JACLaP WIRE No.27 2000.07.10 



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          JACLaP WIRE No.27 2000年7月10日
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============================≪ 目 次 ≫============================

[論壇]  ◆21世紀に向けて検査医に何が求められているか

[ニュース]◆ISO 15189 最終合意に達する

[Q&A] ◆セラチアによる院内感染への対策

[編集後記]◆認証制度を社会に根づかせるために
 
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[論壇]  ◆21世紀に向けて検査医に何が求められているか
                 関西医科大学 病態検査科 高橋 伯夫
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 臨床検査医の役割を議論する前に、次のような現状の問題点を指摘して、こ
れらに至急対処する必要性を訴えたい。(1)検査学のidentityが明らかでな
く、個々の検査医の意識が大きく異なっている。(2)業務が明確でないため
に、検査科で検査医がいなくてはならない要件が少ない。(3)検査医が医療の
中で果たす役割が十分には明確になってない。(4)検査医に魅力を感じている
検査医が少ない。すなわち、過去の中央検査部においては検査部内での役割分
担が明確になされており、存在感があったが、最近の中央臨床検査部では明確
な役割分担のある部門は病理と生理部門のみであり、臨床化学、免疫・血清、
血液・凝固・線溶、細菌部門などでは測定法が大きく進歩し、精度が高く、迅
速に結果がでるため検査医が介入する用件が乏しくなっている。しかし、現実
には、これらの部門でこそ検査医を必要としている。このことを実感している
検査医が如何に少ないことであろうか。すなわち、検体検査は未だ多くの問題
を抱えており、非特異的な化学(免疫)反応が発生して異常値を呈することはし
ばしば経験し、臨床経験のある検査専門医が実力を発揮する場面である。分離
分析・共存分析を問わず特異性は決して高くない。このように、臨床検査医と
真に呼べる医師の不在が検査医の存在感を疎外している根源である。これに加
えて臨床検査技師の知識水準の向上により検査医と検査技師の間の溝が埋まり
つつあるのも実状である。さらには、病院の人件費を省くことを目的の一つに
して病理医が臨床検査専門医となって、検体検査管理加算を獲得するための代
表者となる例が増している。これらのことは、ますます検体検査部門の医師の
専門性が否定され、これを担当する検査医不要論が出る素地になっている。

 このような問題を解決するためには検査医が真面目に検体検査についての知
識を集積して検査技術とその問題点を理解し、臨床医と検査技師との間の良き
コーディネーターとなることが最も重要であることは言うまでもない。他方で
は、次に示すような策を講じて検査医集団の存在感を世の中に示す必要がある
であろう。(1)検査学講座の名称の統一、(2)それに合わせた学会の名称の統
一、(3)指導的立場にある検査医の意識改革、(4)教育現場でのシラバスの全国
的な統一、(5)一定の教科書の作成、(6)指導者教育の徹底(教育技法)講習会の
常設、などである。

 ところで、視点を変えて検査医と検査学講座の現状分析を行うと、(1)多く
の検査医は業績重視の現状から検査の分野で仕事をすることに積極的でない、
(2)検査医学講座に医師でない構成員がいる例が多く、一定の統一した行動が
とれない、(3)内科を基盤とした医師が多く、自分の専門分野での研究に情熱
を燃やし、検査分野の学会を軽視する。これは、特に国公立大学で顕著であ
り、検査関連学会の運営が私学に偏る結果を生んでいる、(4)したがって、多
くの検査医が検査学会を敬遠する悪循環を生じている、などの根本的な問題を
認識する必要がある。早期に改めるべき課題であり、このような状況が続けば
次のような問題点がよりクローズアップされるであろう。

 専門有識者(技術者)集団としての検査技師の存在が大きくなりつつある。医
療界において最も大きい団体である日臨技は大きな存在になる。現に、検査関
連業界は日臨技と臨床検査自動化学会以外では機器展示を望んでいないほどで
ある。このような中で、検査技師の中から中央検査部長(医師)不要論が台頭
し、検査技師が検査部長となることを真剣に考えつつある。

 次に教育面を考えると、ここにも問題点がある。学生教育では検査技術学の
意義が薄れつつあるにもかかわらず、これに固執している。今後は、病態生理
学を教育するのが検査医学の役割である。すなわち、臨床検査診断学を主に教
育することを目的にすべきである。そうであれば、何らかの臨床に携わらずし
て教育は不可能である。検査学講座医師は何らかの診療科を担当することが必
要と私は考えている。部門としては初期診療を専門とする診療科が最も適して
いる。検査を十二分に活用して初期診断を行い、鑑別診断して専門医に引き渡
す。限られた検査項目から一定の診断に絞込むのは検査医が最も得意とすると
ころである。また、開業医志向の若い医師にはこのような診療科は好ましい科
と認識されるであろうことも魅力である。検査医会あるいは臨床病理(臨床検
査)学会がこれを公言すれば比較的容易に実現することである。この他に、検
査データが重視される会社検診では力が発揮できるはずであり産業医学分野へ
の進出も考えられる。健康志向がより増すであろう将来に、軽微な変化を検出
する検査医学を活用して検診業務(人間ドックなど)への進出も考えられる。さ
らに、術前検査の評価は主に検査データの解釈であり、ここにも活路がある。
しかし、いずれにしても全国の検査医学科が足並みを揃えて一定の方向に向か
うことが必須である。

 学会のあり方としては、臨床検査関連学会が連携し役割分担してこの分野を
広げる努力をすること、学会開催日を集約して検査医、臨床検査技師が参加し
易い環境をつくること、権威のある認定医、認定検査技師制度を早期に実現
し、その結果として学会が安定した収入を確保して発展することなどが望まれ
る。そのためには、若い医師が検査医を目指すに足る付加価値をつける方策を
講じる必要がある。すでに実現した検体検査管理加算は高く評価すべき成果で
あるが、早期に検査専門医のidentityが確立できなければこの制度が廃止され
る可能性が高いことを認識すべきである。

 以上のように、検査医を取り巻く環境はあまりにも厳しいものがあり、安穏
とはしておれない現状認識がまず求められる。そこで、向かう先の選択肢は少
なくないので何処に向かうかは問題ではなく、検査医学界が歩調を合わせて一
定の方向に進むことが最も大切で、急を要する案件である。

(本稿は著者のご厚意により、Lab CPにご発表予定の記事を掲載させていただ
いたものです)
 
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[ニュース]◆臨床検査室の品質管理規格 ISO 15189、最終合意に達する
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 1995年に発足したISO/TC212[Clinical Laboratory Testing and In Vitro
Diagnostic Test Systems]専門委員会は、本年6月14〜16日、米国フィラデル
フィア市において第6回全体会議並びにWG会議を開催した。わが国からは、河
合 忠(国内委員長)を含め各WGから2名、合計6名が出席した。現在審議中の
作業項目は、WG1が2項目、WG2が5項目、WG3が6項目、合計11項目である。そ
れらのうちISO 15189[Quality management in the medical laboratory] が
ISO/TC212としては初めてFDIS(Final Draft International Standard、最終国
際規格案)として最終合意に達した。すなわち、今後はFDISの修正は許され
ず、ISO加盟国に回送されて2ヶ月以内に投票が締め切られ、P-メンバー国の3
分の2以上の賛成かまたは4分の1以下の反対であれば、正式の国際規格として
発行する。すなわち、ISO 15189は2000年末までには国際規格となる見通しで
ある。

 ISO 15189 の内容は臨床検査室のクオリティマネジメントであって、本文大
きく二つの部分からなっている。一つは、臨床検査室における人材と運営管理
のための要件であり、もう一つは技術的管理のための要件を定めている。現
在、かつてないほど医療の質が問われている。医療の重要な一端を荷う臨床検
査室の業務についても高い質が要求されている。そのような社会的要望を満た
すために、臨床検査室が具備すべきさまざまな事柄を規定している。ISO15189
には、本文の他に、3つの付属書が含まれている。すなわち、(1)ISO規格の品
質管理シリーズとの関連についての補足説明、(2)臨床検査室に関連する医の
倫理、及び(3)臨床検査室のコンピュータ化、である。

 一旦、ISO15189の国際規格が発行すると、その国際規格を満たしているかど
うか、すなわち適合性(conformity)はどうかを判断するための作業、認定/認
証(accreditation/certification)が次に必要になってくる。現在、わが国で
は登録衛生検査所についてのみに厚生省から精度管理指針が提示され、(財)医
療関連サービス振興会による認証、すなわちマル適マークの発行が行われてい
る。診療所検査室については、そのような規制がなされていない。しかし、国
際規格が発行すると、ISO加盟国、とくに世界貿易機関(WTO)加盟国では国内規
格に優先して国際規格を採用することが申し合わされている。したがって、今
後、わが国としても、ヒト検体を取扱うすべての臨床検査室に対して国際規格
に基づいた規制の導入が避けられない。どのような形で進められるかは、政府
機関、日本医師会、専門学会等の対応にかかっており、日本臨床検査医会とし
ても決して無関心では居られない。ただ、国際規格ができたから、直ちにそれ
ぞれの検査室がそれに適合するよう行動を起こすことができるかというと、必
ずしも容易ではない。そこで、ISO/TC212の中で、ISO 15189導入のための指導
書を作成する必要があることで合意が得られたが、ISO中央事務局での承認を
待つことになる。

 その他に、少なくとも4つのDIS(国際規格原案)がまとまり、ISO加盟各国へ
順次回送されて、投票にかけられ、コメントが求めらる。1999年5月に成田市
で開催された第5回全体会議で新しく2つのタスクフォースが発足した。すな
わち、ISO/TC212の将来企画と用語/定義の統一である。過去一年間の予備調査
を経て、今回の全体会議で本格的な議論がなされた。2001年3月までの具体的
な計画が合意された。英語(及びフランス語)の用語と定義について統一化が図
られるが、それを基にわが国では日本語翻訳の統一化を図る作業が加わること
になる。

[2000年7月3日 国際臨床病理センター所長、ISO/TC212国内検討委員長
                              河合 忠]
 
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[Q&A] ◆セラチアによる院内感染への対策
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(Q)セラチアによる院内感染への対策ついて質問します。(1)セラチアが
検出されたとき、治療の必要性はありますか。また入院・外来・高齢者による
違いはありますか。(2)院内の環境調査、職員検診の必要性はありますか。
(3)消毒の必要性はありますか。(東京都 臨床検査技師)

(A)具体的にお答えする前に、セラチアの病院感染対策の基本について一般
的に説明しておきます。
1.感染対策の基本は、接触感染防止(contact precaution)です。手洗い、血
管内カテーテル・尿カテーテル等の無菌操作がポイントとなります。
2.ペニシリン系、第1・第2世代セフェム系(CMZ,CTM)、SBT/CPZに耐性であ
り、一部の第3世代セフェム系(CTX)、新キノロン系およびアミノ配糖体にも耐
性株が出てきています。日大板橋病院では、分離菌株の90%以上でカルバペネ
ム系(IMP/CS)に感受性があります。ただし、無症状の患者からセラチアが分
離された場合、即ちセラチアの保菌者に対し、カルバペネム系薬剤を使用する
ことは、耐性菌の出現防止の立場からお勧めできません。
3.消毒剤に耐性を示す菌株もあり、塩化ベンザルコニウムがセラチアに汚染
されていたために、病院感染(院内感染)の原因となった例もありますので、
同一容器への消毒剤の継ぎ足し使用はおやめ下さい。

 多数の死者が出たために現在マスコミ等で騒がれていますが、セラチアに対
する病院感染対策の基本はスタンダード・プレコーションであり、MRSAや緑膿
菌と同じレベルで十分です。
(1)セラチアが検出されたのみでは、治療の必要性はありません。あくまで
も、臨床症状を重視した判断を優先して治療を行います。
(2)院内の環境調査、職員検診の必要性はありません。
(3)環境調査をすれば、院内の湿潤した場所からこの菌が分離される可能性
はありますが、消毒の必要はありません。埃をためない、また湿潤した場所を
残さないといった、通常の清掃を徹底することが大切です。

 ちなみに回答者の所属する病院では、この1年間、ひと月に10例から20例前
後本菌が分離されており、外科系のドレーン、喀痰、尿からの分離例が約60%
を占めています。また本菌による敗血症死亡例が多発しているわけではありま
せんが、分離菌株の多い病棟や診療科においては、患者の詳しい臨床情報の提
供を含む疫学調査を依頼することがあります。大切なことは、特に血液からの
分離菌について、セラチアに限らず、病院内で特定の菌が増加していないかど
うかを、常に監視できるシステムを作ることです。

【参考文献】
[1] セラチアによる院内感染ついて、東京都微生物検査情報(話題)第20巻
  12号(http://www.tokyo-eiken.go.jp/biseibut/1999/tbkj2012.html、
  参照日:2000年6月29日)
[2] 高橋 孝行:セラチア、エンテロバクターによる病院感染とその対策.治
  療82増刊号 124-128、2000

回答日:2000年7月6日
回答者:日本臨床病理学会認定臨床検査医 熊坂 一成(No.236)

[ホームページ/臨床検査ネットQ&A(微生物検査)]
 
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[編集後記]◆認証制度を社会に根づかせるために
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 食品衛生史上最悪の失態と言われる食中毒事件がマスコミを賑し、メーカー
の責任を問う声が高まっていますが、この事件にはもう一つ注目すべき点があ
ります。それは原因となった工場が、厚生省からHACCP(ハサップ)という最
先端の食品衛生管理基準の認証を得ていたという事実です。

 元来認証制度は、評価に専門知識を要する商品の品質を、消費者に代わって
専門家が鑑定し、粗悪な商品により消費者が被害を受けないように設けられる
ものです。しかし得てして認証を得ることが目的化してしまい、認証されたこ
と、あるいは認証を与えたことに安心して本来の目的が疎かになりやすいた
め、認証機関は絶えず目を光らせ、実効性の維持に努める責任があります。し
たがって今回の事件で最も責めを負うべきは、その責務を十分に果たすことを
怠り、HACCPへの信頼を失墜させた行政当局に他なりません。

 認証制度が実際に機能するか否かは、それが社会的信頼を得られるかどうか
が鍵となります。少し性格を異にしますが、臓器移植を実施できる施設や人工
受精のガイドラインについては、学会が事実上の認証を与えています。またバ
スジャック犯の少年への診療行為の妥当性についても、学会が立ち入り調査で
判断を下すことが予定されており、これらはごく当然のこととして社会に受け
入れられています。そしてこれらの学会の現在の地位は、プロフェッショナル
集団として社会の認知を得るべく、これまで積み重ねてきた不断の努力があれ
ばこそ得られたものであることを見逃してはなりません。

 諸先輩方の長年の努力により、いよいよ臨床検査室の品質管理の国際規格が
成立しようとしています。ただし、その認証機関の受け皿となるべき我々に
は、現在ゼロに等しい社会的認知を、これからいかに確保し維持してていくか
という、次なる課題が課せられているのです。

[編集委員 西堀 眞弘]

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JACLaP WIRE No.27 2000年7月10日
■発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
■編集:JACLaP WIRE編集室■編集主幹:西堀眞弘
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