JACLaP WIRE No.33 2000.12.07

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   本メールは日本臨床検査医会の発行する電子メール新聞です。なお、配信申込、
  アドレスの変更、配信の停止等は wire@jaclap.org までお知らせください。
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==========================≪ 目 次 ≫==========================
[お知らせ-1]◆第9回精度管理に関する国際シンポジウム(ISQC)のご案内
[お知らせ-2]◆第14回日本臨床検査標準協議会要旨(JCCLS 
[お知らせ-3]◆会員動向(現在 582名)
[お知らせ-4]◆第22回イムノアッセイ検査全国コントロールサーベイ参加募集
[お知らせ-5]◆ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて
[ニュース-1]◆ウガンダにおけるエボラウイルスの流行が確認‐WHOと国際協力‐
        <WHOトピックス Press Oct.2000 WHO-140>
[ニュース-2]◆WHOのヨーロッパ地区委員会が国連と協力して三大殺人病の対策を検討
        <WHOトピックス Press Oct.2000 WHO-141>
[ニュース-3]◆乳幼児死亡率が減少し世界的な目標値を達成
        <WHOトピックス Press Oct.2000 WHO-142>
[Q&A]   ◆抗核抗体の複合パターンでの報告方法について
[Q&A]   ◆ヘパリンについて
[Q&A]   ◆尿中フェノールについて
[声の広場-1]◆コンピュータウイルスに感染して‐駆除法と防御法‐
[声の広場-2]◆検査医業務の難しさ
[声の広場-3]◆検査医に要望すること
 
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[お知らせ-1]◆第9回精度管理に関する国際シンポジウム(ISQC)のご案内
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期 日:平成13年11月4日(土)〜5日(日)
会 場:千里ライフサイエンスセンター5Fライフホール
会 長:菅野剛史(浜松医科大学)
副会長:岡部紘明(熊本大学)
学術組織委員長:巽  典之(大阪市立大学)
プログラム委員長:戸谷誠之(国立健康・栄養研究所)
連絡先:事務局  TEL  078-231-4151
URL: http: //www.isqc.org/
 
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[お知らせ-2]◆第14回日本臨床検査標準協議会要旨(JCCLS)
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 第14回目を迎えた日本臨床検査標準協議会(以下JCCLS)学術集会は、平成12
年8月26日(土)の午後、順天堂大学 有山記念講堂において「外部精度管理調査
の統一化に向けて」を総合テーマとして開催された。例年、本学術集会には米国臨
床検査標準委員会(NCCLS)の会長が来日され、特別講演をして頂くことになって
おり、今回も Dr. Allan F. Andersen 会長に「Healthcare Quality in the U.S.A.」
と題して講演を頂いた。
 また今年度は、日本医師会、日本臨床衛生検査技師会、および日本衛生検査所協
会の現在国内において大規模な外部精度管理調査を実施している3団体のコンセン
サスを得て作業が進められている、外部精度評価の標準化の問題を取り上げたシン
ポジウムが開催された。各演者と講演のタイトルは次の通り。
1. 精度管理の標準化が要求される背景:菅野剛史(浜松医科大学 副学長)
2. 日本医師会精度管理調査と標準化の可能性:中  甫(日本福祉総合医療研究所)
3. 日本臨床衛生検査技師会精度管理調査と標準化:大沢進(千葉大学 検査部)
4. 日本衛生検査所協会精度管理調査と標準化:伊藤喜久(旭川医科大学臨床
  検査医学)
5. 精度管理調査と標準化に要求されるもの:市原清志(川崎医科大学 検査診断学)
6. 精度管理調査と標準化への提案:河合忠(国際臨床病理センター)
 JCCLSの進めている外部精度評価に関する標準化のガイドラインが完成し、周知
されれば我が国の外部精度評価は飛躍的な改革を見るものと期待される。会員各位
にはその内容について厳しいご批判を頂き、より良いものにしたいと考えている。
ご協力をお願いしたい。
 学術集会終了後にはガーデンパレスにおいてJCCLS創立15周年記念の懇親会が
開催され、創立10周年記念行事以降に会長を務められた三輪史朗(沖中記念成人病
研究所)、河合忠(国際臨床病理センター)および菅野剛史(浜松医科大学)の3
氏に感謝状ならびに記念品が贈呈された。
(日本大学  河野  均也  No.39)
 
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[お知らせ-3]◆会員動向(2000年12月06日現在)582名
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−手続き順−
《入会》 福田敏郎 (福岡赤十字病院)
     遠藤久子 (東京大学医学部附属病院分院検査部病理)
     石津英喜 (埼玉経同病院病理科)
     亀井敏明 (山口県立中央病院病理科)
     野島孝之 (金沢医科大学病院病理部)
     日野田裕治 (山口大学医学部臨床検査医学)
     小田桐恵美 (東京女子医科大学中央検査部)
     大田俊行 (産業医科大学医学部中央臨床検査部)
 
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[お知らせ-4]◆第22回イムノアッセイ検査全国コントロールサーベイ参加募集
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 (社)日本アイソトープ協会 医学・薬学部会、イムノアッセイ研究会は共催で、
日本放射性医薬品協会の協賛のもと、第22回全国コントロールサーベイを実施する。
詳細は下記実施案内を参照のうえ、該当する施設は是非ご参加いただきたい。なお、
このサーベイの測定法はRI、EIA、CLIAなどを対象としている。
【第22回イムノアッセイ検査全国コントロールサーベイのご案内】
 (社)日本アイソトープ協会 医学・薬学部会、イムノアッセイ研究会は共催で、
第22回全国コントロールサーベイを日本放射性医薬品協会の協賛のもと下記の通
り実施します。ぜひ、ご参加下さい。なお、このサーベイの測定法はRI、EIA、CLIA
などを対象とします。
 対象項目はホルモン関連 (GH、ソマトメジンC、FSH、LH、プロラクチン、
TSH、T3、FreeT3、T4、Free T4、TBG、カルシトニン、インスリン、C-ペプ
チド、グルカゴン、ガストリン、テストステロン、フリー テストステロン、エスト
ラジオール、プロゲステロン、βHCG、17α-ヒドロキシプロゲステロン (17α
-OHP)、アルドステロン、コルチゾール、DHEA-S、レニン定量 (濃度)、I
gE、ジゴキシン、α-フェトプロテイン)、腫瘍関連(CEA、TPA、CA125、
CA19-9 、CA15-3、PAP、PA (PSA)、β2-マイクログロブリン、フェ
リチン、NSE)です。参加費用は項目数に応じて、10,000円(5項目まで)、15,000
円(20項目まで)、 20,000円(21項目以上)(税別)となります。
 実施スケジュールは2000年12月末日に参加申込み締め切り、2001年1月下旬
に参加者へ試料血清送付、2月末に測定結果の提出期限、10月下旬に参加者へ成績
報告書を送付することになります。

申込先:日本アイソトープ協会学術課  医学・薬学部会 事務局
〒113-8941東京都文京区本駒込2-28-45
TEL: (03)5395-8081  FAX: (03)5395-8053
E-mail:gakujutsu@jrias.or.jp(獨協医大越谷病院 森 三樹雄 No.45)
 
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[お知らせ-5]◆ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療に関する取扱いについて
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1. 除菌前の感染診断
 除菌前の感染診断については、内視鏡検査又は造影検査において胃潰瘍又は十二
指腸潰瘍の確定判断がなされた患者のうち、ヘリコバクター・ピロリ感染が疑われ
る患者に対し、次の5項目の検査法のうちいずれかの方法を実施した場合に1項目
のみ算定できる。ただし、検査の結果ヘリコバクター・ピロリ陰性となった患者に
対して、異なる検査法により再度検査を実施した場合に限り、さらに1回に限り算
定できる。
 (1)迅速ウレアーゼ試験 (2)鏡検法 (3)培養法 (4)抗体測定 (5)尿素呼気試験

2. 除菌の実施
 1の感染診断により、ヘリコバクター・ピロリ陽性であることが確認された胃潰瘍
又は十二指腸潰瘍の患者に対し、ヘリコバクター・ピロリ除菌及び除菌の補助が薬
事法上効能として承認されている薬剤を薬事法承認事項(別紙参照)に従い、3剤併
用・7日間投与し除菌治療を行う。

3. 除菌後の潰瘍治療
 除菌終了後の抗潰瘍剤投与については、薬事法承認事項に従い適切に行うこと。

4. 除菌後の感染診断(除菌判定)
 除菌後の感染診断については、2の除菌終了後4週間以上経過した患者に対し、
ヘリコバクター・ピロリの除菌判定のために1に掲げる検査法のうちいずれかの方
法を実施した場合に1項目のみ算定できる。ただし、検査の結果ヘリコバクター・
ピロリ陰性となった患者に対して、異なる検査法により再度検査を実施した場合に
限り、さらに1回に限り算定できる。
 除菌後の感染診断の結果、ヘリコバクター・ピロリ陽性の患者に対し再度除菌を
実施した場合は、1回に限り再除菌に係る費用及び再除菌後の感染診断に係る費用を
算定することができる。

5. 感染診断実施上の留意事項
 静菌作用を有する薬剤について
 ランソプラゾール等、ヘリコバクター・ピロリに対する静菌作用を有するとされ
る薬剤が投与されている場合については感染診断の結果が偽陰性となるおそれがあ
るので、除菌前及び除菌後の感染診断の実施に当たっては、当該静菌作用を有する
薬剤投与中止又は終了後4週間以上経過していることが必要である。
 抗体測定について
 除菌後の感染診断を目的として抗体測定を実施する場合については、2の除菌終了
後6か月以上経過した患者に対し実施し、かつ、除菌前の抗体測定結果との定量的
な比較が可能である場合に限り算定できる。

6. 診療報酬明細書への記載について
 1の除菌前感染診断及び4の除菌後感染診断において、検査の結果ヘリコバクタ
ー・ピロリ陰性となった患者に対し再度検査を実施した場合は、診療報酬明細書の
摘要欄に各々の検査法及び検査結果について記載すること。
 4の除菌後感染診断を算定する場合には、診療報酬明細書の摘要欄に除菌終
了年月日を記載すること。
 5(1)の静菌作用を有する薬剤を投与していた患者に対し、1の除菌前感染診断
及び4の除菌後感染診断を実施する場合は、診療報酬明細書の摘要欄に当該静菌作
用を有する薬剤投与中止又は終了年月日を記載すること。
 5(2)により抗体測定を実施した場合は、除菌前並びに除菌後の抗体測定実
施年月日及び測定結果を診療報酬明細書の摘要欄に記載すること。

7. その他
 ヘリコバクター・ピロリ感染の診断及び治療については、関係学会よりガイドラ
インが示されているので参考とすること。

ヘリコバクター・ピロリ除菌剤に係る薬事法承認事項
(1)効能・効果
 ランソプラゾール
  「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリの除菌の補助」
 アモキシシリン及びクラリスロマイシン
  「胃潰瘍又は十二指腸潰瘍におけるヘリコバクター・ピロリ感染」

(2)用法・用量(三剤共通)
「通常、成人にはランソプラゾールとして1回30mg、アモキシシリンとして1
回750mg(力価)及びクラリスロマイシンとして1回200mg(力価)の3剤を
同時に1日2回、7日間経口投与する。なお、クラリスロマイシンは、必要に応じ
て適宜増量することができる。但し,1回400mg(力価)1日2回を上限とする。」

(3)使用薬剤
 a. 成分名:ランソプラゾール
   販売名:タケプロンカプセル15、同30(武田薬品工業(株))
 b. 成分名:クラリスロマイシン
   販売名:クラリシッド錠200mg(ダイナボット(株))
       クラリス錠200(大正製薬(株))
 c. 成分名:アモキシシリンのうち以下のもの
   販売名:アモキシシリンカプセル「トーワ」(東和薬品(株))
       アモピシリンカプセル250(大洋薬品工業(株)
       アモリンカプセル125、同250、同細粒(武田薬品工業(株))
       サワシリンカプセル、同錠250(昭和薬品化工(株))
       パセトシンカプセル、同錠250(協和発酵工業(株))
       ワイドシリン細粒200(明治製菓(株))
(獨協医大越谷病院 森 三樹雄 No.45)
 
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[ニュース-1]◆ウガンダにおけるエボラウイルスの流行が確認‐WHOと国際協力‐

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 ウガンダ北部にあるGulu地方でエボラ出血熱が発生した。2000年10月16日現
在、71例の患者が発生し、そのうち35例が死亡した。ウガンダ厚生省はウイルス
性出血熱の撲滅のために国家対策チームを設置し、流行を防止することになった。
このチームの仕事はエボラ出血熱の流行に対し国際的な協力体制の確立、病気撲滅
対策の実施、症例の発見と追跡調査、防護用具の供給などである。WHOとウガンダ
政府は感染地域における病気の早期発見と近隣社会への伝播の防止対策を立ててい
る。今回の活動資金はドイツ、アイルランド、イタリー、日本などから提供された。
エボラ出血熱はもっとも感染力の強いウイルス性疾患で、死亡率は50〜90%である。
エボラウイルスは感染者の血液、分泌液、臓器、精液などから感染する。エボラウ
イルスは1976年にスーダンの西およびコンゴ民主共和国北部で、初めて発見され致
死率が高い。
(獨協医大越谷病院 森 三樹雄 No.45)
 
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[ニュース-2]◆WHOのヨーロッパ地区委員会が国連と協力して三大殺人病の対策を検討

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 WHOのヨーロッパ地区委員会は発展途上国において問題となっている、エイズ、
マラリア、結核という三大殺人病の流行に対して、国連と協力体制をとって撲滅活
動を開始した。発展途上国では、貧困に加えて、三大殺人病が合併するために状況
がかなり悪くなっている。今回の対策の骨子は、薬剤の供給増加、治療薬品や予防
用具の供給、マラリア・エイズのワクチンの研究開発の促進などである。貧困者対
しては、エイズ、マラリア、結核の感染予防対策、感染者には、適切な診断・治療・
介護の強化が必要となる。最終的にはエイズやマラリアのワクチン開発が必須である。
(獨協医大越谷病院 森 三樹雄 No.45)
 
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[ニュース-3]◆乳幼児死亡率が減少し世界的な目標値を達成

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 乳幼児死亡率は20世紀の後半に60%減少し、世界的な目標値を達成した。5歳
以下で死亡した乳幼児は1999年には1050万人で、1990年に比べ220万人減少し
た。その1050万人の内訳をみると、アフリカ380万人、インド250万人、中国75
万人であった。
 乳幼児死亡率は1950年が25%、1980年が12%、1990年が10%、2000年が
7%と漸減している。1990年にニューヨークで行われた乳幼児死亡に関するサミッ
ト会議には150か国のリーダーが参加し、乳幼児死亡率を1000人につき70人以下
にするという目標を設定した。
 今回の調査で少なくとも57か国がこの目標値に達しなかった。目標値を大幅に上
回った国は、ニジェールでは335人、シエラレオネ312人、アフガニスタン264人、
マラウイ219人、ギニアおよびリベリア205人、ソマリア201人であった。50年
間で乳幼児死亡率が変わらなかった国は、ブルンジ、レソト、マダガスカル、モー
リタニア、ナイジェリア、シェラレオネ、タンザニアであった。
 またボツワナ、ナミビア、ニジェール、ザンビア、ジンバブエ、北朝鮮、パプア
ニューギニアでは乳幼児死亡率が逆に増加している。この理由は明確ではないが、
経済状況の悪化、地域紛争、生活環境の悪化などによるものと思われる。乳幼児死
亡率を減少させるためには、栄養状態の改善、飲料水・下水・家屋などの衛生状態
の改善が必要である。さらに妊娠・出産時の医療援助、小児下痢症の治療、電気の
供給、母親教育などが必要である。
(獨協医大越谷病院 森 三樹雄 No.45)
 
=========================≪ JACLaP WIRE ≫=========================
[Q&A] ◆抗核抗体の複合パターンでの報告方法について
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(Q)抗核抗体の複合パターンでの報告方法について教えて下さい。
 現在は複合パターンでも最高倍率とパターンを報告していますが,各パターンご
とに倍率を表現した方がよろしいでしょうか。(長野県 臨床検査技師)

(A)間接蛍光抗体法で抗核抗体の検査を行った場合,数種類の染色パターンが観
察されることはよくあります。正確な検査情報として,各パターンごとに抗体価
(倍率)を報告した方がよいと思います。
ご存じのように,間接蛍光抗体法の特徴は,染色パターンによって抗体を推定でき
ることが挙げられます。もちろん,次の段階としてELISA法やDID法などで
抗体の同定を行う必要があります。臨床的意義があるとされる抗核抗体は,10数
種類ありますが,診療報酬請求上制限があり一度に全ての抗体同定検査を実施でき
ないのが現状です。その場合,各パターンごとに抗体価を報告していれば,医師は,
抗体価の高いパターンから推定できる抗体を優先的に検査依頼することが可能とな
り,効率よく同定検査を進めることができます。たとえば,Homogeneous 20倍,
Speckled 2560倍と報告すれば,臨床症状などを参考に,先ず抗ENA抗体の中か
らいくつかを優先的に選択できます。そして,抗DNA抗体は,先の検査が全て陰性
の場合に測定するか,あるいは測定しなくともよいとの判断ができるかも知れませ
ん。以上のように,役に立つと考えられる情報は,積極的に医師に提供した方がよ
いと思います。
【参考文献】 
[1]横張龍一:抗DNA抗体測定の臨床的意義,医学と薬学,22,1514-1520,1989
[2]諸井泰興,谷本潔昭,堀内淑彦:抗セントロメア抗体の検出法と臨床的意義,臨
床免疫,
14,100-108,1982
[3]Miyachi,K., Fritzier,M.J. and Tan, E.M.: Autoantibody to a nuclear antigen 
in proliferating cells., J. Immunol., 121, 2228-2234, 1978

回答日:2000年11月27日
回答者:認定臨床検査医 森 三樹雄(No.45), 臨床検査部 柴崎 光衛

[ホームページ/臨床検査ネットQ&A(血清検査)]
 
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[Q&A] ◆ヘパリンについて
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(Q)ヘパリンは、そのもの自体が抗凝固作用を持つもではなく、AT3の抗凝固活
性を増強させるものと言われています。このところ低分子ヘパリンは、トロンビン
T3の構造を変化させることによって、AT3自体をXaに特異的なものにしてい
ると考えてよいのでしょうか?
 また、トロンビンはほとんど阻害しないのでしょうか?さらに、通常のヘパリン
入り採血管で健常人を採血した血漿中のTAT(トロンビン・AT3複合体)濃度
は、ほぼ基準値内を示します。これは、採血管内で起きている凝固過程がトロンビ
ンが生成される前の段階でブロックされている(Xaが阻害されている)と考えて、
間違いはないでしょうか?とすれば、一般的なレギュラーヘパリンも、トロンビン
よりもXaを強く阻害しているのではないのでしょうか?(東京都 臨床検査技師)

(A)ヘパリンが関与しなくても、アンチトロンビンとプロテアーゼの一つであるト
ロンビンとの結合によるゆっくりとしたトロンビン阻害作用は生理的に存在してい
ます。ヘパリン(分子量 3〜30kDa)はグリコサミノグリカン分子でD-グルクロ
ン酸残基とN-アセチル-D-グルコサミン残基が交互に連なったポリマー構造をして
います。そのうちの3-O-硫酸化グルコサミン残基を含む5糖連鎖の部分が、アンチ
トロンビンに結合します。その結果、アンチトロンビンの高次構造がわずかに変化
し、よりトロンビンなどのプロテアーゼと結合しやすい構造様式になります。一方
トロンビンも同じヘパリン分子と結合し、3成分複合体を形成します。その後、ヘパ
リンはこの複合体から遊離し、次の複合体形成に働きます。以上の過程においてト
ロンビンの活性部位がアンチトロンビンの結合部位側へ向くことによって、その活
性は阻害されることになります。18単糖単位以下のヘパリン分子(分子量3〜
4kDa)は、アンチトロンビンによるトロンビン阻害は触媒しません。トロンビンと
アンチトロンビンを同時に結合させるには、この長さ以上に大きい分子(5kDa以
上)が要求されるわけです。よって低分子ヘパリン(分子量1〜10kDa、平均4.5kDa)
においては、5糖の大きさでも作用可能であるアンチトロンビンによるXa因子の阻
害作用が優位に働くことになります。未分画ヘパリンと比較して抗Xa因子作用/抗
トロンビン作用比が2〜3倍あるようです。そしてX因子は内因系と外因系が出会う
要の箇所でもあり、Xaなくしてトロンビンの発生はありません。次にヘパリン入り
採血管では、一般的には3〜20単位/mlのヘパリン濃度かと思いますが、どの程
度の濃度のものを使われたのでしょうか。5単位/ml以上の高濃度のヘパリン存在
下においては、トロンビンは主にヘパリンコファクターIIによって阻害されてしま
います。健康人では起きません極端な例ですが、生体内においてヘパリンを多く含
有する肥満細胞からの脱顆粒現象とともにヘパリンが少量血液中に放出された場合
は、低濃度でも阻害し得うるXa因子の阻害作用によるAPTTの延長と明確に言え
るかもしれません。同じヘパリンでも糖鎖数によりプロテアーゼへに対する阻害作
用に差があります。分子量4kDa前後ではXa阻害作用発揮しますが、5kDa以上で
はトロンビン、IXa、XIaを阻害します。未分画ヘパリンにおいて単純な比較はでき
ないと思いますが、生理的にはトロンビン以上にXaの抑制は大きな意味があります。

回答日:2000年12月05日
回答者:認定臨床検査医 腰原 公人(No.338)東京医大

[ホームページ/臨床検査ネットQ&A(血液検査)]
 
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[Q&A] ◆尿中フェノールについて
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(Q)有機溶剤検診で尿中フェノールのデータが高値を示しました。一般人と作業従
事者との基準範囲若しくは許容範囲についてご教授ください。(福島県 臨床検査技師)

(A)環境上、外部に調べにいける様な状況ではありませんので、現状わかる範囲で
ということで、勘弁して下さい。フェノールの尿中濃度として2〜75mg/Lと言
う記載があるが、産業健診の立場では、ベンゼンの製造及び取り扱う業務に従事す
るものに対して行う特定化学物質等障害予防規則に基づく特殊健康診断の判断に、
BEI(生物学的暴露指標)50mg/g・Cr.を用いこれ以上は暴露があったと判断される。
通常測定は、仕事のサイクルを考え、就労の終了時(月曜から、金曜までの勤務な
らば金曜の午後等)のサンプリングが望ましい。
 *BEI: Biological Exposure Indices はACGIH:American Confarence of 
Govermental Industial Hygienists により勧告されるもので、時間加重平均(一日
8時間週5日間の暴露に対して適用される値で、化学物質の吸収、排泄、代謝、及
び暴露の強さと作業者の生物学的影響に関する情報を基に@暴露の強さと測定対象
の量の関係A測定対象の量と健康の関係のいずれかを基に勧告される。種々の管理
濃度・許容濃度(TLV MAK)等に相当する尿中濃度の報告もあるが、ベンゼン作
業歴者(特殊健康診断対象者)ならばBEIを用い、暴露のあるなしを判断されるの
が現状では最善と思われます。なお、蛇足とはおもいますが、ベンゼン作業者の健
診で尿中フェノールの異常高値を認めた場合、
1.生理的な範囲であることの除外 就労のサイクルの最初と最後(週単位ならば
月曜金曜にサンプリングし、金曜のデータが悪い場合は作業上の問題、逆の場合は
生理的食事性の可能性を考え、経過を追います。それ以後は、一回の健診で2回の
測定を事業主に了解させます。
2.異常値が続く場合、もしくは有意の場合、作業環境管理、作業管理を見直しま
す。管理濃度、局所排気装置の性能等、作業手順の見直し、保護具の使用・確認。
3.ベンゼンの代替物を、探すように指示します。ベンゼンは低濃度反復暴露で白
血病等の発ガン性物質としての扱いであり、5%を越えるベンゼンを含有するゴム
のりの溶剤(希釈系を含む)は、試験研究の場合を除き、製造輸入、譲渡、提供、
使用のいずれも禁止されている。さらに健康診断の記録の保存義務は30年となる
など等多くの制約がある。業態により、仮に無理であることがわかっていても、本
来ならばベンゼンを使用していることがわかった時点で直ちに、その機会を失って
いたとしても、尿中フェノールの高値を認めたような時には、必ず、公の場(安全
衛生委員会等)で上記の点に関しては言及し、記録にとどめ、事業主に改善を求め
るべきです。(必ず一度は産業医として勧告し記録を残す)
参考文献
1.検査項辞苑第2版  大塚製薬
2.労働衛生のしおり  平成12年度  労働省労働基準局編
3.産業保健マニュアル  第3版  南山堂
(新キャタピラ三菱健康管理室  西田  陽  No.253)
 
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[声の広場-1]◆コンピュータウイルスに感染して‐駆除法と防御法‐
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 最近、コンピュータウイルスに2回遭遇したので、その経緯について述べる。1
回目は平成12年8月25日に同学院事務局から送られてきた新種の2種類のコンピ
ュータウイルスがついた添付文書を受け取り、そのコンピュータウイルスを完全に
駆除しきれなかったため日本臨床病理学会事務所のコンピュータに感染させた。こ
の2種類のウイルスを受け取った時点で、IBMの300GLにプリインストールされ
ていたコンピュータウイルスワクチンソフト「シマンテック社ノートンアンチウイ
ルス」が自動的に作動した。パソコンの画面が全面まっ赤となり、「ウイルス進入」
という警報を発した。その時「駆除しますか?」という問いかけがあり、「Yes」と
答え、感染駆除ができたように思えた。ところが、このワクチンソフトを定期的に
更新していなかったため、この新型感染ウイルスを完全には駆除することができな
かった。1種類目のウイルス「W97M/Thus」はMS-Wordに感染するマクロウイル
ス(危険度1〜5で分類すると4に属し感染性が強い)で、放置すると12月13日
にパソコン内部で感染が実行し、Cドライブの全てのデータを消去してしまうもの
であった。2種類目のウイルスはマトリックスウイルスと呼ばれる「W95.MTX-m」
(これも危険度4)で、メールを送ると相手に添付ファイルとして自動的にウイルス
を送りつけ、メールの受信者がこの添付ファイルをダブルクリックした時点で感染
するという新種のウイルスである。さらに、このウイルスは、受信した日にちによ
りファイル名が変更され(曜日により英文と和文でタイトルが変更されている)、
あたかも新しいメールがきたかと錯覚させる特徴を有していた。また、感染すると、
各種ワクチン情報を提供してくれるホームページにアクセスできないようになって
しまうという機能もあった。
 ウイルス駆除が不完全であったため、私が10月26日夕方に送った添付メールに
より日本臨床病理学会事務所のパソコンが感染した。事務所ではパソコンのウイル
ス駆除をしようとしたが、失敗し起動しなくなった。結局、丸1日かけてシステム
ファイルを全部入れ換えて復旧できた。
 私のパソコンの方では、コンピュータウイルスを駆除するため、情報処理振興事
業協会セキュリティセンター(http://www.ipa.go.jp/security/index.html)からの
「W95/MTXの駆除ツール2000年10月20日」をダウンロードし、全てのファイ
ルを検査したところ、総ファイル数は合計14,389で、そのうち感染していたのが
73ファイルであった。駆除ツール感染が発見された73ファイルのうち、8ファイ
ルを削除し、65ファイルが修復できたかに思えた。
 その後、コンピュータの動作が遅くなり、コンピュータウイルスの駆除不完全に
思ったので新しい「シマンテック社ノートンアンチウイルス」を購入し、再度ウイ
ルススキャンをかけたところ、20個のシステムソフトが感染ファイルとして発見で
きた。結局、このウイルスを完全に駆除するためにシステムファイルを全取替えで
復旧することができた。
 第2回目の遭遇は平成12年11月15日に最新コンピュータウイルス
(TROJ_NAVIDAD.Aウイルスという大量にメールを送るワームプログラムで危
険度4)が午前8時32分に韓国のソウルより送付された。このウイルスは第6回ア
ジア臨床病理学会に出席した人に送られてきた。このウイルスは受信トレイにある
全てのメッセージに添付つきのファイルを自動的に返信する。これは前回の経験を
生かし駆除しようと思ったが、10分おきに次から次へと感染ウイルスが送られてき
た。結局、感染ファイルを発信しているパソコンが発信を停止した翌日になって送
信されなくなった。
 以上のような経緯を踏まえて感染駆除と防御法の注意事項を箇条書にする。
1. 使用しているパソコンにコンピュータウイルスのワクチンソフトが入っているか
否かを確認する。
2. コンピュータウイルスのワクチンソフトが入ってなければ至急購入する。
3. ワクチンソフトは最低週に1回は更新して最新版にしておく。
4. ワクチンソフトとしては「シマンテック社ノートンアンチウイルス」やトレンド
マイクロ社の「ウイルスバスター2001」などが代表的なものである。
5. Windows 98、2000、MEの入っているコンピュータにウイルス駆除用ソフトを
入れる場合は、起動する「C」ドライブに導入する。私の所では間違えて「D」に入
れたため、起動ディスクが壊れ再導入しなければならなかったので注意が必要であ
る。
6. コンピュータウイルスに感染したら、コンピュータウイルスを駆除するための
ソフトをダウンロードして駆除する。
7. コンピュータウイルスが完全に駆除できなければ、最終的には「リカバリーCD」
を再インストールし工場出荷状態にする。その後、必要なソフトを自分で入力する
操作が必要である。
(獨協医大越谷病院  森  三樹雄  No.45)
 
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[声の広場-2]◆検査医業務の難しさ
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 検査医業務の難しさは、幅広い領域におよぶ検査業務をカバーしつつ、かつ病院
の中央部門の一機能単位としての役割を果たすことであり(独自性を保ちつつ病院
の歯車として稼働する)、この微妙な立場は各診療科にはない特殊性でしょう。大
学病院では当然のことながら医学部学生への教育的配慮も欠かせません。しかし、
わずか1〜2週間で疾風の如く走り去る実習の学生に授けられる情報や経験には限
りがあることも事実です。良きアドバイスと充実した教育の徹底が図れるようなカ
リキュラムや教材の充実が急務です。臨床検査に携わる医師として、一番気がかり
なのは、オンライン化に伴う検査技師と診療医の『距離感』と『情報交換手段の欠
落』の問題です。オンライン化は今様に表現すれば、臨床検査のIT革命とでも言う
ことになるでしょうか?
 しかし現実的にはまだかなり実験段階で、単に業務を省力化するための道具とし
てだったり、診療報酬請求の簡素化のためだったりして、双方向性に乏しいネット
ワークシステムで稼働しているのが検査情報管理システムの現状でしょう。この副
産物として、以前と比べて検査部門と診療医の間には不必要な距離感が生まれたよ
うに思います。こうした隙間を埋めたり、隙間ができる原因を排除して、相互によ
り有効なシステム構築のアドバイスをしたり、いわゆるコーディネーター的役割に
検査医の必要性を感じています。また、情報開示と個人機密情報の保護という両極
端な医療情報の特殊性から、精度管理のために検査技師では閲覧しにくい患者診療
記録を調査することも検査医の重要な職務でしょう。反面、このような裏方的な職
務である検査医の存在意義をアピールし、実務的活動の中からその地位を築くこと
は、決してたやすいことではありません。個人的な努力も重要ですが、今後は検査
医会のような支援組織を母体とし、求心力と到達目標をもって自らの社会的地位を
確保すべきでしょう。もちろん、検査医の活動拠点は大学病院だけではないはずな
のですが、保険医療行政(コストの問題)と検査医活動の可能な人材確保(有資格
者の問題)の両面から、なかなか市中総合病院まで専従の検査医を確保できないで
いるのが現状でしょう。『人材確保に我々がどう取り組むかに、我々自身の生活圏
そのものがかかっているのだ』と話される検査医会の諸先輩先生方のご意見を拝聴
し、身の引き締まる思いで職務に取り組んでおります。今後は皆様とともに将来を
見据えた臨床検査医学教育と検査医活動に取り組んでいきたいと考えております。
(横浜市大臨床検査部  満田  年宏)
 
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[声の広場-3]◆検査医に要望すること
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 シノテスト1号・2号という商品名に保点がついていた1960年頃のメーカーの
MRは、大学の検査医の先生そして開業医の先生と「検査の有用性」や「臨床検査
の将来」について楽しく会話し、ホットにコミニュケートしていたように思います。
 昨今は、高額医療機器の投資効率や経営効率からのFMSの導入問題などさまざま
な難問が山積し先生方を悩ませ、医療経済の厚い壁がコミュニケートを少なくして
いるといえます。それらは、1980年からの「国民医療費の上昇率を国民所得の伸び
率の範囲内に抑える」という大蔵省の公式見解がそうさせたと承知していますが、
この目標を経済常識で考えて、理解に苦しんでいるのは私だけでしょうか。
 高齢化の進むなか、労働集約的でなおかつ生産性の上昇がない社会保障の対象で
ある医療供給を、「国民所得の範囲内に抑える」といった、一般産業と同次元でし
か語ることのできない心の貧しさは、医療を荒廃に導くだけと思います。
 医療抑制のさなか厚生行政は、検査医による判断料の新設、検体検査管理加算な
ど、「臨床検査」を適正化・健全化の方向に導いていると思われます。
 新世紀は,全国の病院には押しなべて検査医がおいでになり「治療指針の変更」「新
しい診断基準の作成」や「クリテイカルパスの運用管理」等、ドクターズドクターの
大勢が診療や病院経営に参画されましたなら、必ずや医療経済のみならず国民経済
の発展に大いに寄与できるものと愚考致しております。(シノテスト 福田  力)

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☆JACLaP WIRE No.32 2000年11月30日
☆発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
☆編集:JACLaP WIRE編集室〜編集主幹:森三樹雄
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