Lab. Clin. Pract., 19(1) : 8-10 (2001)

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免 疫 血 清
尿中IV型コラーゲン測定

富士薬品工業株式会社 バイオ医薬部
東野 勲・谷岡洋平・小幡賢一


は じ め に

糖尿病性腎症は,慢性的な高血糖状態のために全身性に生じる細小血管症の一つである.腎糸球体メサンギウム領域の拡大,すなわち糸球体硬化症が主病変であり,その結果,タンパク尿,高血圧,浮腫,腎不全といった臨床兆候が出現する.また,尿細管細胞も高血糖にさらされると種々の代謝・機能異常を呈することが知られており,尿細管とその間質の病変が糖尿病性腎症の臨床像とその経過に影響している可能性も否定できない.
ここでは,最近保険収載された本症の早期診断,早期治療に役立つ指標である尿中IV型コラーゲン(uIV・C)測定について述べる.

1. 糖尿病性腎症の診断上の問題点

近年,本症のために末期腎不全に陥り,透析療法を余儀なくされる糖尿病患者が年々増加しており,大きな医療的課題となっている.
本症の早期診断に尿中アルブミン(uAlb)の検出が一定の意義があることは,インスリン依存性糖尿病(IDDM)患者における欧米のスタディーやインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)患者における我が国のスタディーで証明されている1)
しかし,我が国のNIDDM患者における10年間のフォローアップ研究においては,uAlb陽性患者の 36% がuAlb陽性あるいは正常に留まっており,かつuAlb陰性患者の 17% がタンパク尿陽性に至っている事実は,uAlb測定のみでは糖尿病性腎症を精度よく診断することに限界があることを示している1).また,平成2年に厚生省糖尿病研究班がuAlbを用いた診断基準を作成し,本症の早期診断を提言してからも,糖尿病からの透析導入患者が年々増加しているという事実は,uAlb検査をはじめとする既存検査だけでは早期診断が十分にできていないことの証拠とも言える.

2. uIV・C測定とその臨床的有用性

腎糸球体は,メサンギウム細胞などの細胞成分とIV・Cなどからなる細胞外基質,すなわちメサンギウム基質や糸球体基底膜などによって構成されている.糖尿病性腎症においては,糸球体基底膜肥厚,メサンギウム領域拡大,尿細管間質肥厚という特徴のある病理学的病変が認められており,これら全てに糖尿病の高血糖によるIV・Cの産生増加がかかわっていると報告されている1)
これらのエビデンスを受けて我々は,uIV・C測定用キット「パナウリアuIV・C」を開発した2)
本キットを用いてuIV・C測定の臨床的有用性について基礎検討を行った.その結果,IV・Cは確かに尿中に排泄されることおよびその量は糖尿病性腎症における腎障害の程度,具体的にはメサンギウム領域拡大の程度および尿細管障害度を反映することが示されている3).これらの結果とuIV・Cの分子量が約500kDaと大きいことを考え合わせると,uIV・C検査は高血糖状態の腎臓で過剰産生され,尿中に排泄されたIV・Cを測定することにより,本症早期における腎障害の有無の判定が可能になると推論できる.したがって,uAlbや尿中トランスフェリンが糸球体からろ過されたタンパク質を測定するのとは本質的に異なる視点のマーカーであると言える.
また,臨床データとして,uIV・Cは本症第一期(uAlbがまだ陰性の時期)から病期の進行とともに有意に増大することが示されている.さらに第一期においてuIV・Cが異常の場合,正常の場合よりも第二期(uAlb陽性かつタンパク尿陰性の時期)以上への進展の確率が約2.45倍高いことも報告されており,uIV・Cは本症早期からの進展予知に有用と考えられる(図14)
これらのことから,uIV・C検査は糖尿病性腎症におけるネフロン全体の変化を反映する指標となりうると思われる.今後,uAlb測定のみでは診断しえない糖尿病性腎症の検出ないしは進行度の評価に有用な指標となるものと期待されている1)


図1 uIV・Cによる糖尿病性腎症の進展予知

3. uIV・C測定法

我々は,肝線維化の指標として使われている血清中IV・C測定用キットを改良し,高感度化したuIV・C測定用キット「パナウリアuIV・C」を開発した2).当初はビーズ法キット(B法)であったが,最近プレート法キット『パナウリアuIV・C「プレート」』(P法)を開発し,上市(2001年4月)した.
●P法のキット性能
P法の測定原理は,B法と同様,1ステップサンドイッチEIA法に基づいている(図2).また,構成試薬の基本組成などもB法に準じたものを使用している2).ただ,P法はB法に比べ,測定操作を自動化しやすいというメリットがあり,多検体処理に向いている.
我々は,P法の基本性能を評価するため,B法について実施した方法に準じて検討を行った2).その結果,P法の検出感度はB法と同様0.1 ng/mL(0濃度の吸光度の平均±2SDより算出)であり,0.8〜50 ng/mLの範囲で直線性が得られた(図3).同時再現性に関して,健常者尿2例および糖尿病患者尿2例を用い8回同時に測定した結果,CV値は 2.1〜6.8% と良好な結果を示した(表1).添加回収率は 94〜101% であり(表2),希釈直線性も良好であった(図4).
また,糖尿病患者尿26例を用いて,P法とB法との相関性について調べた結果,相関係数r=0.986と両者は良好な相関性を示した(図5).
以上の結果から,P法はB法と同等のキット性能を有し,操作性の面でB法より優れていると考えられた.


図2 パナウリアuIV・C「プレート」の測定原理図


図3 P法の標準曲線


表1 P法での同時再現性試験成績
試験回数 尿(1)
(ng/mL)
尿(2)
(ng/mL)
尿(3)
(ng/mL)
尿(4)
(ng/mL)
1 3.7 1.4 12.3 7.0
24.01.312.27.4
33.81.312.37.2
43.41.312.47.6
53.81.211.87.2
63.91.512.17.8
73.71.312.08.0
84.11.411.77.2
平均 3.80 1.34 12.10 7.43
SD 0.21 0.09 0.25 0.35
CV (%) 2.6 6.8 2.1 4.7


表2 P法での添加回収試験成績
添加量
(ng/mL)
尿(5) 尿(6)
実測値
(ng/mL)
回収率
(%)
実測値
(ng/mL)
回収率
(%)
0 3.2 - 9.9 -
2.5 5.6 96 12.3 96
5.0 7.9 94 14.9 100
10 13.3 101 19.8 99
図4 P法での希釈試験成績
図5 P法とB法との相関性

お わ り に

糖尿病性腎症患者の予後を改善させるためには,早期診断,早期治療が最も重要と考えられる.uIV・Cはその尿中排泄機序などからuAlbよりも本症に特異性の高い指標であると推定される.実際に学会などでは,糖尿病に高血圧を合併した症例においては高血圧に影響を受けるuAlbよりもuIV・Cの方が本症診断の面で特異性が高いことが報告されている.
今後,uIV・Cは早期診断だけでなく,治療における薬効評価マーカーとしての有用性の証明が待たれる.そして,uIV・Cを用いて今日まで上市されていない本症の直接的な治療薬が開発・上市され,本症の根治につながることに期待したい.

文  献

1) 吉川隆一:糖尿病:診療と研究の進歩2. 糖尿病性腎症.日内会誌,85, 546-550 (1996).
2) 小幡賢一,酒井智恵,大角誠治,丸池寛,吉田真一:尿中IV型コラーゲンの酵素免疫測定法.臨床検査機器・試薬,18, 439-444 (1995).
3) 厚生省:平成9年度 慢性腎不全研究報告書,320.
4) 家城恭彦,高桜英輔,小幡賢一:2型糖尿病患者における尿中IV型コラーゲン測定の意義.新薬と臨床,48, 1408-1412, 1999.