JACLaP WIRE No.13 1999.10.20 



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          JACLaP WIRE No.13 1999年10月20日
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[特別寄稿]◆WASPaLMに参加して
 
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[特別寄稿]◆WASPaLMに参加して
          東京医科歯科大学医学部附属病院検査部 西堀眞弘
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(写真掲載版は<http://www.jaclap.org/wire/No_0013.html>でご覧下さい)

 先頃第20回世界病理学・臨床検査医学会議(WASPaLM)が開催されたサンパ
ウロは、日本から見て地球の丁度反対側、即ち地球上で最も遠いところにあり
ます。日本を9月15日に発ち、シアトル、マイアミと乗り継いで、搭乗時間だ
けでも合計約24時間の旅を経て、現地時間の9月16日にサンパウロ郊外の空港
に降り立ちました。時差が丁度12時間なので、昼と夜を正反対にするとそのま
ま向こうの時刻になります。途中北米大陸東部を史上最大のハリケーンが襲っ
たため、マイアミ空港は直前まで閉鎖されていたそうですが、我々が通過する
直前に再開され、運良く足止めを食わずに済みました。空港直上のホテルに泊
まってすぐ発ったのでよく分かりませんでしたが、大分被害が出てマイアミ市
街のホテルは避難者で満杯だったそうです。

 サンパウロの9月はまだ初春で、朝夕は肌寒いものの、日中の日なたは暑い
程でした。それでも、内陸の高原に開けた街なので、日陰では爽やかな風が心
地よく、勉強するにはもってこいの気候でした。宿泊したのは郊外の高速道路
の脇にそびえる地上12階の近代的な設備を備えたホテルで、周囲には勉強の
邪魔になるような店はなく、車で30分程離れた学会場とは朝夕2便ずつのバ
スで移動するしかないうえ、郊外の広大な敷地に立つ学会場には周囲に駐車場
しかないという、これまた勉強するのにはもってこいの環境でした。ホテルの
正面には高速道路を挟んで、中央にオベリスクの建つ緑豊かな公園があり、
ジャカランダの木に紫の花が咲きとてもいい眺めでした。
 
 写真1 ホテルの窓から
(手前から住宅地、高速道路、およびその向こうのオベリスクのある公園。こ
の写真では分かりにくいが、公園の右端の一角にジャカランダの木、その奥に
は美しい池がある)

 
 写真2 シャトルバス
(タイヤの中央に車体から細いパイプが延びているのが見えるであろうか。道
路の凹凸が激しいため、高速走行時に運転手がタイヤの空気圧を調節するため
のものだそうである)

 学会場は地表から少し地面を掘り下げ、中央の黄色いドーム会場の周囲に会
議室や展示場を配置した平屋建てで、うっかりすると迷子になってしまう程の
広さです。事前登録が洩れていたりなどの小さなトラブルはご愛嬌ですが、現
地スタッフは皆学会の成功に向け懸命にそれぞれの役割を務めていたので、好
感が持てました。その熱意の甲斐あってか、会場には前回と打って変わって多
数の参加者や出展社がひしめき、事務局の発表によると登録者数3lカ国4ll3
名、展示99ブースと大変な盛況でした。会場の脇や街のあちこちに骨組みだけ
の巨大なビルが放置され、失業者も目に付くなど、経済危機からはまだ十分に
立ち直っていないようですが、これだけの準備を整えた学会関係者の努力が偲
ばれます。
 
 写真3 学会場入口付近
(レストランの入口みたいなアーケードに沿って階段を降りていくと会場の
門がある。左側にドームの一部が見えている)

 
 写真4 学会入口の反対側の景色
(中央の釣竿が向かい合ってしなっているような構造物は、年に1度だけ用い
られるカーニバル専用の会場である。スタジアムには2階席も作られている)

 
 写真5 展示場
(広いのでごく一部しか写っていない。カフェテリアのパラソルが右端に見え
ている)

 会場内の要所要所に配置されたCRTモニターには、プログラムの進行がリア
ルタイムでディスプレーされ、各会議室内に完備された液晶ディスプレーの制
御パソコンと共に、LANで結んで一括管理しているのには少し驚かされまし
た。また、全部で5つの発表会場のうち2つが海外からの発表、残りが近隣か
らの発表に割当てられており、前者には英語とポルトガル語の同時通訳が付け
られていました。どの会議室も200人は入りそうな広さでしたが、皆熱心に参
加し満杯で入れない所も少なくありませんでした。口演発表の殆どが、予め
テーマごとに企画されたワークショップやラウンドテーブルのセッションで占
められ、一般演題は全てポスター発表でした。ポスター会場はカフェテリアを
挟んだ外れの方に設置され、1演題当たりの割当てが半日だけで特に発表時間
も設けられていないため、余り人は集まっていなかったようです。
 
 写真6 口演会場
(講演しているのはマルチルールで有名なウエストガード博士で、会場はほぼ
満席の状態であった。現地の参加者は英語からポルトガル語への同時通訳を聞
くためにレシーバーを付けている)

 
 写真7 休憩所とその脇のポスター会場
(左手のパラソルが林立しているところがカフェテリアで、その奥右手にポス
ターの掲示板が見える)

 日本からの参加者は、5つの招請セッション講演、学会の運営会議出席、ポ
スター発表などで約40名程でしたが、他の口演やポスター、出展説明の多くが
ブラジルの標準語であるポルトガル語であったため、ちょっと疎外感を感じて
しまいました。発表内容の全体的なレベルは、最先端の成果というよりは基本
的知識の啓蒙という性格が強いようでした。しかし中には教科書でしか読んだ
ことのない寄生虫の話や、はたまた拷問の医学など、日本では聞けないような
話題もありました。

 ウェルカム・パーティーは、とんでもなく広い会場に丸テーブルが数百個並
べられ、恐らく出席者が千人を超える大変な規模のものでした。ところが、新
役員の発表や慈善オークションのセレモニーが予定されているのに、いきなり
舞台でバンドの演奏が始まってしまい、皆浮かれてステージ前に出てきて踊り
出し、いつまでたっても食事が始まらないので、日本からの参加者の多くは呆
れて10時頃皆でホテルに帰ってしまいました。ところが残っていた人の話によ
ると、そのあとサンバの踊り子が参入してもっと盛り上がったうえ、10時半
位に食事が始まり、その後ちゃんとセレモニーをやって、予定通り午前1時く
らいに終わったそうです。やっぱりこちらの人は時間感覚が全然違います。ご
ちそうを食べ損ねた上、森三樹雄次期会長の就任発表もあった筈なのに、その
場にいなかったのが残念でした。
 
 写真8 ウエルカムパーティー会場
(奥にステージがあり、その前で人々が踊っているのだが、写真ではフラッシ
ュの光が届かず見えにくい)

 
 写真9 ウエルカムパーティーにて、その1
(左から河合教授ご夫妻、神辺教授ご夫妻、櫻林教授ご夫妻。このテーブルは
最前列であったため、後程ステージ前で踊っている人々が溢れて押し寄せてき
た)

 
 写真10 ウエルカムパーティーにて、その2
(中央が今回の総会長であるMelo氏。実物は写真で見るより大きく見える。撮
影:獨協医科大学越谷病院臨床検査部 柴崎光衛氏)

 翌日の夜は早くもさよならパーティーです。これは有料だったので、昨日と
は打って変わって30くらいの丸テーブルが半分しか埋まらない程度の人数でし
た。やはり開会の挨拶も乾杯もセレモニーは何もなく、バンドの演奏で皆踊っ
ているだけで終わってしまいました。こちらの人はステップを踏むのが大好き
みたいで、何時間でもやっています。巨漢の総会長が、わざわざ参加者のテー
ブルを回ってひとりひとりに声をかけ、細かく気遣っていたのが印象的でし
た。今回は昨日の過ちを繰り返さぬよう、最後までねばって食事をいただき、
肉がおいしかったので全部食べたら、ズボンのベルトがきつくなってしまいま
した。こちらの人は食べる量が違うので、付き合っていたらあっという間に
肥ってしまいます。

 件の総会長は大手検査会社の経営者なのですが、家に招待された方の話で
は、日本では考えられないほどの豪邸に済み、高価な絵画をふんだんに飾って
いる大金持ちとのことです。近ごろ日本では貧乏臭い話題ばかりなので、その
話に思わず感動して「これからの検査医はそのような姿を追求すべきではあり
ませんか」とある名門国立大学検査部の元教授に水を向けたら、「医師という
のはお客を探す努力をしなくても、困っている人々に必ず必要とされる存在な
のだから、儲けようなどとはとんでもない心得違いだ」といたく叱られ、ひた
すら恐縮していました。でも、やっぱり少し位は良い話もないと…などとつい
つい未熟さゆえの愚痴も出てしまうのでした。

 最終日には森三樹雄次期会長の計らいで、南米最大級のサンパウロ大学病院
の検査部を見学することができました。病院は入院3000床、1日の外来患者
3500〜4000人、女子医大のように小児科や循環器科が別棟のセンターになって
いる巨大な病院で、敷地も広大でした。検査部には近代的な設備が整い、とて
も清潔で何とISO 9002を取得してきっちり仕事をしていました。特に検査部の
中に病理、臨床病理と並んで情報部門があり、殆どの自動分析装置に天井から
色分けされたパイプが延びてオンライン化されており、報告がリアルタイムで
医師に送られているのには驚きました。後で日系人のガイドも言っていました
が、ブラジルは先進国と肩を並べる水準に達している部分と、そうでない部分
がモザイクのように混在しているというのが実態のようです。ラテン気質から
来るルーズさは気になるものの、向上への熱意や能力を考えれば、もっともっ
と発展する可能性を秘めた国であるように感じました。
 
 写真11 サンパウロ大学病院の検査部にて
(和やかな雰囲気で説明を聞く見学者。中央に立って説明している方が見学の
世話役でとても親切な生化学部門の主任)

 ところで、今回次期会長に選出された森三樹雄先生の会長任期は2001年〜
2003年で、2001年のデュッセルドルフの後、2003年にソウルで開催される第22
回会議の準備支援が重要な課題になります。今回も韓国からは前宣伝のために
ソウル大学の担当教授らが現地入りし、展示会場の一角にブースを構え陣取っ
ていました。WASPaLMは臨床病理学および臨床検査医学を束ねる国際学会であ
るにも関わらず、その勢いはIFCCに遠く及びません。日本はこれまでWASPaLM
に対して多大の貢献を積み重ねてきており、今回の次期会長の人事もそれが高
く評価されたものです。先輩の努力によってWASPaLMでの日本の発言力が高
まってきた今、さらなる発展を期するためにも、日本の関係者の積極的支援が
強く望まれます。
 
 写真12 WASPaLMの新役員
(前列左から森三樹雄次期会長、William B Zeiler前会長、後列左から櫻林郁
之介事務局長、Utz Merten会長。写真提供:獨協医科大学越谷病院臨床検査部
森三樹雄教授)

 今回は地球の裏側で様子の分からないことも多々あり、オプショナルツアー
の途中で乗り継ぎの飛行機から溢れてしまった人が出たり、チャーターした車
にぼられたりとかいろいろあったようですが、とりもなおさず大きな事故もな
く、楽しい思い出とともに全員無事帰国できました。準備期間および会期中に
お世話になった先生方および関係者の方々に、この場を借りて厚くお礼申し上
げます。

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JACLaP WIRE No.13 1999年10月20日
■発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
■編集:JACLaP WIRE編集室■編集主幹:西堀眞弘
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