全チェックが行われ、計画が順調に動き出しています。
この事業に参加していろいろなことを考えさせられました。検査キットを分解して現場に見合う検査を開発した時代が日本にもあったような気がします。現在では検査の原理も理解しないで、操作マニュアルさえあれば検査が実施できて検査結果が自動的に出てくる時代かもしれません。わが国の20〜30年前の歩みが今も続いている国があることを実感しました。日本ではなにも役立たないように思える日常的な常識が、発展途上国では国民全体を救うことにもつながる可能性があることを痛感した次第です。最初は出張を敬遠していた自分が、いつのまにかアジアを助けなければならない、われわれにできることはたくさんあると叫んでいる自分に変わっているのを実感しています。
(岡山大学 小出典男)
[声の広場-7]
“容喙…?”「草枕」の傍らで
智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。しかし、角が立つのもかまわない、情に流されるもまたよし。しかし意地を通して窮屈なのは困ると還暦を過ぎて六十路を登りながら考えた。
私どもの医学部に附属する病院の一つは、2000年1月“横浜市立大学医学部附属市民総合医療センター”と改称した。長すぎると言うことと“医療センター”の名前はヨコハマ市民にはなじまないとのことで「センター病院」と通称する。しかし横浜市内には1970年創立の神奈川県立こども医療センターがあり全国区である。 病院の英語の名称はYokohama City University Medical Center である。当初、事務当局から示されたのはYokohama City University Citizens’ General Medical Center であった。横浜市の国際室、横浜市立大学の英語学の先生のお墨付きもあるとの説明があった。これにはさすがに温厚なgentlemanで知られる、ドクター連中も全員反対し、上記の名称となった。
2000年8月、日本臨床病理学会は日本臨床検査医学会と名称を変更した。臨床検査医の集まりは臨床検査医会。日本臨床衛生検査技師会の学会は日本医学検査学会である。
臨床病理学会が臨床検査医学会になった本当の理由は良く知らないが、世界的にClinical pathology がLaboratory medicine に変わりつつあることを受けてと聞いている。巷の噂では病理学会との類似性のため“官“の指導があったとも聞く。別に反対と言うわけではないが何か釈然としない。一種の創氏改名である。学会のポスターなどをみると日本医学検査学会と混同しそうである。因みにOfficial Journal の名は“臨床病理”のままである。
臨床検査医のidentityが問われる。先の学会(第48回日本臨床検査医学会,2001年,8月,横浜)でのシンポジウム「日本のAP. CP卒後教育カリキュラム」では生理検査の教育は全く触れられなかった。私どもの検査部の生理部門は、独立した機構となった病理部、輸血部より規模が大きい。臨床検査専門医の受験者が増えているのは喜ばしいが、内科医、病理医の割合が余り多いのは如何なものか。検査医のするNeben Arbeit は“内科”診療であることが多いときく。臨床部門の医師で自分の専門領域で生業(なりわい)ができないのは哀しい。いくつかの大学では臨床検査(医)学の名のもと隠れ名称として、血液内科、内分泌内科、腎内科、感染症内科などを標榜しているという。
学生に未来と、夢を語れないのはさびしい。
兎角に人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引っ越したくなる。無論、上述言が「蜀犬日に吠ゆ」では画にならないことは十分自覚している。
(横浜市立大学医学部臨床検査学 原 正道)
[声の広場-8]
編集後記 〜編集主幹の情報戦略3〜
テキスト入力と録音のノウハウ
最近、若者の視力の低下(近視の進行)・聴力の低下(騒音性難聴)が目立ってきていると言う。視力の低下は携帯メールのやりすぎで、近くを見つめすぎた結果である。駅やバス停で多くの人々が携帯電話の液晶画面にを目前 10〜20 cm の近距離に保持し、盛んに情報サービスやメールのチェックをしている。項垂れて手元の携帯を見つめる姿は、気がつくと身の回りの乗客ほぼ全員となることもあり、メール機能付き携帯を保持していない自分にとっては一種の疎外感すら感じるこの頃である。人々が黙々と液晶画面を見つめているため、静寂のひとときが訪れる異様な空間である。聴力の低下は、電車の中で騒音の音圧レベルに勝る音量でウオークマン式の音源を長時間聴取したことによる内耳有毛細胞の減少によるものである。大音量の内耳有毛細胞に対する可逆性の限界点は、約30分と言われている。アドベンチャー映画やロックコンサートの帰り道に耳がキンキンすることを体験することがあるが、実はあれは内耳有毛細胞が壊れている過程と考えて良い。検査医の先生方が若者同様のライフスタイルを持っているとは考えにくいが、激しい振動・騒音を繰り返す車内は生理的な範囲を超えて視覚・聴覚共に酷使していることは言わずと明らかである。大事に至る前にご注意戴きたい。
著者は幸いにも車での通勤なので、これらで悩むことはないが、仕事中も結構メモ魔なので、あちらこちらでアイデアが思い浮かび、その時点ですぐにテキスト入力をしたい衝動に駆られる。PalmOSのPDAは 150 gr 程度のPDAと僅か 224 gr で4つ織りで畳んで持ち運べるターガス社(http://www.targus.co.jp/)製ストアウェイキーボードの組み合わせにより、僅か 400 gr 以下でフルサイズキーボードでテキスト入力処理が可能となった。しかし平たい場所を確保しにくく、あいにく使用は暗礁に乗り上げた。従って、小型軽量のWindows CEマシンが手放せない。NECのモバイルギアIIは最高である。電池もほとんど気にせず一日中使用できるのが良い。そして、OSがメモリー上に全てあるので、システム稼働にかかる時間は2〜3秒で済むのだ。WindowsやMacのように使い始めに待たなくて良い。一方、学会や会議などの録音に関しては、ペンサイズで僅か 60 gr の東芝製Voice Barなどの電子メモリー録音装置1台で17時間の録音が可能となり、議事録の速記の漏れを補うことが可能となった。録音内容はデジタルファイルでPC上のハードディスクにデジタル情報としてファイル管理ができる。テープもMDカセットも必要なく、必要に応じてCD-ROMに転記して配布可能だ。いやはや便利な世の中になったものである。
(横浜市立大学医学部臨床検査部 満田年宏)
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★JACLaP WIRE No.42 2002年1月7日
★発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
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