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本メールは日本臨床検査医会の発行する電子メール新聞です。
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=========================≪ 目 次 ≫=========================
[寄 稿]◆臨床検査専門医について
[お知らせ-1]◆平成13年度第1回常任幹事・全国幹事会議事録
[お知らせ-2]◆会員動向(現在数593名臨床検査専門医401名)
[お知らせ-3]◆第11回日本臨床検査医会春季大会
[お知らせ-4]◆第15回日本臨床検査自動化学会春季セミナーのご案内
[お知らせ-5]◆第15回サンプリング研究会のご案内
[報 告]◆日医外部精度管理調査シリーズ No.6
[ニ ュ ー ス] ◆ヨーロッパにおける若者の死亡率の第一位はアルコール
<WHOトピックス Press Feb. 2001 WHO-145>
[Q & A] ◆肝機能と赤血球恒数の関係
[声の広場-1]◆21世紀の臨床検査医学を描く
[声の広場-2]◆21世紀の検査医
[声の広場-3]◆大学改革とこれからの臨床検査医学
[声の広場-4]◆臨床検査医に望むこと
[声の広場-5]◆臨床検査医の多様性
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[寄 稿]◆臨床検査専門医について
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日本臨床検査医会
会長 河野均也
遂に20世紀の幕が降り、新しい世紀が始まりました。会員の皆様にはどんな感慨
をもって2001年をお迎えになったでしょうか。昨年は臨床病理懇談会が設立されて
から、50年の歴史を経た日本臨床病理学会がその名称を日本臨床検査医学会へと変
更いたしました。そして、法人化を目指して会則を改訂し、新しい旗印の下に活動
を開始いたしました。
また、今年度から日本臨床検査医会への入会に際してその取得を条件の一つとし
ております、認定臨床検査医の名称が臨床検査専門医へと変更されることになりま
した。これは認定医・専門医制度を敷いている学会が加盟しております認定医制協議
会から、名称の統一を求められたことによります。研修期間5年の学会認定・専門医
については専門医に統一することが要望されたとのことであります。認定医と専門
医のどちらがえらいのかの議論はさておき、専門医の社会的な認知が徐々にではあ
りますが進んでいる現状にあって、臨床検査専門医の果たすべき仕事は何であるか、
今一度問い直す必要があるのではないでしょうか。臨床検査医の勤務先が、我が国
ではほぼ大学に限られている現状にあって、いかに多くの研究業績をあげるかがポ
ジション獲得のために重要な課題となっていることは間違いのないところと思いま
す。しかし、本当に臨床医が必要としている検査医は膨大な数の研究業績を持って
いる研究者なのか、臨床医学に関連した様々な検査の相談役としての医師なのか、
21世紀を迎えてもう一度問い直してみたいものです。我こそ臨床検査医であるぞと
自信を持って言える検査医の仲間が大勢増え、臨床検査医をどう利用したら良いの
かを、臨床医・検査技師・病に悩める患者が正しく理解し、相談が持ち込まれるよ
うになって、初めて臨床検査専門医の社会的認知がなされるものと考えています。
この夢が一刻でも早く到来することを心から願っております。
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[お知らせ-1]◆平成13年度第1回常任幹事・全国幹事会議事録
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日時:平成13年1月20日(土)午後2:00〜5:00
常任幹事会:午後2:00〜3:00
全国幹事会:午後3:00〜5:00
場所:東京駅ビル・ルビーホール
議題:
1. 報告
平成12年度会計報告(高木庶務・会計幹事)
平成12年度の会計報告(別紙1)が報告された。
各種委員会
1) 情報・出版委員会(森委員長)
・会誌について
LabCP19巻1号:2月末締め切り、4月中旬発刊予定。
LabCP19巻2号:10月中旬に発刊予定。
・JACLaP NEWSについて
本年も偶数月に年6回発刊予定。
・WIREについて
Q&Aの回答者を幹事までに拡大する。
質問者を会員(日本臨床検査医会、振興会会員、日本臨床検査医学会)に限定。
2) 教育・研修委員会(熊坂委員長)
・教育セミナー
現在までに56名の教育セミナー参加希望者がある。
第42回〜45回教育セミナーを例年のごとく開催する。
GLMを5月26, 27日に開催する。
3) 資格審査・会則改定委員会(渡邊委員長)
・名誉会員、有功会員の権限や会費などについて会則の詳細をまとめる。
・振興会会員の会則をまとめる。
・選挙管理委員会を始めとする委員会の規定に関して会則を検討する。
4) 渉外委員会(村井委員長)
・平成13年度振興会セミナーを平成13年7月13日(金)に開催する。
内容は今後検討する。
5) 第11回検査医会春季大会(巽大会長)概要の説明
6) 未来ビジョン検討委員会(西堀幹事)
・12年11月に行われた委員会の内容が報告され、速やかに提言書を作成するよ
うに要請があった。
2. 審議事項
1) 平成13年度予算(修正)案
平成12年度の決算に基づく予算修正案が提案され、承認された。
2) その他
・会長選挙について
総会が8月に行われるため、5月中に会長選挙を行う。
選挙管理委員会メンバーとして、水口、宮、西堀、高木幹事が任命された。
・全国幹事会について
8月28日に総会が行われた後に、必要であれば会長が常任幹事会・全国幹事会
を臨時として召集することになった。
・総会での講演会の幹事の選出
渡邊清明副会長と村井哲夫常任幹事が8月28日に行われる総会・講演会の座長
として、講演、テーマ、講演者などをモディレートとすることが承認された。
(事務局長 高木康)
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[お知らせ-2]◆会員動向(2001年2月末 現在数593名 臨床検査専門医401名)
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《入会》(入会手続き順)
中島 収 (久留米大学医学部病理学教室)
谷岡 春彦 (磐田市立総合病院臨床検査科)
板橋 明 (埼玉医科大学臨床検査医学講座)
《退会》
河西 浩一
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[お知らせ-3]◆第11回日本臨床検査医会春季大会
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期日:平成13年4月20日(金),21日(土)
会場:大阪市立大学医学部学舎4F大講義室
大会長:巽 典之(大阪市大臨床検査医学)
―プログラム―
4月20日(金)
1. 特別講演1(17:10〜17:40)
「臨床病理医37年の履歴」
司会:大場康寛(近畿大学)
演者:村井哲夫(聖路加国際病院)
懇親会(18:00〜20:00)
場所:大阪市立大学医学部学舎3F
4月21日(土)
1. シンポジウム(9:10〜11:40)
「最近注目されている専門分野での臨床検査」
司会:中原一彦(東京大学)
細菌学 古田格(近畿大学)
呼吸生理化学 神辺眞之(広島大学)
臨床化学 網野信行(大阪大学)
免疫学 吉田浩(福島医大)
2. 特別講演2(12:45〜14:15)
「私のライフワーク」司会:網野信行(大阪大学)
高橋伯夫(関西医大)
清水章(大阪医大)
熊谷俊一(神戸大学)
3. パネルディスカッション(14:30〜16:30)
「検体検査管理加算と検査医の役割」
司会:三家登喜夫(和歌山医大)
一山智(京都大学)
パネリスト:松尾収二(天理よろず相談所病院)
岡本康幸(奈良医大)
熊坂一成(日本大学)
藤田直久(京都府立医大)
井上健(大阪市立総合医療センター)
佐守友博(日本医学臨床検査研究所)
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[お知らせ-4]◆第15回日本臨床検査自動化学会春季セミナーのご案内
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日時:平成13年4月7日(土)
場所:千里ライフサイエンスセンター
例会長:高橋 伯夫(関西医大病態検査学)
事務局:TEL:06-6992-1001
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[お知らせ-5]◆第15回サンプリング研究会のご案内
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日時:平成13年4月14日(土)
場所:千里ライフサイエンスセンター
実行委員長:古田 格(近畿大学臨床病理学)
事務局:TEL:03-5413-8239
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[報 告]◆日医外部精度管理調査シリーズ No.6
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統計学的分析法の変遷と今後の課題
日医外部精度管理調査の始まりは1967年であるが、全国の検査室が参加するよう
になったのは1971年である。当時の竹見太郎医師会長の意向を受け、当初より参加
施設の精度について評価・評点が行われてきた。
ただ、初期は精度の実態がわからず、手探り的な評価であった。1971年から2年
間は、主要な検査施設を選び、その測定値の平均値(M)と標準偏差(SD)に基づいて、
Mから何SD外れているかで4段階で評点し、その総和で評価する方式が採られた。
以降、目標値としてのMと評価幅としてのSDの決め方は様々に変遷するが、この
評点法は今日も同じである。
1973年から、主要施設に限定せず全体の測定値のMとSDを規準に評価される
ようになったが、測定法間較差の大きさに鑑み、1977年より測定法別のMとSD
から評価されるようになった。
統計処理は、当初測定法間での値の差を有意差検定しその一覧が示されるのみで、
難解なものであった。1989年になり測定法別の箱ひげ図が導入され、ようやく精度
の実態を大まかに視覚的に把握できるようになった。
さらに1994年からは、全点表示方式による分布図が採用され、測定値の実態の詳
細な観察が可能となった。これに伴い、誤登録の存在で評価が偏る、精度の良い方
法と悪い方法とで評価が不公平、などの可能性が明確となった。そこで1996年から
共通CV方式が採用された。これは、精度の悪い測定法を除き、平均的な測定法別
のばらつきをCVの形で求め、それを各測定法のMに適用して評価用のSDを決め
るものである。ただ、Mには極端値に影響を受けにくい反復切断補正法による調整
平均M′が採用され、評価の偏りが防止された。また、精度の良い方法には寛容な
評価が下るようになり公平感も増した。新方式は過去5回の調査で採用され、標準
化に向けた各方面の努力と相まって、ここ数年の明確な精度の改善に貢献したと思
われる。
外部調査管理データの測定値分布は決して単純ではなく、今後も統計処理は常に
その実態を細部まで把握し、常識的な判断に基づいて行われるべきであろう。
(川崎医科大学検査診断学 市原清志)
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[ニュース]◆ヨーロッパにおける若者の死亡率の第一位はアルコール
<WHO トピックス Press Feb. 2001 WHO-145>
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ヨーロッパにおいて15〜29歳の男子死亡率を見ると4人に1人はアルコールに
関連した疾患であった。東欧ではその比率は3人に1人と高くなる。ヨーロッパで
は合計5万5千人の若者が1999年にアルコール関連疾患で死亡している。過去10
〜15年間にわたりアルコール販売市場で若者が標的になってきた。WHOではアル
コールのモニタリングシステムを各国で立ち上げることとし、アルコールの消費、
アルコールによる障害、アルコール飲料の流通などを調査し、若者の健康を守るこ
とにしている。
(獨協医科大学越谷病院臨床検査部教授 森 三樹雄)
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[Q&A]◆肝機能と赤血球恒数の関係
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(Q)肝機能が悪く総ビリルビンが高値の方で、赤血球恒数MCHが36pg以上、M
CHCが36%以上になるのはなぜですか?また、高ビリルビンの場合、血算計での
赤血球の溶血不良が原因でMCHやMCHCが高値になることがあると聞いたこと
があるのですが、溶血不良がおきればHbの値は真の値よりも低値となり、MCH
やMCHCも低値になるのではないかと思えるのですが、いかがでしょうか。
(東京都 臨床検査技師)
(A)赤血球恒数のうちMCH(mean corpuscular hemoglobin), MCHC(mean
corpuscularhemoblogin concentration)はそれぞれ、MCH (pg) =10 x
Hb/RBC、MCHC (%) = Hb/Ht、の数式で示されます。
自動血球計測装置ではRBC (上式では106/mm3)、Hb (g/dl), Ht(%)が実測
されて、その値から各指標が算出されます。
これらの実測値で最もビリルビン高値(20〜30mg/dl程度)が影響を受け易い
のがHbです。Hbは赤血球を溶血させて、溶液中のヘモグロビンを化学的にシアン
メトヘモグロビンなどに変換して適切な波長(シアンメトヘモグロビン法では
540nm)の透過光の減少(吸光度)を指標に測定されます。ビリルビンの色素はヘ
モグロビン同様に、この波長の透過光を減少させる(吸光度を上昇させる)影響が
あります。このために、ビリルビン高値では、Hbが高く測定されてしまうために結
果として赤血球恒数の中でMCH, MCHCが高値となってしまうのです。
自動血球計測装置では主として低浸透圧溶液の中に赤血球をさらすことで溶血さ
せて、そのHbを測定するわけですが、肝機能が悪く総ビリルビンが高値である人
の検体中の、target cells (標的赤血球), thin cells (菲薄な赤血球)などの中には、
低浸透圧でも溶血し難い赤血球があります。そのような溶血されにくい赤血球の割
合は、全赤血球に対して少ないために、壊れなかったHbが差し引かれてHb低値を示
すことは少なく、むしろ、残った赤血球による濁度(溶液の濁り)が吸光度への影
響を及ぼす、つまり、濁りによる吸光度の減少(吸光度の増加)がおこることの方
が多いのです。結局、Hbが偽性上昇してビリルビン高値の時と同様にHbの値は真
の値よりも高値に、MCH、MCHCは誤って高値となってしまいます。蛇足ですが、
同様にMCH, MCHCが誤って高値になる(偽性上昇する)原因には、Hbの偽性上昇
をきたす他の場合、つまり、著しい乳び血清(中性脂肪1,000mg/dl以上)、クリ
オグロブリン、白血球数が5万/ml以上や、ヘマトクリットの偽性低下をきたす場
合(ただし、MCHCのみ:赤血球凝集、小赤血球、試験管内溶血など)があります
のでご注意ください。
参考文献:第4章血液検査、p272〜5、臨床検査法提要(第31版)金井編、
金原出版。
回答日:2001年1月31日
回答者:自治医科大学臨床検査医学教室 臨床検査医 久保信彦
[ホームページ/臨床検査ネットQ&A(血液検査)](ID 20010118)
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[声の広場-1]◆21世紀の臨床検査医学を描く
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医学の進歩と臨床検査は当然連動する。したがって、医学がどのように進歩する
かを考えていくことが大切であろう。21世紀中にどのようなことが可能になるか
考えてみて、臨床検査の姿を占ってみたい。
まず、がんは予防できるようになり、もしがんになってしまっても、化学療法で
死滅させるのではなく、共存する方向で治療が行われるため、体に優しい医療とな
る。また、動脈硬化も解明されて、予防が完璧に行われるようになり、心筋梗塞や
脳梗塞は激減する。
また、糖尿病などのその他の成人病の解明に伴い、臨床検査がより的確となり、
ロボットによる検査室の管理、センサーとインターネットで患者に近いところで現
在の検体検査と生理機能検査の境はなくなったいわゆる無侵襲検査が行われ、デー
タはすべて検査室に送られて管理される。検査はすべて均一で世界中どこで行って
も同じデータがでるようになっていて、その解析結果から患者の異常箇所がたちど
ころにわかる。しかも、臨床検査は血液検査や尿などの検査も一部は行われるが、
直接細胞内あるいは組織内の情報を得るためのものになり、より的確な検査となり、
検査の組み合わせにより的確な診断はもちろん疾患の程度、経過を正確に得ること
ができるようになる。
他人の臓器を移植するなどという野蛮な医療は終わり、必要な組織は幹細胞から
バイオ工場で作られて移植される。脳神経機能も呼吸、運動といった第一次機能に
ついては移植が行われ、人間の人格を代えることなく、機能を復活することができ
るようになる。これらの臓器は臨床検査としての機能的画像診断によりモニターさ
れて、異常がたちどころに判明できるようになる。
感染症は交通手段の格段の進歩で今以上に地球規模で起こるようになるが、抗生
物質などの感染源を殺すが人体にも影響する治療はなくなり、感染源そのものを確
実に殺す治療法が開発されるようになり、それに伴いより的確な感染源の診断が必
要になる。また、各種疾患に罹患した場合の生体反応を知ることにより治療法を変
えるようになるが、このためには漢方医学との融合が進み、相互のよいところを採
り入れて全人的医療として現れると思われる。
学会についても、インターネットの発達により、情報は必要なときにいつでも入
手できるようなるため、学会のあり方も変化する。総会は会員相互の意見交換の場
としてお祭り的要素が強まり、自動翻訳機の発達で国内外の垣根もなくなる。また、
学会は会員のための情報提供の権利を世界中から有料で確保する機関となり、会員
の権利を守るため政府やその他の機関との折衝に当たる度合いを増す。というよう
なことになるかどうか、初夢と思って笑止願いたい。
(臨床検査医学会会長・自治医大大宮医療センター 櫻林郁之介)
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[声の広場-2]◆21世紀の検査医
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今や世の中変革、改革の時代であり、考え方によっては下克上の時代である。医
学界においてもまたしかりである。プライマリーケア、救急医学、また最近におい
ては Evidence-based Medicine が今の医学・医療においてのニーズであることが強
く叫ばれる時代となってきた。しかしよく考えてみるとこれらは医学・医療の原点
であり、これまでやってきていなかったかと言うとそうではあるまい。なぜ医療従
事者として当然しかるべきことが改めて強調されるのであろうか。
学問は発展するにつれ細分化専門化し、新しい学問領域として発展していく。こ
の場合この新しい学問が芽生える基盤となった学問は得手して古い学問として捉え
られる傾向があるのではなかろうか。またこうすることによって医療界、さらには
産業界を活性化するための人間社会学的知的行動現象なのであろうか。世の中のこ
ういった類のものは分散と集合の繰り返しによって変遷していく運命にあるもので
はないのか。今の世の中この変異点に位置するのかもしれない。
そもそも医学はこれまでの概念によって得られるサイエンスとしての領域とは多
少趣きを異にすると考えられ純粋にサイエンスと呼ぶにはもう少し時間がかかるよ
うに思われる。ことに医療は Art of Medicine であり単なるサイエンスではない。
人の病気は肉体的な面ばかりでなく精神的面からも由来し、一方が主役であること
もあるが両者が相互に関連影響し合い、幾つかの相反する有機的機能のバランス調
節作用を行っているがその不調が病気を生じさせているのではないか。この機能の
評価にあって、単にWHOが提唱する「健康とは」の定義の概念をそっくりそのま
ま新生児から高齢者にまで適応することは無理があるように思われる。健康は人間
としての一連の全体的な生命活動のプロセスの中で理解されねばならない。つまり
人間を地球上の生物の一員として考えるならばそこには自ずと生と死があり、老化
がある。そして広大な宇宙でも稀な美しい惑星である地球に棲む生物界における宿
命があるはずである。医療は地球上に生を得た生き物としての人間個人それぞれの
天寿をまっとうさせるための手助けとして基本的に機能すべきものであるべきであ
る。
臓器移植、生殖医学、医療全般にわたるバイオテクノロジーの驚異的進歩は近い
将来、人類がコントロールできない様相を呈するようになるのではないかと強い危
惧を抱かせるものである。いかに人間としてのモラルが強調され、法制化されたと
しても人の最も醜いところが浮き彫りにされるであろう。これらのビッグサイエン
スは人類が予想できないような光と影をもたらすことは歴史的にも明らかである。
このような状況下と将来的展望の中にあって検査医はどうあるべきなのであろう
か。病める人を前に検査医として有能なリーダーとして臨床経験の重要さもわから
ないでもないが、これまでの延長線上の忙しい医療現場にあって、また熟練すれば
するだけ自分の医療能力の未熟さや一筋縄では治療できないことや人それぞれに最
適の治療法があるであろうことなど難しさを強く感ずるのではなかろうか。現在の
医療は病気を直すと言うには多少おこがましく患者さんの回復力の強化へのお手伝
いをしているにすぎないのではなかろうか。医療においてもその時代では最先端で
最良の方法とされても時代が変わればそれは最悪の方法とされているケースがいく
つも散見できるではないか。最善の臨床上の処置といえども永久的に正しい医療行
為をしているのではなくその時代に受け入れられやすい医療をしていることになり
はしないか。大規模な疫学的調査から得られ、治療上の大きな指針となるデータは
これからもずっと適応できると考えられるか、世が変われば病気も変わるのである。
したがってその発生率も変るのである。
要は医療は医療従事者にも患者さんにも言えることであるが精神的要因が大きく
加わった面が大きく人間社会生態学の基盤に立った医療を担当していることをもっ
と強く自覚しなければならないのではないか。こう考えると現在の臨床知識も絶対
的処置ではなく、もっと根本的に言えば世が変われば病気もその治療法も変わるの
である。
限られた紙面であるので多くを述べることはできないが検査医は臨床検査領域の
日常の診療業務において優れたコンサルタントであることはもちろんであるが、も
っと大局的に、もっと本邦にマッチした臨床検査のあり方や考え方をアピールする
集団でなければならない。そうでなければ医学界でその存在と必要性をアピールす
ることができないのではと思う。例えば1)精度管理、精度管理と呼ぶこと久しいが、
日常検査のビリルビンとコレステロールの測定精度を同じCV値で評価するのが正
しい判定なのだろうか、これで他の分野の医療従事者を十分納得させ得たのか。2)
臨床検査の精度管理上重要な基準物質を全国的に同一規格で製造し安価で配布する
よう、例えば血液銀行などとの協調などその組織を含めて目的達成のため具体的行
動をしたであろうか。3)最もEvidence-based Medicineに近い領域とも考えられる
臨床検査医学では Evidence-based Medicine ではなくInsight-based Medicineを
主張すべき集団ではないか。
検査医としてのあり方、考え方についてそれぞれに自論があると思われるが自分
なりに最適と思われる論理的医学生物哲学をもとに診断学的役割を演ずるのみで終
わることなく診断学を含め医療のあり方や考え方に影響を及ぼす医療知能集団であ
りたいと願うものである。
(鳥取大臨床検査医学 猪川嗣朗)
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[声の広場-3]◆大学改革とこれからの臨床検査医学
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日本臨床検査医会会誌編集部から、上記のタイトルで、寄稿依頼をいただいた。
ちょうど、11月30日の JACLaP WIRE に本検査医会の渡辺清明副会長が「臨床
検査医と研究」と題して持論を述べておられ、同感!、同感!と頷きながら読ませ
ていただいた。この話も同じような要旨になるが悪しからずお許し願いたい。
私の医学生時代は臨床検査医学講座はなく、独立した講義も試験もなかった。強
いて類似した講義をあげると内科診断学が現在の臨床検査医学の講義に近いのかも
しれない。一方で、九州大学医学部附属病院には昭和32年(1957年)に検査部が
設立されている。私は学生時代に臨床実習でローテートした覚えがある(推測する
に昭和41年のはずである)。検査部の臨床実習でなにをさせていただいたか全く覚
えていない。その後、私が生化学の大学院学生のとき、病院検査部専任責任者のポ
ジションが教授職になり、あの有名な大河内一雄先生が赴任されたのは覚えている。
その後、縁があり臨床検査医学の領域に参加させていただくまで、私の頭の中で臨
床検査医学を意識したことはない。しかしながら、私が生化学の大学院を専攻した
のは「経験に頼るのではなく、科学的に疾病を眺め、治療したい」と考えたからで
ある。卒業後、18年余にわたって生化学に専念していた私に臨床検査医学領域から
のお誘いがあったとき、私は初心を思い出し、この領域が医学部卒業時に思い描い
ていた領域だと喜び勇んで参加させていただいた。以後、約15年経っている。
私は「診断学」と「生化学(生理学)」とが上手く融合した領域が臨床検査医学
の姿ではないかと考えている。最近、EBM (Evidence Based Medicine) という言葉
がもてはやされている。経験のみではなく事実に基づいて診断・治療を行おうとす
る思想であり、もっともな考え方で納得がいくものである。しかしながら、経験に
頼った医療を行うのでなく、検査(Evidence)に基づいて診断・治療を行うべく設立
された領域が臨床検査医学である。世間の流行を追う意味で使用しているのならば
それはそれだと考えるが、臨床検査医学の内部の人々が、新しい方法としてEBMを
考え、EBLM (Evidence Based Laboratory Medicine) などと、本気で、唱えている
としたら、笑止千万であり、今まで、「何を考えて臨床検査医学をやってきたの
か?!?」と、問いかけたくなる。臨床検査医学は経験ではなく事実に基づいて診
断・治療を行う学問として設立された学問領域なのだからである。臨床検査医学か
ら眺めたEBLMの本質は、なかなかEBMの精神が伝わっていない臨床家により解
釈がしやすい(すなわち、本質をついた検査法を)検査方法を開発し提供すること
である。
臨床検査医学にいる我々は目先の困難ばかりに目を向け悲観的な不毛な論議を続
けるのではなく、その学問領域設立の基本的思想に立ち返り(EBMと言ってもよい
が)臨床検査医学の存在価値を示さなければならない。医学の将来は、臨床検査医
学領域にいる我々の双肩にかかっている。すでに開発されている臨床検査は適切に
利用されなければならない。その基本が精度管理である。また、経験ではなく事実
に基づいて診断・治療をするためには、経験に頼る部分をできるだけ少なくするよ
うな新しい検査法を開発していかねばならない。
生命の仕組みをすべて科学的に理解することは人類にとっては永遠のテーマであ
り、臨床検査のみで病気の診断が完全に科学的にできるとは思えず、経験的に医療
を行わざるをえないわけであるが、生命科学研究を通して、また、日常の臨床検査
の中から“明日の検査”を創っていくのが臨床検査医学の非常に大きな役割である。
臨床検査医学は医学・医療の骨幹を支える学問領域で、臨床検査医学は医学そのも
のである。「臨床検査医学の将来は前途洋々」たるものだと、私は心の底から信じ
ている。世界に誇る“明日の検査”をできるだけたくさん医学・医療の世界に発信
していくことで医学における確固たる地位を占めることが可能になる。日常検査の
領域では不合理な検査結果に出会ったら、できる限りその矛盾にかかわることが新
しい検査や病因・病態解析に結びつくのであろうし、生命科学の基本的機序を可能
な限り解き明かすことで“明日の検査”ができてくる。このように考えてくると、
臨床検査医学領域は奥行きの深い、たいへん魅力的な領域である。
現実に目を移すと、このような魅力的な臨床検査医学にするには、日本の現状は
少し寂しいものがある。臨床検査医学の骨幹は生命・疾病の科学的分析である。科
学的な分析のための診療ももちろん必要であるだろうが、それを活かす広義の分析
科学を盤石なものにしなければ、臨床検査医学の存在はない。日本の臨床検査医学
領域の一番の問題点は臨床検査医学を担う若者に対する教育システムの不備である。
これは臨床検査技師養成に限ったことではなく、医学生に対する教育方針にも言え
ることである。技師学生や医学生に臨床検査医学の骨幹を理解させるような教育が
なく、余りにも専門学校的な教育が行われている。その結果の一つの反映として、
臨床検査医学領域に対する理解が不十分なゆえに本来はこの領域に魅力を感ずるは
ずの多くの若い医師、研究者がこの領域に携わる機会を逃している。さらに、日常
検査業務の中では臨床検査技師が科学的分析能力を培う機会を著しく狭められてい
る。人間が創ったルールからなる数学と違って、自然を相手にする医学、医療にお
いては、実践の積み重ねと洞察力に富む観察なしでは、新たな進歩はないはずであ
る。まさに最前線で働く技師・医師・研究者集団の学問的基盤を磐石なものにしな
いと、日本の臨床検査医学の将来はない。早急にこの部分の改善を図る必要がある。
今世紀は生命科学発展の時期と位置づけることができる。1897年にBuchnerが
酵母の抽出液でアルコール発酵が起こることを明らかにし、この実験的証明で生命
現象は化学反応の集積で構成されているという発想が確固たる事実として裏づけら
れた。以後、今日までの生命科学の歴史はそれを一つ一つ証明する歴史であり現在
も続いている。その中で、臨床検査医学は疾病に少し重きをおいている領域である
と私は考えている。医学、薬学、農学、工学などの実学領域では、現業をこなしな
がらその領域の学問的基盤を創っていく必要がある。その中で、各“学界”は学問
的基盤を創造する役割を担ってきた。特に、これからしばらくの間、臨床検査医学
会は、内科学会や生化学会など関連領域学会を巻き込んで、「前途洋々たる臨床検
査医学」を支える学問的基盤をさらに強化する必要があり、その成否がこれからの
臨床検査医学領域の命運を左右することになる。
編集部の主旨「大学改革とこれからの臨床検査医学」とは話がズレてしまったよ
うであるが、大学が改革されようが否か「臨床検査医学」の本質は変わらないよう
な気がする。
(九州大学医学部臨床検査医学 濱崎直孝)
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[声の広場-4]◆臨床検査医に望むこと
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現職から離れて14年、後輩の臨床検査医の動きを専門誌や検査医会誌や
JACLaP NEWS で拝見している。検査の必要性に関して、大学や大病院では十分
に理解しているが、そこに医師、講座が必要か否かについては一部の大学で議論さ
れている。現在の目覚ましい医科学の進歩により、大学院で臨床検査学が20幾つか
の名前で細分化しているが、講座もこのような状況に合わせなければならない。
「臨床病理」誌や「臨床化学」誌の内容は年々低調化というか、英文誌でなければ
評価されない時代であることは常識となっている。臨床検査医の諸君は外国雑誌に
投稿する気概を持って欲しい。
来年、臨床病理と臨床化学が合同で総会を開くとも耳にするが、まさに前進であ
る。この際、自動化学会も合同すべきである。同学院は技師会と協力して新しいシ
ステムを確立すべきである。同学院の試験に使うエネルギーは勿体ないし、技師会
もいつまでも検査医に頼る集団ではない。専門家もすでに育っている。現在、技師
会は臨床各科の専門学会との協議会を作ると聞いている。
臨床病理学会が臨床検査医学会、技師会が医学検査学会と名称を替えたとのこと
であるが、21世紀に向け共に検査医が頑張ってもらいたい。今、我々は病院の臨床
にいかに貢献すべきか、また大学院の一翼に取り上げられる学問に向上すべき、高
度かつ大きな考えを論じるべきときと考える。
(北里大学名誉教授 斎藤正行)
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[声の広場-5]◆臨床検査医の多様性
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昨年はY2K問題で院内にて世紀末を迎えましたが、今年はヒマラヤから荘厳なる
ご来光を拝みました。なんと史上最高の約70万人もの日本人が21世紀の門出を海
外で迎えたそうです。ところで医療関係者はまだしも一般の方々にとって、臨床検
査医の認識度とはどの程度でしょうか。現在、サンケイリビング新聞社の『シティ
リビング』に"CITY健康ランド"という読者からの医療相談に答えるコラムを連載し
ており、主婦と生活社の『すてきな奥さん』でも健康相談の特集記事の際は監修し
ています。プロフィールには当初“日本臨床病理学会認定臨床検査医”とだけ記載
していました。読者から「臨床検査医って何ですか?」という質問が結構あったの
で、今では内科認定医、産業医、体育協会認定スポーツ医なども加えるようにして
います。どうも一般の方々には、放射線は放射線技師と放射線科医なのに、臨床検
査=臨床検査技師のようです。また、麻酔科はすべての病院にあるわけではなく、
しかも術者である外科系の医師が施行する場合も多いのに、一般の方々には認知さ
れています。臨床検査医は幅広い領域に及ぶ検査に従事しているためか、基礎医学
専門の先生から診療一辺倒の先生まで様々な臨床検査医がいて、他科の医師よりは
「○○する医者」という明確な回答がないのかもしれません。昨夏、進化論の島ガ
ラパゴス諸島を訪れ、運よく世界でただ1匹となってしまったガラパゴスゾウガメ
の "LONESOME GEORGE" にも逢えました。ダーウィンは、フィンチのクチバシが
島ごとに違っていることを観察し、自然選択の理論として「種の起源」を発表した
のです。ダーウィンの自然選択説とは、『生き残って次の世代をうむ子は、自然選
択の過程で環境により適応した変異をもち、変異は遺伝によって受け継がれる。個
々の世代は前の世代より適応性を高め、これらの漸進的で継続的な過程が種の進化
の源である。』です。昨年は世紀末と相まって、大学・病院のなかでの臨床検査医
学教室や臨床検査医の存在価値について危機感を抱く声をよく耳にしました。しか
し前述のように様々な臨床検査医が存在しているので、「種の起源」曰く、それぞ
れの環境により適応した変異を目指して21世紀も頑張っていきましょう。私も昨
年4月より新しい島に飛来しましたが、"LONESOME GEORGE" にはならないように、
その島に順応し少しでも役立つように進化中です。
(獨協医大越谷病院臨床検査部 〆谷直人)
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お詫び:WIRENo.35の[Q&A]の中で自治医大臨床検査医学講座の
谷口信行先生の名前をまちがえましたことをお詫びいたします。
★JACLaP WIRENo.362001年03月12日
★発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
★編集:JACLaPWIRE編集室編集主幹:森三樹雄
★記事・購読・広告等に関するお問い合わせ先:
〒343-8555越谷市南越谷2-1-50
獨協医科大学越谷病院臨床検査部気付
e-mail: mickey@dokkyomed.ac.jp
TEL: 0489-65-6798 FAX: 0489-65-4853
★日本臨床検査医会ホームページ: http://www.jaclap.org/
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