JACLaP WIRE No.10 1999.09.06 



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          JACLaP WIRE No.10 1999年9月6日
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│本メールは日本臨床検査医会の発行する電子メール新聞です。なるべく等|
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[お知らせ]◆故土屋 俊夫博士を偲ぶ会のお知らせ

[ニュース]◆(訂正)第17回日本臨床検査医会振興会セミナー開催
[ニュース]◆トルコ地震の際に報道された誤解に対しWHOが警告
      〈WHOトピックス Press Aug. 1999 WHO-121〉
[ニュース]◆コソボで感染症流行の危機
      〈WHOトピックス Press Aug. 1999 WHO-120〉
[ニュース]◆日光とヒトの健康
      〈WHOトピックス Fact Aug. 1999 WHO-119〉

[特別寄稿]◆土屋俊夫先生のご逝去を悼む
[特別寄稿]◆感染症のピットフォール(連載第5回)

[新規収載]◆(訂正)SP-D(サーファクタントプロテインD)

[Q&A] ◆HIVの抗体検査の世代交代の要因
[Q&A] ◆新生児のPIVKA測定の意義
[Q&A] ◆Bウイルスなどのペットから人間に感染するウイルス

[編集後記]◆続:早い・安い・うまい?電子メール新聞を目指して
 
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[お知らせ]◆故土屋 俊夫博士を偲ぶ会のお知らせ
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 日本臨床病理学会名誉会員、日本臨床検査医会会員、日本大学臨床病理学名
誉教授の故土屋 俊夫博士を偲ぶ会を10月3日1時〜3時まで日本大学医学部記
念講堂で行ないますので、関係者はご参集ください。

[1999年9月1日 日本臨床病理学会前会長
        日本大学医学部教授・臨床病理学 河野均也]
 
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[ニュース]◆(訂正)第17回日本臨床検査医会振興会セミナー開催
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 No.9でお届けした記事に誤りがありました。特別講演の演者は竹内輝博先生
ではなく、正しくは高橋淑郎先生です。お詫びして訂正するとともに、以下に
正しいプログラムを再掲します。

 第17回振興会セミナーは次のプログラムで盛会裡に開催された。

 日  時: 平成11年7月9日(金) 13:30〜16:30
 場  所: 東京ガーデンパレス(湯島会館)3階 平安の間
       東京都文京区湯島1-7-5 TEL:03-3813-6211

 開会の挨拶 13:30               日本臨床検査医会会長    大場康寛

 特別講演  13:40〜14:50(講演60分、質疑10分) 司会  大場康寛
    「医療経営から見た臨床検査
         ―医療行政、内部管理、将来展望―」
            国際医療福祉大学医療福祉学部
                医療経営管理学科教授    高橋淑郎

 休  憩  14:50〜15:00 コーヒーブレイク

 学術講演1 15:00〜15:40(講演30分、質疑10分) 司会   森三樹雄
    「肥満と臨床検査」
                    済生会船橋病院院長    篠宮正樹

 学術講演2 15:40〜16:20(講演30分、質疑10分) 司会   桑島 実
        「スポーツと臨床検査」
         東京医科大学衛生学・公衆衛生学講師     高波嘉一

 閉会の挨拶 16:20      日本臨床検査医会副会長     桑島 実

 懇親会   16:30〜18:30 東京ガーデンパレス 2階 羽衣の間

[1999年7月9日 渉外委員会]
 
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[ニュース]◆トルコ地震の際に報道された誤解に対しWHOが警告
            〈WHOトピックス Press Aug. 1999 WHO-121〉
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 大災害が発生すると感染症の流行、死体による感染、外国からの医療援助の
必要性、薬品や医療用具の大量供給、野戦病院援助の必要性などの数々の誤っ
た報道が伝えられている。WHOのThieren博士によれば自然災害が発生する
と医療サービスは24時間以内に提供できるようにすべきであり、負傷者の大多
数は災害発生3〜4日後に来院し、その後は普通のパターンに戻る。建物倒壊
から救出された人の85〜95%は地震発生後24〜48時間以内に助け出されてい
る。一般に地震発生後1週間経過すると、一般的な治療の要望や外科的処置の
要望は平常に戻る。負傷者数がいくら多くても、患者の大多数は軽い切傷や打
撲傷であり、少数は骨折を起こし、ごく少数では複雑骨折や内臓障害を起こ
し、手術や集中治療が必要になる。地震の場合に感染がおこるのは、上下水道
施設の破壊、予防接種率の低下や衛生環境の破壊がおこり、蚊や囓歯類動物が
増えるためである。自然災害では死体による感染はほとんどみられない。今回
のトルコでの医療支援では挫滅症候群を防ぐために輸液が必要となったが、重
症例では腎透析を行なった。外国からの援助が問題となるが、古着、自分の使
用している薬剤、血液・血液関連製品の提供、医師団あるいはパラメディカル
チームの派遣や野戦病院の設置などは不要であるとのことである。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[ニュース]◆コソボで感染症流行の危機
      〈WHOトピックス Press Aug. 1999 WHO-120〉
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 コソボでポリオの疑い1例、A型肝炎の疑い24例、腎症候性出血熱1例が発見
された。コソボでは過去4年間のワクチン接種は極めて低率であった。2歳児に
対するポリオと麻疹ワクチンの接種は1996年で53%にしかすぎなかった。1996
年にはアルバニアとコソボでポリオが流行した。WHOはユニセフと共同で
2000年末までに地球上からポリオを撲滅するためのキャンペーンに取り組んで
いる。WHOと民間組織は共同でポリオ、麻疹、破傷風、ジフテリア、百日咳
の5種類のワクチン接種を開始している。8月4日〜11日の間に首都プリスティ
ナの病院に入院した24例の黄疸患者はA型肝炎の疑いが強く、汚染した水から
感染したようである。低ワクチン接種率、水道水および衛生状態の悪さ、廃棄
物の回収の欠如、人口の持続的移動などが原因で感染性疾患の流行は起こる。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[ニュース]◆日光とヒトの健康〈Fact Aug. 1999 WHO-119〉
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 日光はヒトが生活する上で必要であると同時に、ヒトの健康に極めて危険な
ものにもなる。日光に当り過ぎると、種々の皮膚癌や白内障などの眼科疾患に
なる。過剰な紫外線にあたると、慢性の皮膚病変をおこす。このうち、メラ
ノーマは最も悪性度が強い。紫外線が線維細胞を傷害し、皮膚をたるませ、そ
の結果、皺がよるため老けて見える。世界中で毎年200万人の皮膚癌が発生
し、20万例のメラノーマが発病する。オゾン層が10%減少すると30万例の皮膚
癌と4500例のメラノーマが発生することになる。皮膚癌は白人に多く発生す
る。紫外線の眼に対する急性影響は、日光角膜炎や日光結膜炎である。慢性影
響は翼状片、結膜の扁平上皮癌、白内障などである。世界で2000万人が白内障
で盲目になる。このうち20%近くが紫外線による。

[ホームページ/世界の保健医療ニュース]
 
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[特別寄稿]◆土屋俊夫先生のご逝去を悼む
           日本臨床病理学会前会長
           日本大学医学部教授・臨床病理学 河 野 均 也
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 日本臨床病理学会名誉会員,日本大学名誉教授 土屋俊夫先生は,平成11
年 7 月21日午後 7 時22分,胃癌のためご逝去になりました。体調を崩され
てから約 2 カ月間という比較的短い御療養でございましたが,検査の結果手
術不能の結果を聞かれ,強力な治療は拒まれ,御自宅で奥様に看取られながら
静かなご臨終であったとのことでありました。また,ご葬儀はご家族とごく親
しい方々のみによる密葬にて執り行うようにとの先生らしい遺言にしたがって
執り行われました。
 先生は昭和17年,日本大学医学部をご卒業になりました後,海軍軍医とし
て第二次世界大戦に参戦されました。昭和20年に復員されました後は,国立
東京第二病院に勤務され,ライフワークとされた臨床微生物学を中心とした活
動を開始されました。時あたかも日本における臨床病理学はその黎明期にあ
り,昭和26年臨床病理懇談会として発足,昭和28年に日本臨床病理学会に改
称した本学会創立期からの会員でもあり,昭和35年には既に学会幹事として
その名を連ねられておられます。
 また,先生は昭和38年には,昭和大学(石井 暢教授),東京医科大学(福武勝
博教授),日本医科大学(高山弘平教授)と共に日本大学にわが国 3 番目の臨床
病理学講座を初代教授として開講されました。その後,昭和59年定年退職さ
れるまで20年の長きにわたり臨床病理学教室を主宰され,その門下生から河
合 忠,河野均也,櫻林郁之介の 3 名の臨床病理学会会長の他,古田 格 近畿
大学教授,桑島 実日本臨床検査医会副会長,松田重三 帝京大学教授,川端真
人 神戸大学教授,熊坂一成 助教授など本学会において現在活躍中の人材を,
また日本臨床衛生検査技師会においても,元会長の佐藤和身,現会長の岩田
進,元副会長の岩田 弘など多数の人材を育ててこられました。
 日本臨床病理学会におきましては,評議員,幹事として長年本学会に貢献さ
れましたが,昭和41年からは臨床検査機器委員会の委員長として医療内容の
水準を確保・向上させるために検査機器の適正な配備と合理的な管理が必要で
あるとの考えから,検査機器にコード番号を付して整理し,現在でも機器管理
に広く対応できる分類法を提示されました。さらに,昭和53年には,認定医
制度委員会の委員長として認定臨床検査医制度を発足させられました。続く昭
和54年には,第26回の日本臨床病理学会総会を総会長として盛大に開催され
るなど,多方面にわたるご活躍を頂きました。
 日本大学においても,板橋病院副病院長,および医学部附属看護専門学校長
などとして日本大学医学部の運営にも大いに手腕を発揮されました。
 先生は,病院検査部の在り方を懸命に考え続けてこられた方でした。日本大
学板橋病院臨床検査部の30周年記念文集の中で,日本大学病院の検査部を日
本一にするための哲学として,
 1.私立の大学病院では,病院のどのスペースもどの施設設備も機器も患者
 に最高の医療を与えると同時に,それが医学教育につながらなければなら
 ない。
 2.職務としては,医療は医師と患者が向き合ったときからはじまるが,こ
 の輪が中心となってコメディカルが働く。
 3.職種としてはすべてが,平等に社会的に受け入れられなければならな
 い。
 4.医療の中心は患者と医師の対面ではあるが,全ての医療職の共同作業が
 医療を成立させるものである。
 5.製品の直接製造部門は検査室の臨床検査技師の担当。営業,開発,渉外
 は臨床病理科の担当。この両者の緊密なほど一つの働きが多方面に生きて
 行く。
 6.総ては患者のためと,教育のため,をモットーにしてきたと記されてい
 ます。
 さらに「検査室の現場で最高の技能を発揮して,臨床の患者のため,臨床の
教育のため働く技師と,それをバックアップして,さらに高進の教育と研究を
担当する臨床病理科の積極的な協力は,これからも医療の中心となって行くの
でしょう」と続けておられます。
 先生はその全身全霊を臨床検査と臨床病理学に捧げてこられました。日本臨
床病理学会の創立期から活躍を頂き,検査部門運営が最も危機を迎えているこ
の時期にこそ,我々が進むべき方向を指し示していただかなければならない先
生を失ってしまったことは真に痛恨の極みであります。
 ここに謹んで先生のご逝去に対し心から哀悼の意を表し,御冥福をお祈り申
し上げます。
 
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[特別寄稿]◆感染症のピットフォール(連載第5回)
                  佐賀医科大学検査部 田島 裕
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8.「薬物投与の落とし穴」とは何か?  (その1)

  不幸にして感染が成立してしまった場合には、患者の抵抗力が弱いほど、薬
剤の抗菌力に頼らざるを得なくなる。感染症治療のポイントをあげるとした
ら、以下の2点に要約されよう。

(1)当然のことながら、十分な抗菌力と組織移行性を有する薬剤を選択する。
検査結果は in vitro でのMICを報告しているに過ぎない。
・MRSAの治療に際して、バンコマイシン(VCM)とアルベカシン
(ABK)に頼りすぎているの感がある。これらの薬剤は、両者ともに水溶性
の巨大分子であり、投与後は主として細胞外液にしか分布しない。従って、
(極論すると)これらの2薬剤がその分布領域以外の区域へ(例;髄膜腔)移
行するのは、炎症のために組織が破壊されている場合のみである。例えば、健
康人に投与しても痰中には殆ど出てこない。
・従って、コロナイゼーションには、この両者は(静注投与しても)全く無効
である。敗血症か、感染巣が血管から近い位置関係にある場合以外には、用い
てもあまり効果はあるまい。当然、炎症が終息に向かうと、「効き」は悪くな
るであろう。MRSAのコロナイゼーションには、(炎症がなくとも喀痰中に
移行する)RFP+STの組み合わせを推める人が多い [6,7]。
・抗菌薬の「組織移行度」に関しては、明確なデーターは得にくいが、髄液へ
の透過性とある程度相関性があるものと思われる(表1)。即ち、「炎症の有
無に拘らず髄液に移行する薬剤」は、概して組織移行性や細胞内移行性が高い
と考えられる。
・また、重要なことであるが、白血球の殺菌能力が落ちている場合には、表1
の(ロ)や(ハ)のグループに属する薬剤の中には、白血球内に移行せぬもの
が多いため、確実に患者を治癒に導くことが難しい。よって、(イ)や(*)
などの細胞内へ移行する薬剤の中で、感受性があるものを併用することが望ま
しい。この考え方に立脚した治療を行なって成功した例については、既に
「」で紹介してある。


表1  各種抗菌薬の髄液移行度
━━━━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━┳━━━━━━━━━━━
    (イ)     ┃   (ロ)   ┃    (ハ)
 炎症の有無に関わらず ┃ 炎症時のみ移行 ┃ 炎症があっても十分
 髄液へ移行するもの  ┃  するもの   ┃  移行しないもの
━━━━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━╋━━━━━━━━━━━
 ST合剤       ┃ ペニシリン類  ┃ 第1世代セフェム
 クロラムフェニコール ┃○バンコマイシン ┃ セファマンドール
 メトロニダゾール   ┃ 新世代セフェム ┃ セフォキシチン
 イソニアジド     ┃ セフォタキシム ┃◎テトラサイクリン
 エチオナミド     ┃ セフォペラゾン ┃*エリスロマイシン
 シクロセリン     ┃ セフチゾキシム ┃○アミノグリコシド類
 フルシトシン     ┃*リファンピシン ┃ アンホテリシンB
            ┃ エタンブトール ┃ ポリミキシンB
            ┃         ┃ コリスチン
━━━━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━┻━━━━━━━━━━━
文献12より、和訳・改変して引用した。
本表の(イ)に属する薬剤は、分子が比較的小さく、かつ、分子中に親水性の
部分と疎水性の部分とをバランスよく持ち合わせていることが多い(即ち、有
機溶媒と水の両方に溶解する。或は、生体の輸送担体を利用しているかのいず
れか)。当然、組織中や食細胞内にも移行することが多い。
*痰中には移行は良いようである。細胞内へも移行(?)。
◎脂溶性が高いため、筋膜炎や脂肪組織の感染(例;ニキビ)などには用いて
 もよいと思われる。
○炎症が生じていなければ、組織移行は殆ど期待できない。


・例えば、チフスの場合にはクロラムフェニコールが、ブランハメラ(モラキ
セラ)による慢性気管支炎にはエリスロマイシンが、そして結核にはRFP+
イソニアジドが用いられるのは、それぞれ細胞内に潜伏している菌を効率良く
殺すためである。慢性肉芽腫症の感染症の治療にSTがよく用いられるのも、
同様な理由である [6,7]。これらの疾患に対しては、たとえ in vitro での感
受性がどんなに優れていようとも、細胞内への移行性が乏しい薬剤では(例;
βーラクタム剤)治療に失敗する可能性が大きい。

(2)菌交代を誘発せぬように工夫する。
・これが、(1)に劣らず重要である点に気付いている人は、非常に少ない。簡
単に述べると、十分妥協できる範囲内で(臨床的に有効性が保証できる範囲
で)最も効かない(かつ最も安い)薬を使うのがポイントで、第3世代セフェ
ムの適応は、それほど多くはあるまい。
・具体的に述べると、ある感染症の治療に際して、MICが 0.1μg/ml で
1000円の薬剤Aと、MICが 0.01μg/ml で1万円の薬剤Bとがあった場合
に、0.1μg/ml 程度の組織濃度は十分達成できると考えられたならば、最初か
らBを選択する必要はない。PCGは、確かに「効かない薬」ではあるかも知
れないが、決して「過去の薬」などではない。つまり、起炎菌に対して効きさ
えすれば(例;ペニシリン感受性肺炎球菌)、他の菌には無効なので、長期間
投与しても菌交代を誘発する可能性が一番低いという利点がある。
・日常診療には(例;カゼ)、「ペニシリン+β−ラクタマーゼ阻害剤」の合
剤を使用すれば十分である。例えば、ペニシリン耐性肺炎球菌の流行は、「外
来診療における経口セフェム剤の安易な投与がその最大の原因である」とされ
ており(=日本中で菌交代を起こした)、このように「不必要な
overmedication」を延々と続ける限りは、(特に常在菌の)耐性化を避けるこ
とができず、将来により深刻な事態を迎えるであろう。
・同一の薬剤を連続して投与すると、大体3日目で体内の菌量は最低になり、
4日目あたりから菌交代が多かれ少なかれ発生する。7日間投与すると、菌叢
(フローラ)は完全に一変していると考えてよい。にもかからず、殆んどの患
者が7日目以降に症状が悪化しないのは、宿主固有の「抵抗力」があり、交代
菌による侵襲に抵抗しているからである。それだけの「抵抗力」を有する個体
に、敢えて最初から overmedication をする理由があるだろうか?


9.「薬物投与の落とし穴」とは何か?  (その2)

  よく「面倒だから」といって、抗生物質の点滴を 15分程度で終わらせてい
る人(a)をよく見掛けるが、これでは全く「点滴」の意味がない。また、薬
物を4〜5時間かけてゆっくり投与するのも(b)考えもので、「薬物動態を
知らない」と言われても仕方のないことである。この理由について、以下に簡
単に紹介するので、是非、この機会に御一考頂きたい。

・まず、なぜ(a)がいけないかというと、このように短時間で薬物の投与を
終わらせてしまっては、薬物動態が「ワンショットの静注」と殆ど変わらない
からである。即ち、薬物は投与直後からどんどん排泄されていくので、最初の
血中濃度がいくら高くなっても、1半減期の時間が経つと、既に半分は捨てて
しまっていることになる(注16) [8]。せっかく、点滴のボトルや配管のセッ
トを用意しても、何ら特別な効果は期待できずに(注17)無駄になってしまう
(=最初からワンショットで投与すればよい!)。
・次に、(b)が好ましくない理由を述べる。薬物の初回投与がこのように長
時間に渡ると、血中濃度の立ち上がりが遅く、薬物動態が経口投与のものと殆
ど変わらないからである [8]。これでは、非経口投与(=薬物の血中濃度をす
ぐに上げられる)の利点を全く生かせていない。

  それでは、どういうやり方が望ましいのだろうか?  以下に、筆者の考えを
述べる。

・まず、薬物の1部を「ワンショット」で静注する(例えば、全体の 1/2)。
この操作で、十分な血中濃度を直ちに得ることができる。話を解り易くするた
めに、この薬剤の半減期は1時間で(α相は考えない)血清蛋白結合率は0、
そして(1/2 量の)静注直後の血中濃度は 64μg/ml であったとしておこう。
即ち、最初に全部静注したとすると、血中濃度は 128μg/ml である。
・その薬物の半減期や体内動態を考えて、望ましい血中濃度が得られる時間ま
で、そのまま(残りの薬剤を投与せずに)待機する。但し、文献に出ている
「半減期」とは、β相での半減期を指している場合が多いので、注意が必要で
ある(注18)。
・このレベルで血中濃度を維持しようと思ったならば、次の1半減期で失われ
るであろう薬剤の量が、徐々に1半減期かけて体内に入るような速度で点滴を
開始する。上の例に当てはめると、例えば血中濃度を 32μg/ml に維持したけ
れば、最初の静注から1時間経った時点で(この時点で全体の 1/4 が排泄さ
れている)、次の1時間に失われる薬物の量は全体の 1/8 であるから、その
分を1時間で補ってやればよいことになる。即ち、全体の 1/2 の薬剤を溶か
した点滴液を、1時間あたり薬剤が全体の 1/8 の分だけ入るように補ってや
ればよいので、4時間で点滴が終わるようにすれば目的を達することができ
る。
・このように工夫すれば、血中濃度は5時間に渡って大体 32μg/ml のあたり
に維持されることになり(厳密に計算すると少し違うが、実際上の差し支えは
ない)、前に述べた(a)・(b)のいずれのやり方よりも効率が高くなる。
もちろん、以後の維持量の投与には「点滴静注」を選択する必要はなく、皮下
/筋肉注射や経口投与でも、十分に血中濃度を高く維持することが可能であ
る。
・同様の考察を行うと、同じ量の薬剤を投与する場合には、なるべく投与間隔
をせばめた方が有効性は増すことが容易に理解されよう(注19)。例えば、ペ
ニシリンを1日4g投与するとしたら、2gを 12時間おきに投与するより
も、1gずつ6時間おきに投与した方が治療的濃度を維持する点では優れてい
る(4倍は有利となる)。この辺りならば、たやすく実行できるのではあるま
いか?
・以上のような投与法は、特に、血清蛋白結合率が低く排泄が速い薬剤や、抗
菌作用が時間依存性である薬物(例;VCM)、或はPAE(注20)が全くな
い薬物(例;β−ラクタム剤)の場合に、より効果的である。但し、このよう
に絶えず薬物の血中濃度を一定以上に保ち続けることは、副作用的には不利な
ことであるので、注意が必要である。
・血清蛋白結合率が高い薬剤の場合には、血中の遊離の薬物濃度(=実際に抗
菌作用を発揮する)は概して低く、投与方法の影響を受け難い。このような薬
物の場合には、MICの極めて低い菌に対してしか用いることができないが、
投与回数を減らせるという利点がある(例;1日1回)。
・明瞭にPAEを示す薬剤の場合には(例;アミノグリコシド)、体内で有効
濃度を下回る時間帯があってもよいので、その分血中濃度を下げて肝臓や腎臓
などの(副作用の起こりやすい)臓器を保護するか、或は(用量を変えないの
であれば)ピーク濃度を高めに設定して殺傷効果をより強めるような投与法の
いずれかを選択することができる。


10.「薬物投与の落とし穴」とは何か?  (その3)

  その他の「薬物治療の落とし穴」と思われる諸点を、以下に列挙して簡単に
解説を試みた。

・クレアチニンの血清濃度は、腎からの排泄量と筋肉での産生量が釣り合って
いるために、見掛け上一定値を示しているが、もし産生が完全に停止したとす
ると、健常者では約2時間の半減期で血清濃度が低下してくる(このことを記
憶しておくとよい)。従って、薬物の蛋白結合率が0で細胞外液にしか分布せ
ず、かつ腎からしか排泄されない場合には(尿細管での再吸収や分泌はないと
する)、そのクリアランスはクレアチニンのクリアランス(=糸球体濾過量
(GFR))に等しく、半減期は2時間強となる(例;アミノグリコシド)。
・「半減期の長い薬剤 = いいクスリ」という公式は、成り立たない。半減期
が長い薬剤は、往々にして蛋白結合率が高く、(抗菌活性を持った)遊離体の
濃度は低い(2時間より長いか短いかで考えるとよい)。

 半減期が2時間以下=他の排泄路がある(例;胆汁)・尿細管から分泌され
           る(例;ペニシリン)・体内で代謝されてしまう
 半減期が2時間以上=蛋白結合率が高い(例;セフトリアキソン)・脂溶性
           が高い(例;ミノマイシン)・分布体積が大きい(例;
           クロラムフェニコール)・再吸収されたり腸肝循環を
           営む(例;スパロフロキサシン)

・薬剤の「添付文書」の冒頭には、「クロロホルムに溶ける云々」などと書か
れているが、これに注目すると、薬物の体内動態をある程度推定できる(注
21)。

  水溶性の薬剤(例;アミノグリコシド)=経口吸収は不良・排泄は主として
              蛋白結合は比較的腎から・半減期は約2時間(上述)・組織浸
              透は概して不良・少ない
  脂溶性の薬剤(例;ミノマイシン)=経口吸収は食事の影響大・排泄は胆汁
              からが多い(腸肝循環を営むことがある)・脂肪組織に溶解(
              従って、ざ瘡などの治療によい)・半減期は長いが有効濃度は
              低い(蛋白結合のため)・但し、代謝物が水溶性のことがある

・尿や胆汁などのように、本来細菌の生育にあまり適していない環境では、
(たとえ殺菌性の薬剤であっても)増殖依存性の薬物の効果は期待できまい
(注22)。極論すれば、あらゆる薬剤が、単に「静菌的」な意味しか持ち得な
いのではないかと考える。
・現在、最も使用量の多い抗菌薬はβ−ラクタム剤であるが、これらは菌の細
胞壁の合成は阻害するものの、(例えば、タンパク合成阻害作用のある薬物と
は異なり)細胞内の代謝は殆ど抑制しない。従って、菌が直ちに殺傷されない
ような濃度では、(菌の増殖はやや抑制されるかも知れないが)却って菌の活
力は高まっていることがあり、薬剤の効果が消失すると、このような「殺菌さ
れずに生き残った菌」は、直ちに猛烈な勢いで分裂増殖を開始する(注23)。
即ち、菌数が増えてこないのは、殺菌されたためであるのか、或は、単に増殖
が抑制されているだけなのか、ということを、常に区別しておく必要があろ
う。

注16:抗菌薬の中で最も多用されているβーラクタム系の抗生物質は、その半
減期が1時間程度のものが多く、ここで述べているような傾向は著しい。

注17:例えば、血管から漏れると壊死を起こすような薬剤を投与する際には
(例;カルシウム)、(実際の投与は15分であっても)点滴セットを用いるこ
とがある。副作用の発現がピーク濃度に依存する場合には、これを避ける目的
でも同様の操作が行われよう。

注18:「α相(=分布相)」とは、血液中に投与された薬物が、血液以外の部
分に広く分布して平衡化するまでの時間であり(約1時間以内のことが多
い)、ここでの半減期はβ相での半減期より概して短い。「β相(=排泄
相)」とは、薬物が実際に代謝・排泄されることにより、血中濃度が低下して
いく部分である [8]。

注19:間隔を大きく開けて薬剤を投与している限りは(例;1日2回の点
滴)、1回当たりの投与量をどのように選んでも、(薬物が体内から消失し
て)薬効が十分に得られない時間帯が必ず生じてしまう。ここの「空白地帯」
を「自助努力」で乗り切れるような抵抗力の持ち主は、恐らく効かない薬剤を
投与されても(或は無治療であっても)治癒するであろうし、逆にこの「空白
地帯」が自力でカバーできない患者は、副作用が出現するほど大量かつ密に薬
剤を投与しなくては、「助けた」とは言えまい。即ち、昔から言われてきた
「治る人は治るし、治らない人は治らない」ということは、科学的に正しいの
である。「天は、自ら助ける者を助ける」と言われているが、人は「既に助
かっている者」しか助けられない!

注20:PAE(post antibiotic effect)とは、菌体と抗生物質とが一旦接触
すると、薬剤が消失して有効濃度以下になった場合でも、菌の増殖が一定期間
抑えられる現象を指し、通常は、再増殖を開始するまでの時間で表す(例;2
〜3時間)。PAEがない薬剤の場合には、薬剤が有効濃度以下になった時点
から、活発に菌は再増殖を始める。

注21:水→アルコール・アセトン→エーテル・クロロホルム・ベンゼンの順に
疎水性(=親油性)が強くなる。従って、水やアルコールにしか溶けない薬剤
は「親水性」であり、ベンゼンなどには概して溶けにくい。

注22:例えば、βーラクタム系の抗生物質がその良い例で、その作用機序が細
胞壁の合成阻害であるために、菌が細胞壁を合成していない場合には全く効果
がない。事実、培地を冷却して菌の生育を抑制したところ、かなり大量を用い
ても菌を殺傷することはできなかった。ところが、薬剤を除去して培地を再加
温すると、菌は活発に増殖を開始したのである。

注23:β−ラクタム剤の場合を例にとると、薬剤の標的であるペニシリン結合
蛋白(PBP)に対する親和性の微妙な差異によって、「菌は増殖を停止して
いるが死滅していない」という状態が起こりうる。例えば、PBP3が比較的
強く阻害されると、菌はフィラメント状に伸長し、菌1個当たりの代謝活性は
倍増する。当然、薬効が切れると、菌は凄まじい勢いで増殖を開始する。


【参考文献】

[6] 感染症. メルクマニュアル(原書 第16版, 日本語版 第1版, 福島 雅
典 編), メディカルブックサービス, 名古屋, pp.1-268, 1994

[7] Reese,E.R. and Betts,F.R.: Handbook of Antibiotics (2nd Ed),
Little Brown, Boston, 1993

[8] 臨床薬理学ハンドブック(原書 第2版, 日本語版 第2版, 坂本 浩二 監
訳), メディカル・サイエンス・インターナショナル, 東京, 1991

(編集部より:この記事に関するご意見は電子メールでアドレス
 wire@jaclap.org までお寄せ下さい。必ず著者にお届けします。)
 
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[新規収載]◆(訂正)SP-D(サーファクタントプロテインD)
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 No.9でお届けした記事にいくつか誤植がありましたので、訂正したものを再
掲します。

SP-D(サーファクタントプロテインD)(準用先区分D007-29)(区分D-
1)
平成11年6月1日より適用の血液化学検査
保険点数:150 点
基準範囲:110 ng/ml未満
直線性:1.56〜100 ng/ml
製品名:SP-Dキット「ヤマサ」EIA
製造・発売元:ヤマサ醤油(株) TEL 03-3668-8558
測定法:EIA法  100 テスト/キット(40 検体/キット)(ダブル測定)
結果が出るまでの時間:24 時間  自動化:不可
同時再現性:2.9〜15.2 % 日差再現性:6.7〜8.6 %
検体:血清
【特徴】 抗ヒトSP-Dモノクローナル抗体を96穴マイクロプレートに固相
化し、一方、認識部位の異なるペルオキシダーゼ標識抗ヒトSP-Dモノク
ローナル抗体とで反応させる固相サンドイッチの原理に基づくEIA法であ
る。
 肺特異性のマーカーで、特発性間質性肺炎や膠原病性間質性肺炎の補助的診
断に有用である。肺サーファクタントは肺胞II型上皮細胞から産生・分泌さ
れ、SP-A、SP-B、SP-C、SP-Dの4種類が存在する。このうち、
SP-Dは水溶性のため血清中での定量が可能であり、特発性間質性肺炎にお
いて著明に増加することが明らかになってきた。
 厚生省研究班による特発性間質性肺炎の診断基準は主要症状、肺機能検査所
見、胸部X線所見、生検病理検査よりなり、その他に臨床検査所見として赤沈
の促進、LDHの上昇が記載されている。しかし、赤沈およびLDHは特発性
間質性肺炎に特異的な検査ではなく、より特異性の高い検査として血清SP-
Dが開発された。血清SP-DとLDHについて比較すると、それぞれ有病正
診率は88.0/50.0%、無病正診率は95.7/93.1%、診断効率は93.2/73.3%と血
清SP-Dが良好であった。
 各種疾患における血清SP-Dの有病正診率は、特発性間質肺炎88.0%、肺
胞蛋白症71.4%、膠原病性間質性肺炎71.1%、塵肺45.5%、気管支拡張症31.6
%、サルコイドーシス27.3%、結核26.3%、細菌性肺炎22.2%、慢性肺気腫
20.0%、びまん性汎細気管支炎14.3%であった。健常人における陽性率は4.3
%であった。
 その他、特発性間質性肺炎でステロイド有効例では血清SP-Dが低下し、
急性増悪例では上昇するなど病態を反映するという報告例も多い。血清SP-
Dの間質性肺疾患の診断そのものにおける特異性には肺結核、び慢性汎細気管
支炎(DPB)などの他疾患との鑑別の点ではやや不充分であるが、その臨床的
活動性の評価には治療方針の決定に当たっての従来の指標に勝る有用性があ
る。
【保険請求上の注意】 SP-Dとシアル化糖鎖抗原KL-6を併せて実施した
場合は、主たるもののみ算定する。
【文献】 本田  泰人,他:肺疾患の診断における肺サーファクタント蛋白質
D(SP-D)血清濃度測定キット「ヤマサ」の有用性.医学と薬学 36:809
〜815、1996

[獨協医大越谷病院 森三樹雄]
 
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[Q&A] ◆HIVの抗体検査の世代交代の要因
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(Q)HIVの抗体検査が第3世代まで開発されてきたのは、p24などの対応抗原
が変異しやすいからでしょうか。(薬剤師)

(A)HIVにはI型とII型があり、p24は前者のgag遺伝子の産物であるコア蛋白
です。HIV感染ではまずp24抗原が陽性になり、次いで抗p24抗体、抗gp160、抗
gp41抗体の陽性が続いた後、再びp24抗原が増加します。HIV抗原の検出法に
は、p24抗原に対するモノクローナル抗体を用いたEIA法があり、HIV感染の初
期に用います。HIV抗体の検出には、わが国ではPA法がよく利用され、両方の
型を検出することができます。
 抗体のスクリーニング検査法は、gag、pol、envなどの各遺伝子領域の産物
に対して産生される抗体を検出するものですが、当初は感度が低く偽陽性が出
やすいという問題がありました。この偽陽性は、gag領域の遺伝子産物(p24、
p17)に非特異的な部分があることが原因なので、より特異性を高めるため
に、env領域のリコンビナント抗原を用いた第2、第3世代が開発されまし
た。なお、私の知る限りp24の変異が大きいというような報告はありません。
 因に、大きな構造的可変性を示す抗原としては、env遺伝子産物である
gp120/gp160が知られていますが、ウイルス表面にあり免疫賦活活性が高いこ
とから、ワクチン開発に利用されています。

回答日:1999年9月6日
回答者:認定臨床検査医 巽 典之(No.387)

[ホームページ/臨床検査ネットQ&A
                (免疫学的検査/血清検査/輸血検査)]
 
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[Q&A] ◆新生児のPIVKA測定の意義
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(Q)新生児のPIVKAの血中濃度を測定する意義を教えて下さい。(埼玉県 臨
床検査技師)

(A)肝臓で作られる凝固因子、特にプロトロンビンの合成にはビタミンKが不
可欠ですが、ビタミンKが不足すると、そのために出来損なった凝固因子、す
なわちPIVKA(Protein induced by vitamin K absence)が血中に増えてきま
す。
 新生児ではビタミンKが不足しやすく、凝固因子が十分に作れないために出
血傾向を呈することがよくあります。そこで新生児に出血傾向が疑われる場合
には、ヘパプラスチンテスト、プロトロンビン時間、APTTなどの基本的な凝固
検査を実施し、これらの値が延長している場合、直ちにビタミンKを投与しま
す。これにより通常は凝固検査の値が改善しますが、それでも改善しない場合
には改めてPIVKAを測定し、低値を示した場合には、ビタミンKの欠乏とは考え
にくいので、肝臓自体の障害による凝固因子の産生低下を疑います。

回答日:1999年9月3日
回答者:認定臨床検査医 今福裕司(No.377)

[ホームページ/臨床検査ネットQ&A(血液検査)]
 
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[Q&A] ◆Bウイルスなどのペットから人間に感染するウイルス
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(Q)ペットから人間にBウイルスが感染したと聞きましたが、詳しく教えて
下さい。また他にはどのようなウイルスに注意が必要でしょうか。(大阪府
臨床検査技師)

(A)Bウイルスついて以下にまとめておきます。

1)病原体
 Bウイルスは、マカク属のサルに常在するヘルペス科ウイルスのサルアル
ファヘルペスウイルスである(健康なサルに潜伏感染していて、ストレスなど
で再活性化していることがある)。
2)感染経路
 実験室、動物園あるいはペットのマカク属サルとの接触(咬傷、擦過傷)及
びそれらのサルの唾液、粘液とヒト粘膜との接触(とびはね)、針刺し事故な
どの経過があること。空気感染は起こらない。
3)応急処置
 応急処置が大切で、傷口、眼、粘膜などをよく洗う。
4)潜伏期
 3日〜3週間。
5)臨床症状
 潜伏期の後、創傷部の水疱、しびれ、発熱、頭痛、神経麻痺、脳炎などの熱
性・神経性症状が出た場合にはBウイルス病を疑う。
6)診断
(1) 病原体の検出: 臨床検体(咽頭ぬぐい液、脳脊髄液、咬傷部、擦過部位
の生検組織など)からのウイルス分離と中和試験による確認など。
(2) 病原体の遺伝子の検出: PCR法など。
(3) 病原体に対する抗体の検出: ドットブロット法、ELISA法など(ヒ
トではHSV-1、2とBウイルスの抗原性は交差するので、従来の抗原抗体反応系
(免疫蛍光法等)は使用できない)。実際は、高感度で再現性に優れ他法に比
し簡便な、不活化Bウイルス抗原を用いたELISA法が用いられる(サルの
血清については、国立感染症研究所筑波医学実験用霊長類センターで検査可
能)。
7)治療
 高レベル危険の場合は、アシクロビルまたはガンシクロビルの投与。
8)報告
 感染症新法(第4類)により7日以内に最寄りの保健所へ届け出る(第12
条による報告義務)。報告のための基準は、診断した医師の判断により、症状
や所見からBウイルス感染症が疑われ、かつ、病原体診断(PCR法)や血清
学的診断(ELISA法)がなされたもの。
9)感染予防
 ウイルスは外傷部、結膜、唾液からウイルスが分離されることから、これら
の部位の治療の際には必ず手袋をする。またマスク、眼鏡等により粘膜を保護
する。

 また、主なウイルス性人畜共通感染症は次の通りです。

  疾患名  │自然宿主 │      発生要因
───────┼─────┼─────────────────────
ラッサ熱   │マストミス│都市化による病原体接触機会の増加
───────┼─────┼─────────────────────
エボラ出血熱 │ 不明  │未知、先進国ではミドリザルの輸入
───────┼─────┼─────────────────────
マールブルグ病│ サル  │1967年アフリカミドリザルの腎を扱った
       │     │ 研究者に発症
───────┼─────┼─────────────────────
Bウイルス病 │ サル  │上記参照
───────┼─────┼─────────────────────
デング出血熱 │ サル  │移住、都市化による環境衛生の劣化
───────┼─────┼─────────────────────
ハンタウイルス│げっ歯類 │異常気象による生態系の変化
肺症候群   │     │アウトドアライフによる感染げっ歯類への接近

回答日:1999年8月27日
回答者:認定臨床検査医 中村良子(No.241)

[ホームページ/臨床検査ネットQ&A(微生物検査)]
 
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[編集後記]◆続:早い・安い・うまい?電子メール新聞を目指して
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 例年に増して厳しかった残暑もようやく峠を越え、朝晩はしのぎやすくなり
ました。今夏は各地で豪雨の被害が多発しましたが、皆様の地方ではいかがで
したでしょうか。
 さて、お陰様でJACLaP WIREも第10号の発刊を迎えましたが、当初「早い・
安い・うまい」を目指すつもりが思うに任せず、音沙汰がなかったと思うと突
然大量の記事が送られる状態が続き、ご迷惑をおかけしていました。最近では
皆様のご協力により、原稿がほぼ100%メール入稿となり、またホームページも
独自サーバの確保によりかなり整備されましたので、ようやく少量頻回発行が
できそうです。
 ところで、既刊の編集後記の内容について、先日ある会員の方より「大変面
白いが会の発行物に掲載するのはどうかと思うものがある」とのご意見をいた
だきました。他の刊行物と同じく、JACLaP WIREも情報・出版委員長以下編集
委員の確認を経て発刊するという手続きを取っています。ただし、会員間の議
論を活性化するため、異論があると思われる内容でも、敢えて掲載するという
方針で編集しています。掲載内容についてのご批判を含め、ご意見は必ず掲載
させていただきますので、是非編集室までお寄せ下さい。

[編集担当 西堀眞弘]

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JACLaP WIRE No.10 1999年9月6日
■発行:日本臨床検査医会[情報・出版委員会]
■編集:JACLaP WIRE編集室■編集主幹:西堀眞弘
●記事・購読・広告等に関するお問い合わせ先:
 〒113-8519 東京都文京区湯島1-5-45
 東京医科歯科大学医学部附属病院検査部気付
 e-mail: wire@jaclap.org
 TEL:03-5803-5628 FAX:03-5803-0110
●日本臨床検査医会ホームページ: http://www.jaclap.org/
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※転載を希望される場合は上記お問い合わせ先にご一報ください。