Lab. Clin. Pract., 19(1) : 42-45 (2001)
Voice
私の情報技術(IT)の利用法
獨協医科大学越谷病院臨床検査部
森 三 樹 雄
は じ め に
最近,情報技術 (IT: Information Technology) 革命という言葉が,頻繁に使われるようになった.わが国では森 喜朗総理がIT革命を強力に推進することを公約とし,政府は情報技術(IT)の基本戦略案を公表した.それによると,欧米やアジア諸国に比べ遅れているわが国のインターネット利用を促進させ,5年以内に世界最先端のIT国家に変革させるというものである.そのために,3,000万世帯にDSL高速インターネット網,1,000万世帯に光ファイバーを使った超高速インターネット網の常時接続できる環境を整えることを提言している1).また役所での事務手続きを24時間受付可能な電子政府の実現や電子商取引の促進なども謳っている.わが国のインターネット人口は急速な普及過程にあり,2000年8月末で推定3,300万人に達しているが,高速インターネットの利用者はわずか50万人しかいない.わが国はパソコン,インターネットの普及率は世界で20番目,携帯電話の普及率は12番目,E-commerceによる経済的利用法では30番目と大変出遅れている.しかし,わが国では携帯電話を用いた情報技術の普及や2000年12月よりデジタルテレビが放送されるなどの面で進んでいるものもある.
アメリカでは,1992年にクリントン政権が誕生してすぐに,IT技術の進歩のために光ケーブルを使った情報ハイウェイ網をアメリカ全土に設置している.この情報網を用いて,ブロードバンドといわれる高速通信がアメリカではすでに3年前より一般家庭で利用できるようになっている2).このブロードバンドを用いると,通信速度の高速化により動画映像がテレビと同じような画質で見ることができる.アメリカでは通信費用やプロバイダーの費用もわが国と比べると半分から3分の1以下と安いため,インターネットの接続が容易となり,E-mail, E-commerce などが格段に進歩をしている.
ここで私自身の個人的な情報技術の利用法について,過去から現在までの状況について述べてみたい.私自身が情報技術に目覚めたのは,アメリカのボストンで1968年7月から1972年6月までの4年間(1年間の内科・小児科インターンと3年間の病理のレジデントを経験)した期間である.ここでは私が利用しているITおよび関連技術を表に示したが,その他にiモードにみられるような携帯電話,ケーブルテレビ,双方向デジタルテレビ,テレビ会議などもある.
表1 日常生活で必要なIT技術 |
|
- 1. 文書作製術
- 1) 口述録音
- 2) 音声で文書作製
- 2. 携帯情報端末の利用
- 1) Eメール
- 2) ホームページ閲覧
- 3. ホームページの作製
- 4. AV機器の利用
- 1) デジタルカメラ
- 2) デジタルビデオカメラ
- 5. 海外出張時とITの利用
|
|
1. 文書作製術
1) ディクテーション(口述録音)
アメリカのボストンでのインターン研修時に初めて目にしたのは,幅広のループ状の磁気テープを用いたIBMのディクテーション機器(口述録音器)であった.入院患者の退院時または死亡時に,患者の退院カルテのサマリーをすべてディクテーションで行うことが義務づけられていた.私も早速,使用法を教えられ,1年間で数十人の退院サマリーを口述し,それがタイプ打ちされた文書としてできてきたものをもう1度校正して最終文書となった.その後,3年間の病理レジデントとして解剖および外科病理の症例について,肉眼および顕微鏡所見およびそのサマリーをディクテーションで行い,それを病理部の秘書がタイプで入力する方式である.この米国での4年間に,3大学の附属病院(ボストン大学,ハーバード大学,タフツ大学)で研修したので,それぞれディクテーションの機器や媒体も異なり,ソノシートやミニカセットテープなども使用した.
1972年に帰国後,佼成病院臨床検査部医長として検査部の管理運営のほかに,解剖病理および外科病理も行った.解剖病理については,肉眼所見を英語でカセットテープに記録したが,秘書がいないため,剖検記録は日本語で手書していた.
1984年に現在の獨協医大越谷病院に赴任した時点で,新発売のIBM5550のパソコンを購入し,それ以後,すべての論文をディクテーションで入力し,それを秘書がトランスクライバー(卓上型の再生装置で,フットスイッチで操作できるので両手でキーを打つことができる)を用い日本語ワープロで入力している.プリントアウトしたものを校正するという方法をとり,現在に至っている.
その間,論文や書籍の原稿については,すべてディクテーションで行い,手書きで原稿を書くことはない.現在使用している口述録音機は(卓上型と携帯型の2種類あり)はフィリップス社とオリンパス社(輸出用)製でミニカセットに録音する.
2) 音声で文書入力
音声入力には口述録音のためのディクテーションと音声でパソコンを操作するナビゲーションの2種類がある.数年前,文書を音声入力するための装置が日本IBMから発売された.その「Via Voice」というソフトを購入し音声入力を行ったが,そのときはうまくいかなかった.その後3〜4回バージョンアップされて,スムースに音声入力ができるようになった.1年前から本格的に音声入力に取り組み,音声入力で原稿を書いている.このソフトに付属しているヘッドフォンマイクを用いるとアナウサーがニュースを読むスピードで文書を入力できる.一般的な文章では問題なく入力できるが,医学用語は誤入力されるため,現在,音声入力は全文書の 20% ぐらいである.医学用語を登録することにより,パソコンが学習できるので少しずつ変換率がよくなる.この方式で出来上がった原稿(荒打ち)は,LANで秘書に瞬時に送られ,校正を何回か繰り返し,最終原稿として出来上がる.日本IBMより販売されている最新のソフトは「Via Voice V8」で量販店にて12,700円で購入できる.このソフトは,IBM社以外のパソコンでは使用できない場合があるので注意が必要である.
2. 携帯情報端末の利用
インターネットによる電子メール通信は,学会の先生方やWASPaLM(世界病理学・臨床検査医学会議)の理事との意見の交換や雑誌の論文の送付に用いている.1日に20〜30件(国内 60%,国外40%)のメールを処理している.
数年前より携帯情報端末(モバイル機器)としてNECの小型パソコン「モバイルギア」を使用していたが,2年前よりさらに小さな手のひらに乗るシャープの「ザウルスMI-310」というPDA(Personal Digital Assistance: 個人用の携帯情報端末)をズボンのベルトに装着し,できるだけリアルタイムに処理するようにしている.この中にはスケジュール管理,住所録,電卓,メモ帳などの電子手帳機能のほかに,インターネットの情報を検索したり,電子メールを送受信する機能がある.ザウルスで受信したメールは,朝夕の通勤時間(約1時間)に電車の中で大部分は処理している.平成12年12月より新型の「ザウルスMI-E1」を使用しているが,これにはPHSの通信カード(P-in Comp@ctカード 64K)が利用できるので,どこにいても高速でメールの送受信やインターネットの情報検索ができるようになった.また,午前10時30分,午後1時30分,3時,5時と自動受信したメールをチェックし,その都度,返事をリアルタイムで書くようにしている.現在はiモードをはじめとする携帯電話が普及しているが,私はあまり利用していない.
3. ホームページの作製
ホームページの作製については,1997年6月にフランスのベルサイユで行われた第19回WASP(WASPaLMの以前の名称)理事会でホームページの作成が決定された.当時のZeiler会長が,私にホームページの作成を依頼してきた.1997年12月に秘書の関口誠子さんの協力により,やっとの思いで全文英語のホームページを立ち上げることができた.それ以来,加盟学会の住所や役員の変更名などの各種情報をホームページにリアルタイムで掲載している.1998年より獨協医大越谷病院検査部のホームページも作成し,臨床検査に関する情報を掲載している.ホームページは作成した後の管理が重要で,こまめに新しい情報を追加していくことが重要である.
4. AV機器の利用
AV機器には種々あるが,一般的によく使うのはデジタルカメラとデジタルビデオカメラである.デジタルカメラの利用は1997年の第19回WASP会議に持参し,理事会,学会の各種パーティ,講演,壁発表などを撮影し,ホームページに掲載したのが始まりである.その当時は画素数も30万画素で十数人の理事を撮影した集合写真では拡大すると,顔の形が変形するような画質であった.
デジタルカメラは近年急速に技術革新が進み,画像の解像度も300万画素から400万画素と,通常の銀塩カメラの画質に近づきつつある.デジタルカメラの利点はフイルムが不要で,撮影した画像が瞬時に確認することができ,撮り直しがきくことである.写真をスマートメディアやコンパクトフラッシュメモリなどの媒体に蓄積し,何回でも使用することができる.また蓄積した画像を自分でハガキ大からA4サイズに拡大し,プリンタできれいに印刷することもできる.このほか,撮影した画像をパソコンに取り込み,アルバムやスクリーンセーバーなどとして利用することもできる.
一方,デジタルビデオカメラも急速に進歩し,鮮明な映像を撮影することができる.私はカメラの撮影法およびビデオ撮影法についての講習会に出席し,専門家からきちんと写真やビデオカメラの撮り方を教わった.デジタルビデオカメラは,海外の学会参加時に持参し,印象的な場面を撮影している.デジタルビデオカメラも最近一段と進歩し,美しい動画を撮影できるだけでなく,高画質の静止画像(200万画素)で撮影することも可能となった.
このような機種を持参すれば,今までデジタルカメラとデジタルビデオカメラの2台を両肩にぶら下げていたのが1台ですむことになる.また,ビデオで撮影された画像はデジタル編集(ノンリニア編集)により,画像の劣化がほとんどない状態で映画され,これをホームぺージなどに掲載してミニシアターとして利用するができるようになった.自分で撮影した静止画像および動画はインターネットの高速化により,全世界の人に電子メールで送信することができるようになった.
5. 海外出張時とIT
学会で海外出張する際にはITを駆使することが必要である.私の場合はノートに電話連絡,郵便,FAXなどで送られてきた情報を留守番をしている秘書が記載し,それを毎日夕方海外の出張先にFAXで送ってくるようにしている.またザウルスを持参することによりインターネットでホームページを検索したりメールの送受信も行える.また学会の印象記などを書く場合は持参した口述録音機で文書を作製し,それを電話の送話口にあてて自分のオフィスの録音機に送る.出勤した秘書が,その送られたテープを再生し,出来上がった文書をFAXで送り,2, 3回校正することにより完全な文書が出来上がる.このような方法により,帰国時には学会の印象記や出張記録などがすでに出来上がるようにしている.
お わ り に
情報技術は急速に進歩し,それを総合的に利用することにより,日常の業務を迅速に処理することができる.21世紀には情報技術をどう活用すれば自分に役立つのかを考えて,日常業務に活用できるスキルを磨くことが重要である.
文 献
1) IT基本戦略.読売新聞.2000年11月27日
2) 森 三樹雄:JACLaP NEWS, No. 43 (1998).