JACLaP WIRE No.15 1999.11.19 



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          JACLaP WIRE No.15 1999年11月19日
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│本メールは日本臨床検査医会の発行する電子メール新聞です。なるべく等|
|幅フォントでご覧下さい。電子メールアドレスをお持ちでない会員が近く|
│におられましたら、お手数ですが回覧をお願いします。プリントアウトす|
│る際には、ワープロソフトに取り込んで各記事のタイトルの直前に「改ペ|
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│らせください。                          |
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============================≪ 目 次 ≫============================

[お知らせ]◆検査医会ホームページへのアクセス数
[お知らせ]◆ホームページにLab CPの目次一覧を掲載

[ニュース]◆最新現地レポート <中国の医療保険制度と臨床検査>
[ニュース]◆最新現地レポート
            <上海市臨床検査精度管理センターを訪問して>
[ニュース]◆WHOが活動的な高齢者を作り出すために世界規模のウォーキ
       ングを主催 〈WHOトピックス Press Sep. 1999 WHO-122〉
[ニュース]◆注射の安全性 -その1-
          〈WHOトピックス Fact Sheet Oct. 1999 WHO-123〉
[ニュース]◆注射の安全性 -その2-
          〈WHOトピックス Fact Sheet Oct. 1999 WHO-124〉
[ニュース]◆イラクにおけるポリオの流行を防ぐためにWHOはワクチン接種
       のキャンペーン
             〈WHOトピックス Press Oct. 1999 WHO-125〉
[ニュース]◆日本政府と日本の製薬会社がWHOと共同でマラリア駆虫剤の開
       発に努力  〈WHOトピックス Press Oct. 1999 WHO-126〉

[新規収載]◆ループス抗凝固因子
[新規収載]◆IV型コラーゲン定量精密測定
[新規収載]◆SP-A(サーファクタントプロテインA)
[新規収載]◆インフルエンザAウイルス抗原

[Q&A] ◆生殖医療と臨床検査技師

[編集後記]◆実践的経済学のすすめ
 
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[お知らせ]◆検査医会ホームページへのアクセス数
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 検査医会のホームページ( http://www.jaclap.org/ )は専用サーバへ移行
して内容が一段と充実し、それとともにアクセス数が激増しています。この機
会に、有志が試験運用を開始して以来のアクセス数(各期間ともひと月平均)
の推移をお知らせします。

           日本臨床検査医会 臨床検査医の  臨床検査
             ホームページ ページ(有志) ネットQ&A
1995年11−12月       −    370    56 *1
1996年 1− 4月       −    152    31
1996年 5− 8月       −    280    62
1996年 9−10月       −    797   159
1996年11−12月       −    481   112
1997年 1− 2月       −    674   200
1997年 3− 4月      27    666   204 *2
1997年 5− 6月     116    694   216
1997年 7− 8月     134    797   210
1997年 9−10月     163    952   321
1997年11−12月     125    703   247
1998年 1− 2月     233    799   360
1998年 3− 4月     337    835   383 *3
1998年 5− 6月     424    835   396
1998年 7− 8月     505   1238   478
1998年 9−10月     514   1547   748
1998年11−12月     405   1116   571
1999年 1− 2月     528   1458   788
1999年 3− 4月     617   1584   969
1999年 5− 6月     779   1648  1193
1999年 7− 8月    1642   1238  1267 *4
1999年 9−10月    2881    574  1311

 *1 1995年11月13日 有志による臨床検査医のページの試験運用
                を開始
 *2 1997年 4月16日 日本臨床検査医会ホームページの試験運用
                を開始
 *3 1998年 4月26日 正式アドレス(http://www.jaclap.org/ )
                に移行
 *4 1999年 7月19日 専用サーバへ移行し有志のページを統合
    1999年 8月13日 有志ページの旧アドレスへの掲載を終了

 有志ページの統合後もとのアドレスには移動先のお知らせを掲載しています
が、1999年9-10月の時点でまだ月平均500件以上のアクセスがあります。この
ことから、アドレス変更の周知にはかなり時間がかかることが分かります。

 運営に当たり、貴重な資料提供、ご助言あるいはご助力をいただいている会
員の先生方に対し、この場を借りて深くお礼申し上げます。今後とも会員の皆
様方の力強いご支援をよろしくお願いいたします。

[情報・出版委員会 情報部門主幹 西堀眞弘]
 
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[お知らせ]◆ホームページにLab CPの目次一覧を掲載
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 Laboratory and Clinical Practice(Lab CP)の創刊以来の目次をまとめ
て、ホームページの「日本臨床検査医会のご案内」の定期刊行物の項に掲載し
ました。ブラウザーの検索機能を使うことにより、著者名やタイトルによる簡
易検索が可能となりましたので、是非ご利用下さい。

[情報・出版委員長 土屋達行]
 
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[ニュース]◆最新現地レポート <中国の医療保険制度と臨床検査>
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 1999年11月1日から11月5日まで6000棟の高層ビルが林立する上海(人口1400
万人)で行なわれた第2回国際実験診断学会議 (写真1) に出席し、中国の医療
状況について見聞したので報告する。中国のGDPに占める医療費の割合は8
%とほぼ日本と同じである。中国においては病院収入で一番大きいのは薬価差
額で、ついで検査差益である。医療保険による検査価格 (検査報酬)は、各省
の中国の衛生部と物価局が3〜4年に一度決定する(北京市では1996年に決定し
たものが現在でも使用されている)。新しい検査を実施する際の価格決定は、
病院から具体的な検査価格の申請があった時点で衛生局と物価局が相談して決
める。新しい検査価格の申請が複数病院(2〜3ヵ所)から出された場合は、1番
低い価格に決まる。中国は香港を含め34省および4直轄市(北京市、上海市、天
心市、重慶市)よりなるが、北京、上海、広州などの物価が高い地域で決めら
れた額を参考にして、その他の地域は所得水準によって低い保険検査価格(通
常60〜80%)になる。
 
(写真1) 第2回国際実験診断学会議

 北京では検査価格が国内試薬を使用している場合と輸入試薬を使用している
場合(2倍以上高い)とで異なり二重価格制が続いている。上海ではこの二重価
格制は廃止された。北京市では衛生部の監査で国内試薬を使用しているのに輸
入試薬の価格で請求を行い、摘発された病院もある。中国の医療保険制度は、
都市部と農村部で異なる。都市部では(公費国家公務員)保険、企業の組合健康
保険、個人が入る民間保険の3種類の保険のいずれかに100%入っている。農村
部では、農協の組合保険に入っている人が約50%で、保険未加入者が約50%も
いる。すなわち、人口13億人のうち、保険に入っていない人は約40%いること
になる。現在、医療保険料は患者の給料から20%徴収されている。上海市当局
はこれを12 %に下げるよう要請しているが、病院は赤字になるので反対して
いる。
 また赤字企業(国有企業の60%以上)では、患者に保険の企業負担分を払えな
いため、患者は自己負担しなければならない。通常患者は医療費を全額先払い
し、あとで企業から立替分を払ってもらうことになっている。自己負担金が払
えない人は、外来受診や入院が拒否されるケースもあり、社会問題となってい
る。また病院側でも赤字にならないように、入院時に保証金を前払いしないと
入院させないことが多い。但し、救急患者は例外としてどこの病院でも受け付
けることになっている (以前、救急患者が病院で入院拒否されて多数の死亡患
者がでたため改善された) 。国家公務員保険は本人が1割負担で、家族は5割負
担である。問題になっているのは、保険に承認されていない薬剤(漢方を含め
市販されている6000種類のうち1440種類のみが保険で承認されている)は、自
己負担しなければならないことである。検査についても同様(保険採用されて
いるのは600項目のみ)である。すなわち病気の種類によっては保険で承認され
ていない薬剤や検査が必要となったり、長期間使用されていた薬剤が効果がな
く、保険未承認の薬剤や未保険検査を追加することになるが、患者が自己負担
をしなければならない。
 病院の経営は今までは黒字であったが、少しづつ赤字の病院が増えてきてい
る。また臨床検査が2〜3年前より、生化学検査について肝機能検査、腎機能検
査、脂質検査などでは利用できる検査数の上限が設定され、包括化がされてい
る。
 医師は殆どが国家公務員(検査技師、弁護士、大学職員、国有企業の従業
員、一部のデパートの従業員、ホテルマン)のため給料は安く、月給は1000元
位(ボーナスを入れると1500元位、一元は15円)で、検査部長は3500〜5000元で
あるに対し、タクシーの運転手の月給は5000〜10000元と医師に比べて遥かに
高い。しかし医師でも教授や部長になると3LDKのマンションが無料でもら
える。その他、純民間企業の従業員の月給は800元位、合弁企業の場合は2000
〜15000元とよい。個人企業の従業員の月給は1000〜3000元である。このよう
に若手医師は賃金の低さから病院をやめて、製薬会社の営業部員になる人も増
えてきている。
 上海には、上海第一医科大学、上海第二医科大学、第二軍医大学、上海鉄道
医科大学、上海中医大学の5つの医科大学がある。上海第一医科大学は上海で
は最も歴史のある大学であるが、卒業すると上海以外の地方に強制的に赴任さ
せられるためあまり人気がない。これに対し、上海第二医科大学は市立である
ため、卒業生は全てが上海市内に就職することになるので人気があり、そのた
め成績優秀者が上海第二医科大学に入学し、病院勤務医師も全国から一番、二
番で卒業した人のみが採用される。
 中国のバブル経済もそろそろ終わりに近づいており、近い将来、バブルもは
じけるものと思われが、中国の経済や医療経済にも大きな影響を与え、わが国
にも及びそうである。

[1999年11月15日 獨協医科大学越谷病院 森 三樹雄]
 
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[ニュース]◆最新現地レポート
            <上海市臨床検査精度管理センターを訪問して>
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 第2回国際実験診断学会議に出席した際に、11月3日にデイド・ベーリング社
の紹介で上海市臨床検査精度管理センター(名誉所長は陶義訓教授、所長は張
錦鋒副教授)を日本大学の河野均也教授、自治医大大宮医療センターの櫻林郁
之介教授、京都府立大の吉村學教授、自治医大の伊藤喜久助教授、昭和大の木
村聡講師の先生方と訪問した。同センター所長の若手切れ者を思わせる張錦鋒
先生(写真1)を訪問し、上海を中心とした臨床検査のQC(Quality Control 精
度管理)およびQA(Quality Assurance 精度保証)教育研修など活動内容につい
て実情を伺ったので報告する。このセンターの所在地は上海市泰安路にあり蒋
介石の財政省本部、毛沢東の第三夫人(何紫珍)宅に隣接し、作家の魯迅の出版
事務所があった場所である。70坪ほどの2階建ての改装された建物である(写真
2)。その周囲に5〜6棟の研究棟などがある。
 
(写真1) センター所長 張錦鋒副教授

 
(写真2) 上海市臨床検査精度管理センターの建物

 このセンターの主な目的は 1)臨床検査の検査項目にスタンダードを設定
すること(特に酵素項目は既に実施) 2)教育が不足している年配の臨床検査
部の医師および検査技師のトレーニングセンターとしての機能 3)各病院に
対する新しい試薬の紹介など である。その他、検査のマニュアルを作成し、
上海の全病院に配布している。またWHOと協力してアフリカや南米の低開発国
に対し臨床検査の方法、試薬、機器の選択、操作マニュアルなどの作成に協力
している。このセンターでは1982年からWHO(Dr. Heuck)の指導でQCおよびQAを
行っている。
 日常検査については毎日精度管理を行い、その結果をプリントアウトし保存
しておくことが法律で義務付けられている。上海市には約500病院があり、そ
のうち第3種病院(500床以上の大病院)は150施設、第2種病院(200〜500床まで
の中規模病院)は150施設、残りが第1種病院(小病院)となっている。本セン
ターとこの500の病院はパソコンネットワークで結ばれ、施設ごとの機器、試
薬名、操作手順マニュアルなどがデータベース化されており、随時検索できる
ようになっている。また、本センターは中国にある34の臨床検査精度管理セン
ターのうち最も優れているため、各省から臨床検査部の医師や検査技師がト
レーニングを受けにやってくるという。
 上海市で行われるQAの方法は米国のCLIA88やIFCC・CAPのQEPプログラムを参
考にして行っている。一部は日本のJSCC(日本臨床化学会)も参考にしていると
のことであった。このセンターでは各種試薬、検査機器、検査項目などの
チェック、検査医や検査技師の教育研修施設としての機能と研修認定書の授
与、さらにQCおよびQA活動などを行っている。現在、このセンターでは試薬会
社32に販売許可を発行しているので、これらの会社のMRが試薬を売り込みに病
院の検査部を訪問する場合には、ここで発行した許可証を提示しなければ会っ
てもらえない。また病院が検査機器を新規購入しようとする際の機器をこのセ
ンターで推奨する。また購入後は、その機器のメンテナンスを販売会社に義務
付けている。上海では1995年に決定された健康保険制度で現在600テストが保
険で認可されている。受持ち医がこれ以外の検査が必要な場合は、その検査を
すると患者は自己負担しなければならないが、支払いを拒否する人はいないと
の由である。
 また上海市の各病院の臨床検査部長、技師長、主任などのスタッフの教育を
継続的に行っている。MTの資格についても2種および3種病院では学士の資格
が必要となっている。このような精度管理センターは香港を含め34の各省に1
つずつあるそうだ。外部精度管理のサーベイは年2回、血液、化学、免疫、微
生物、一般の5分野について実施する。サーベイの方法はリファレンスメソッ
ドによるターゲットバリューを設定し、同一の評価をしている。そのため方法
によっては、施設間のCVは非常に大きくなる。このサーベイでは80点(%)以
上とらないと合格せず、それ以下の点数をとった場合、センターよりその病院
の病院長に改善命令が出され、次回も80点以下の場合には管理責任者または主
任技師が解雇される。上海にある500病院のうち昨年1年間に約10病院が2回連
続80点以下となり、主任技師が責任をとらされ解雇された。1回80点以下を取
ると監視員がチェックに出かける。また、ブラインド法による外部精度管理も
一部では実施している。臨床化学のQCでは検査1項目につき、2濃度(高濃度と
低濃度)のサンプルが配布されていたため、お互いに電話で相談したり、何回
も繰り返し測定してよい結果を出そうとするような好ましくない状況が続い
た。そこで近年1項目につき5濃度の資料を送ることにしたため、このような悪
い習慣が少なくなったとのことであった。QAでは分析前、分析中、分析後の全
てに関して調査員がチェックリストを用い実施調査をしている。張先生自身も
昨年度は200病院(1日に4病院をチェックしてまわる)調査している。またQCお
よびQAの専門家会議を開き、問題点改善方法を検討している。このように中国
ではアメリカのCLIA88をベースにした厳しいQC、QA、などによる精度の改善、
検査医と検査技師の教育など積極的に取り組んでいる姿が印象的であった。

[1999年11月15日 獨協医科大学越谷病院 森 三樹雄]
 
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[ニュース]◆WHOが活動的な高齢者を作り出すために世界規模のウォーキ
       ングを主催 〈WHOトピックス Press Sep. 1999 WHO-122〉
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 1999年10月2日に86か国、1500以上の都市で高齢者が集い、健康増進のため
にウォーキングを行なう。世界人口に占める60歳以上の男女の数が急速に増加
することに対応し、WHOでは活動的な高齢者を作り出すために企画した。現
在、世界の高齢者は5億9000万人いる。ウォーキングは日の出が世界で最初に
始まるフィジー、ニュージーランド、ニューカレドニアから始まり、オースト
ラリア、日本、中国、フィリピン、インド、中東、ヨーロッパ、アメリカと続
き、最後に太平洋地区で終る。参加者は海岸、田舎の道路、公園、球場、
ショッピングモールなどでウォーキングを行なう。ニュージーランドでは20か
所でウォーキングが行なわれ、マオリ族の聖地でも実施される。日本では100
か所の都市で実施される予定で、名古屋では1万人以上がお寺の巡礼を行なう
ことになっている。フィリピンでは100万人の高齢者が歩く予定である。その
他、タンザニア、イギリス、ブラジル、メキシコ、ニューヨークなどでも
ウォーキングが行なわれる。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[ニュース]◆注射の安全性 -その1-
          〈WHOトピックス Fact Sheet Oct. 1999 WHO-123〉
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 医療行為として頻繁に使われる注射の数は全世界で1年間に120億本と推定さ
れている。この注射は95%が治療目的で用いられている。予防医学的に用いら
れる注射(5%)は、子供の致命的な疾患を減らすためのワクチンとして用いら
れている。最近では、混合ワクチンとして使用することでワクチンの注射回数
を減らしている。治療目的ではペニシリンやストレプトマイシンなどの抗生物
質の注射が頻繁に利用されている。プライマリーケアで用いられている薬の大
半は経口的に投与されている。注射による薬剤投与は重症患者の治療に必要で
あるが、多くの国では過剰に投与されている。多くの発展途上国では滅菌せず
に、注射器や注射針を再利用するために、血液由来の病原体感染症が起こる可
能性が高い。滅菌していない注射器を使うことにより、肝炎ウイルス、
HIV、エボラウイルス、デング熱ウイルス、マラリア原虫などの交叉感染が
起こり易い。さらに不潔な注射器を使うことにより、膿瘍、敗血症、ポリオな
どに感染することになる。アフリカでは、注射器が壊れて使えなくなるまで何
回でも使用している。不潔な注射器の使用により年間130万人が死亡し、それ
に伴う出費は年間5億3500万米ドルにものぼる。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[ニュース]◆注射の安全性 -その2-
          〈WHOトピックス Fact Sheets Oct. 1999 WHO-124〉
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 注射器を再利用する国とその再利用率は旧東欧諸国15%、中東15%、インド
50%、中国50%、アフリカ50%、東アジア・南太平洋諸国50%などと多い。B
型肝炎やC型肝炎が蔓延している地域では、不潔な注射器から感染している場
合が多い。B型肝炎の新患者発生は不潔な注射器によることが多く、台湾では
1977年に60%、モルドバでは1994年に52%、エジプトで1996年に40%、インド
では60%、ルーマニアでは30%を占めていた。B型肝炎は、発症する年齢が若
ければ若いほど慢性化することが多い。慢性B型肝炎患者3億7000万人のう
ち、不潔な注射器の使用により毎年800万〜1600万人が感染し、100万人が死亡
している。B型肝炎は、感染症の中で死亡順位は第5番目である。C型肝炎ウイ
ルスによる慢性肝疾患患者は1億7000万人で、不潔な注射器の使用により毎年
200万〜450万人が感染し、死亡者数は増加している。慢性肝疾患の75%はB型
肝炎およびC型肝炎である。注射器によるHIV感染は肝炎ウイルス感染に比
べ非常に少ないが、それでも年間7.5〜15万人が感染している。このような注
射による血液感染性病変を防ぐためには、注射による治療を最小限にし、注射
器の再利用を禁止し、安全に使用することを教育しなければならない。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[ニュース]◆イラクにおけるポリオの流行を防ぐためにWHOはワクチン接種
       のキャンペーン
             〈WHOトピックス Press Oct. 1999 WHO-125〉
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 5才以下の子供にポリオが流行するのを防止するためにWHO、UNICEF、イラク
政府が共同でポリオワクチン接種のキャンペーンを行った。イラクでポリオウ
イルスが流行すると、イラク国内だけではなく、近隣の地域に脅威となるため
2000年末までにポリオを撲滅するキャンペーンを開始した。1999年10月4〜6日
と11月8〜10日の2回にわたり、イラクの5才以下の小児350万人に対し、全国的
規模でワクチン接種を2回行った。イラクに接している国はイラン、ヨルダ
ン、クエート、サウジアラビア、シリア、トルコなどで、国境では人々が往来
しており、ポリオの伝播が起こりやすい状況にある。5月以来16例の麻痺性ポ
リオが発生し、さらに最近発生した19例についても調査している。患者の80%
は2才以下の子供で、大多数はワクチンの接種を受けていなかった。WHOがポリ
オ撲滅キャンペーンを開始して10年になるが、報告されたポリオの数は全世界
で85%減少し、サハラ砂漠周辺のアフリカとインドがポリオの感染地域として
残っている。
 1999年4月から8月にかけて、イラクの南部および中央部で1985例のコレラが
発生し、30例が死亡した。劣悪な衛生状態、汚染された水の供給、電力の供給
不良などがコレラ流行の主な理由となっている。WHOは、コレラの流行を予防
するために薬剤、輸液、健康教育、水質の検査などを行っている。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[ニュース]◆日本政府と日本の製薬会社がWHOと共同でマラリア駆虫剤の開
       発に努力  〈WHOトピックス Press Oct. 1999 WHO-126〉
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 マラリアは世界の保健上、最も大きな問題であり、毎年100万人以上が死亡
し、特にアフリカの子供が標的となっている。毎年3億以上の臨床例が報告さ
れ、経済的な生産性や日常生活に大きな影響を与えている。マラリア駆虫剤の
開発はあまり進行していなかったが、WHOが昨年マラリアの駆逐を第一の目標
に掲げ、マラリア駆虫剤の研究開発を支援することになった。WHOと日本政
府、日本の製薬会社12社がこの目的のために第一歩を踏み出した。日本の製薬
業界は効果的な薬剤の開発に寄与してきた。開発された新薬は種々の病気に使
われてきたが、それらはマラリア駆虫剤としての薬効があるか調査されていな
い。今回、JPMWと呼ばれるベンチャー企業が12の日本の製薬会社で開発された
薬剤を抗マラリア活性があるか調査研究することになった。次の5年間に1万の
化学物質を検査し、その中からマラリアに効果的な薬剤を発見し、マラリア患
者の死亡率の低下を目的としている。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[新規収載]◆ループス抗凝固因子
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ループス抗凝固因子(準用先区分D014-16)(区分D-1)
平成11年9月1日より適用の自己抗体検査
保険点数:400点 定性検査
基準範囲:1.1未満
製品名:LAテスト「グラディポア」
製造元:Gradipore LTD, North Ryde NSW, Australia
輸入・発売元:(株)医学生物学研究所 TEL 052−971−2081
測定法:希釈ラッセル蛇毒試験法 5テスト/キット(ダブル測定)
結果が出るまでの時間:約2分  自動化:可
同時再現性:1.0〜5.6% 日差再現性:1.8〜6.7%
検体:血漿(クエン酸ナトリウム)
【特徴】 試薬中に含まれるラッセル蛇毒は、直接第X因子を活性化して凝固
反応を開始させる。検体と少量のリン脂質を添加した「試薬1」および血漿中
のループス抗凝固因子(LA)を吸収するために過剰のリン脂質を添加した「試
薬2」とを反応させる。検体中にLAが存在する場合には「試薬1」のリン脂質
が消費されるため凝固時間が延長する。「試薬2」では、LAの吸収により延長
した凝固時間が改善される。両者の凝固時間の比をみることでLAの存在が判定
できる。
 ループス抗凝固因子(LA)の検出は、抗リン脂質抗体症候群(APS)の診断に
使用される。APSは静脈・動脈血栓症、習慣性流産・子宮内胎児死亡、血小板
減少症といった臨床所見を特徴とする難病(特定疾患調査対象疾患)に指定さ
れた自己免疫疾患で、これを診断するにはLAと抗カルジオリピン抗体(aCL)
の2種類の抗リン脂質抗体の存在を確認することが必要である。LAは臨床所見
のうち、特に血栓症と関連が強く示唆されており、抗カルジオリピン抗体とと
もに測定することで抗リン脂質抗体をより幅広く捕らえることができる。本
キットは第X因子を直接活性化させるため、他の凝固因子や凝固因子インヒビ
ターの影響を受けずにLAを検出できる。自動機器を使用すると、大量検体処理
が可能である。
【保険請求上の注意】 ループス抗凝固因子は、抗リン脂質抗体症候群の診断
を目的として行なった場合に限って、区分「D014」自己抗体検査「16」に準じ
て算定する。
【文献】 山本美保子:Lupus anticoagulant 確認試験の検討,機器・試薬,
19:585-589、1996

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆IV型コラーゲン定量精密測定
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IV型コラーゲン定量精密測定(準用先区分D001-13)(区分D-1)
平成11年11月1日より適用の尿中特殊物質定性定量検査
保険点数:210点 定量検査
基準範囲:3.5μg/g・Cr未満
直線性:0.8〜50ng/mL
製品名:パナウリアuIV・C
製造元・発売元:富士薬品工業(株) TEL 0766-26-4423
測定法:EIA法	42テスト/キット(ダブル測定)
結果が出るまでの時間:約25時間  自動化:可
同時再現性:CV 1.7〜8.0%以下 日差再現性:CV 2.5〜8.0%以下
検体:起床時第一尿(専用採尿管に採尿)
【特徴】 IV型コラーゲン(IV・C)を認識する2種類のモノクローナル抗体
を用いた1ステップサンドイッチEIA法である。まず、尿検体中のIV・C、抗体
結合ビーズおよび酵素標識抗体の反応により、三者の複合体が形成される。次
に、この複合体の酵素活性の測定により、尿中IV・C値が求められる。
 現在、糖尿病性腎症の早期診断法としては、主に尿中アルブミン(uAlb)定
量精密測定が用いられている。しかし、uAlbは腎糸球体でろ過されて尿中に出
現するものを測定しているため、血圧などの生理変動を受け易く、診断には注
意が必要である。また、uAlbが正常範囲にもかかわらず、病理学的には糸球体
に軽度のびまん性病変が存在する症例があるなど、uAlbと腎障害度との不一致
が問題点として指摘されている。一方、IV・Cは、糸球体のメサンギウム細胞
や糸球体基底膜細胞、尿細管細胞において高血糖状態での産生増加が報告され
ている。尿中IV・C(uIV・C)測定キットはuAlbの問題点を解決すべく開発さ
れ、次のような特徴がある。
 uIV・Cは分子量約50万と大きいため、糸球体基底膜を通過して尿中に出現し
ないので、生理変動の影響を受けにくい。糖尿病性腎症第二期、第三期(厚生
省分類)において糸球体病変や尿細管障害度と相関したと報告されている。厚
生省分類の各病期におけるuIV・C とuAlbの陽性率を比較すると、uIV・Cは第
一期(通常uAlbが正常範囲)において高い陽性率を示し、第二期以降において
uAlbと陽性率が同等であった。このようにuIV・Cは糖尿病性腎症における腎障
害を反映し、腎障害の有無の判定に有用である。
【保険請求上の注意】 「11」の尿中マイクロトランスフェリン精密測定、IV
型コラーゲン定量精密測定及び本区分「13」のアルブミン定量精密測定は、糖
尿病と診断され、試験紙法による尿蛋白陽性となる以前の早期糖尿病患者に対
し、3か月に1回を限度として算定できる。またIV型コラーゲン定量精密測定
は、区分「D0001」尿中特殊物質定量検査の「13」に準じて算定する。なお、
これらを同時に測定した場合は、主たるもののみ算定する。
【文献】 吉川隆一:IV.糖尿病慢性合併症-診断と治療の進歩-2 糖尿病性腎
症.日内学誌、85:546-550、1996

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆SP-A(サーファクタントプロテインA)
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SP-A(サーファクタントプロテインA)(準用先区分D007-29)(区分D-
1)
平成11年11月1日より適用の血液化学検査
保険点数:150点 定量検査
基準範囲:2〜250ng/mL
直線性:2〜250ng/mL
製品名:SP-Aハイテスト「テイジン」
製造元:帝人(株) TEL 06-6268-2132
発売元:国際試薬(株) TEL 078-231-4151
測定法:酵素免疫測定法(EIA) 60テスト/キット(ダブル測定)
結果がでるまでの時間:2時間15分  自動化:可
同時再現性:4.4〜7.1% 日差再現性:4.7〜4.9%
検体: 血清
【特徴】 マウス抗ヒトSP-Aモノクロナール抗体(固定抗体)と酵素標識
した別のモノクロナール抗体とを検体に加えて反応し、SP-Aを二つの抗体
でサンドイッチ状に挟んだ複合体を1ステップで形成させ、この複合体の量を
酵素反応系により測定、血清中のSP-A濃度を定量する酵素免疫測定法
(EIA)である。
 SP−Aハイテスト「テイジン」は、羊水中サーファクタントプロテインA
(SP−A)をEIA法で測定するキットで、平成8年8月13日付けで保険収載
(450点)され、新生児呼吸窮迫症候群(RDS)の診断に利用されている。今回
は、同じキットを血清中の肺サーファクタントプロテインA(SP−A)の測定
に保険適用拡大を申請したものである。血清中のSP−Aが間質性肺炎で上昇
することより本キットを用いて特発性間質性肺炎の鑑別診断に利用する。特発
性間質性肺炎は、肺の間質(肺胞隔壁)に炎症細胞浸潤を呈する疾患の総称であ
り、持続する肺胞炎とその結果として惹起される肺の線維化を特徴としてい
る。特発性間質性肺炎で損傷を受けたII型肺胞上皮細胞が、腫大、増生により
このSP−Aの産生量が増加する。
 血清SP−Aによる特発性間質性肺炎における有病正診率は71.4%(80/112
例)で、無病正診率は78.9%(225/285例)であった。その他、血清SP−Aの
陽性率は肺胞蛋白症で54.5%、膠原病性間質性肺炎44.4%、塵肺28.6%、サル
コドーシス14.6%であった。その他の肺疾患群では肺結核29.0%、びまん性汎
細管支炎26.3%、細菌性肺炎14.8%、慢性肺気腫6.5%、気管喘息2.9%、健常
人4.6%であった。血清SP−Aは特発性間質性肺炎の診断に用いれる他
に、、病状安定期と急性増悪期の鑑別、特に後者で有意に高値を示すこと(細
菌性肺炎では上昇しない)から、経過観察に有用性が指摘されている。特発性
間質性肺炎の急性増悪期における各種検査の陽性率についてみると、血清
SP−A、LDH、赤沈、CRPはそれぞれ100%/75%/60%/50%と血清
SP−Aが優れていた。
【保険請求上の注意】 SP−D(サーファクタントプロテインD)、シアル化
糖鎖抗原KL−6及びSP−A(サーファクタントプロテインA)のうちいずれ
か複数を併せて実施した場合は、主たるもののみ算定する。
【文献】 阿部庄作、他:各種肺疾患における血清肺サーファクタント蛋白質
-Aの臨床的意義.日胸疾会誌、33:1219-1225、1995

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[新規収載]◆インフルエンザAウイルス抗原
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インフルエンザAウイルス抗原(準用先区分D012-15)(区分D-1)
平成11年11月1日より適用の感染症血清反応
保険点数:200点 定性検査
製品名:ディレクティジェンFlu A
製造元:Becton Dickinson Microbiology Systems, Cockeysville, Maryland,
U.S.A.
輸入販売元:日本ベクトン・ディッキンソン(株) TEL 03-5413-8171
測定法: EIA法 18テスト/キット(シングル測定)
結果がでるまでの時間:約10分  自動化:不可
検体:鼻腔洗浄液、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引液及び咽頭ぬぐい液
【特徴】 鼻腔からの検体に抽出試薬を加え、抗原であるインフルエンザAウ
イルスのリボ核蛋白を露出させ、検出試薬(抗インフルエンザAウイルスアルカ
リフォスファターゼ標識マウスモノクローナル抗体)を加えて抗原と反応さ
せ、基質を添加し発色させ目視により観察判定する。
 インフルエンザウイルスは、オルトミキソウイルス科に属すRNAウイルス
で、A、B、Cの3種類の血清型がある。インフルエンザウイルスはヒトに病
原性を持ち、上気道および下気道感染を引き起こし、初発症状から中枢神経系
症状の発現および死に至る期間が極めて短いので迅速な診断と処置が必要とさ
れている。現在までのインフルエンザA型ウイルス感染の診断には、免疫血清
検査法、直接免疫蛍光法、分離培養法などがあるが操作が複雑であったり、特
異性が悪かったりしてあまり普及していない。従来の抗体測定ではペア血清が
必要で結果が得られるまで少なくとも1週間はかかる。本キット(ディレクティ
ジェンFluA)は、患者から採取した検体(鼻腔洗浄液、鼻腔ぬぐい液、鼻腔吸引
液、咽頭ぬぐい液)から抽出したインフルエンザAウイルス抗原を検出するた
めに膜フィルターを利用し、A型インフルエンザのリボ核蛋白に特異的なモノ
クローナル抗体を使用したEIA法で検出する。本キットは、従来法に比較
し、複雑な機器、試薬を必要とせず、操作が簡単で10分間で迅速診断できると
いう利点がある。B型およびC型には反応しない。また本キットの検出率はイ
ンフルエンザウイルスの分離培養法とほぼ同等で、検出限界は2.4×10^3 pfu/
assayであった。
 わが国および米国において細胞培養を基準として本キットを評価すると、有
病正診率は81%/89%、無病正診率は99%/90%と良好であった。本キットを
使用することにより、インフルエンザA感染患者の早期診断と早期治療(アマ
ンタジン)が可能となり、この結果、インフルエンザAによる小児脳症・脳炎
の減少、有病期間の短縮、高齢者やハイリスクグループにおける合併症や死亡
例を減少させることが期待される。
【保険請求上の注意】 インフルエンザAウイルス抗原は、発症後48時間以内
に実施した場合に限り、区分「D012」感染症血清反応の「15」に準じて
算定する。ただし、インフルエンザAウイルス抗原と同区分「8」のウイルス
抗体価のインフルエンザウイルスA型を併せて実施した場合は、主たるものの
み算定する。
【文献】 清水英明:ELISAを用いたA型インフルエンザウイルス迅速診断
キットの検討.感染症誌、827-833、1998

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[Q&A] ◆生殖医療と臨床検査技師
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(Q)臨床検査技師を目指して勉強中ですが、生殖医療に興味があります。将
来顕微受精等に従事することは可能でしょうか。(大学生)

(A)正確な統計はありませんが、顕微受精等の作業に携わっている臨床検査
技師は、既にかなりの数に登っていると推測されます。今のところ従事者に関
する法的な規制はありませんが、現在最も権威ある指針としては、平成4年1月
に日本産科婦人科学会から「顕微授精法の臨床実施に関する見解」が会告とし
て出されています。これによると実施者は専門医であることを条件とし、実施
者のもとで実際に作業に従事する者を「実施協力者」と位置づけ、「本法の基
礎的技術に十分習熟したもの」に制限し、実施者とともに氏名を登録すること
になっています。
 いずれ何らかの法律が定められると予想されますが、従事者として、広範な
医学的知識を持ち、無菌操作に慣れている臨床検査技師は、最も有力な職種と
言われていますので、恐らく認められると考えてよいと思います。それに呼応
して、専門技師制度なども整備されることになるでしょう。上記会告の掲載さ
れている日本産科婦人科学会のホームページ(http://www.jsog.or.jp)など
で、今後の社会的なコンセンサスの動向に注意してください。

回答日:1999年11月19日
回答者:認定臨床検査医 西堀眞弘(No.269)

[ホームページ/臨床検査ネットQ&A(その他)]
 
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[編集後記]◆実践的経済学のすすめ
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 近頃いわゆる「商工ローン」の過酷な取り立てが問題になっています。商工
ローンとは、主に小規模事業者に無担保で事業資金を貸付けるノンバンクの一
種で、中小企業向けのサラ金といってもいいでしょう。これらの業者の貸出先
として、最近急速にシェアを延ばしているのが、医院や病院と言われており、
実は我々にとっても無関係の話ではないのです。

 商工ローン業者の高収益の源は法外な金利にあります。利息制限法に定めら
れている上限金利は、元本に応じて年15〜20%なのですが、事実上守られてい
ません。一方罰則規定のある出資法では、上限が40.004%ですので、これが事
実上の上限金利になっています。100万円貸して1年経ったら140万円返しても
らうのですから、儲からない訳はありませんが、問題は回収率です。踏み倒さ
れたら丸損なので、業者は必ず連帯保証人をつけるように求め、債務者が返せ
ないと、即座にこの連帯保証人から回収します。これがサラ金との大きな違い
で、サラ金の取り立ては債務者本人に限られるのに対し、商工ローンは初めか
ら連帯保証人に狙いを定めて取り立てるので、報道されているような悲劇が頻
発します。

 まともな経営者なら、このような業者にお世話になることはない筈なのです
が、社会問題化した陰には、銀行の身勝手な融資姿勢があることを見逃しては
なりません。ビッグバンを控えて資産の圧縮を迫られている銀行は、たとえ経
営状態が良いところであっても、無差別に融資の回収に走っています。事業資
金の追加融資の相談に訪れた経営者が、銀行から「いったん返済してもらえれ
ば融資枠を増やせるから」等と言わてその通りにすると、手の平を返したよう
に取引を止められ、止むを得ず高利の商工ローンに駆け込むという訳です。政
府が用意した中小企業向けの緊急避難的な公的融資枠も、銀行からの融資をそ
の枠に借り換えさせることを秘かに画策しているために、殆ど効果が出ないの
です。さらにその裏で、何と銀行自身は、高い金利が取れる商工ローンへの融
資額を急速に増やしているのです。

 自分の所属する病院が独立採算制となって暫くたったある日、病院の経営者
に呼ばれ、「一時的な運転資金を借りるので、形だけ保証人になってくれない
か」と頼まれたら…。

 社会全体が規制緩和の大号令のもとに変革を遂げつつある今、例え専門医と
いう立場にあっても、いつこのようなお金のトラブルに巻き込まれるか分かり
ません。学者が世間知らずの代名詞で通った時代は過ぎ去りました。さらに、
医療機関の経営や国の医療政策への関与などを考えれば、今後は経済を知らず
には専門医として務まらなくなる可能性が高いと言えます。我々もいわゆる
「サイエンス」の領域に閉じこもっていないで、これまで文科系の人間に任せ
切りにしてきた経済について、身近なところから、実学として学び始める必要
があるのではないでしょうか。

[編集担当 西堀眞弘]

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JACLaP WIRE No.15 1999年11月19日
■発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
■編集:JACLaP WIRE編集室■編集主幹:西堀眞弘
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