Lab. Clin. Pract., 19(1) : 4-7 (2001)

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血   液
最近の自動血球計数装置の新しいパラメータ

旭川医科大学臨床検査医学
幸 村  近


1. は じ め に

自動血球計数装置による測定項目には白血球数,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,血小板数が含まれる.細胞数測定の基本は,電気抵抗方式にせよ光学的方式にせよサイズによる分類であるが,最近の機器ではそのほかに各種の血液細胞の化学的,細胞学的特徴を利用して白血球分画はもちろんのこと,網赤血球数,有核赤血球数なども測定できる機能を組み込んであるものが多い.さらにモノクローナル抗体を利用して免疫学的な特徴をもとに分類の精度を上げた機器も市販されているが,測定方法が複雑になるとコスト面の問題も考慮しなくてはならない.
自動血球計数装置は一方で,基本的な細胞数の測定・分類に加えて測定原理に応じて種々の付加的な情報を提供してくれる.赤血球恒数の一つである平均赤血球容積 (mean corpuscular volume, MCV) は,用手法では毛細管によるヘマトクリットを赤血球数で除した値であるが,多くの自動計数装置では個々の細胞に関して実測された値がもとになっており,ヘマトクリットを逆算して報告しているのはよく知られたところである.そのほか赤血球サイズの分布ヒストグラム(Price−Jones曲線)なども同時に測定・報告される.
本稿ではこれらの付加的パラメータの中から光学的理論に基づいて得られるパラメータで細胞内タンパク質を反映するものを中心に,著者の所属する施設でのデータも交えて紹介する.テクニコン社の自動血球計数装置の後継機種であるバイエルメディカル社のADVIA120の基本的測定原理は光学的方式で,フローサイトメーターと同様にレーザー光が血球に当たる際の散乱光の強度から種々の測定を行う.一般に前方散乱(または低角度散乱)は粒子サイズを反映し,側方散乱(または高角度散乱)は光の屈折率を反映するとされている.変形した細胞や前処理により裸核化した細胞では複雑な形態のため高角度散乱が大きくなる.ADVIA120は希釈のステップで細胞をSDS処理して等容積のまま球状化するため1),レーザーの低角度散乱光はそのままサイズを反映してMCVや平均血小板容積 (mean platelet volume, MPV) を算出するが,高角度散乱光は形態ではなく細胞内タンパク質による光の屈折率を反映する.赤血球ではヘモグロビン濃度に依存し,血小板ではさまざまなタンパク質が光屈折率に関与する.

2. 血小板関連のパラメータ

自動血球計数装置による血小板数測定は,電気抵抗方式によるものが多いが,光学的方式による機種もある2), 3).両者を搭載した機種での相関は良好であるが,血小板と同一サイズの非血小板粒子を識別できない可能性があった.これは赤血球のフラグメントや小赤血球がよく知られており,これらを血小板と誤認して正の誤差を生じる.多数の小赤血球が存在する鉄欠乏性貧血に解離例が多いようである.一方,May Hegglin異常やITPの一部などにおける大血小板は各機種に特有のアルゴリズムに基づき血小板算定から除外されて負の誤差を生ずる.そこで CD61 (GPIIIa) などの血小板特異抗原に対するモノクローナル抗体を用いた免疫学的測定法が開発され血小板数低値検体でも再現性よく測定できるようになった.しかしモノクローナル抗体の高コストが欠点で,ルーチンで繰り返し測定するには限界がある.
光学的方式はサイズのみならず形態的要素を含めて鑑別するため,電気抵抗方式よりは正確に血小板を認識していると考えられる.ADVIA120では低角度散乱と高角度散乱の2次元解析により,正常血小板と小赤血球の鑑別,大血小板と赤血球の鑑別がより正確に行え,60 flまでの大型血小板のカウントまで可能なだけでなく,個々の血小板の細胞内タンパク質を反映するパラメータが測定される.一つは血小板成分濃度(Mean Platelet component Concentration, MPC) すなわち血小板一定容積の内容成分の存在密度であり,もう一つは血小板成分密度 (Mean Platelet dry Mass, MPM) である.健常者31名での測定値を表に示す(表1).
トロンビンで刺激された血小板では,放出反応のマーカーであるCD62Pの発現が増加するにつれてMPCが減少する(図1).同様の条件でトロンビン刺激を行った血小板で通常のフローサイトメトリーにおける前方散乱光強度を見ると,MPCと同じような動きを示し,おそらく脱顆粒による細胞内タンパク質の減少を反映しているものと思われる.放出反応を伴わない低濃度ADPによる刺激ではMPCの増加を認める.この動きもフローサイトメトリーにおける前方散乱光の増加と平行している.血小板はADPによる活性化に伴い細胞の球状化が起きることが知られており,フローサイトメトリーにおいては前方散乱光のばらつきの低下にそれを見ることができる.ADVIA120ではさらにSDSによる球状化処理をしているわけだが,処理前の細胞形態の影響が残るのかもしれない.ただいずれの刺激においてもMPV,MPMでははっきりした変化を示さない.Maceyらの報告4) でもトロンビン刺激血小板のMPCのみの成績となっていて,MPV, MPM については言及していない.
今のところ末梢血におけるこれらのパラメータの小さな増減で血小板活性化の有無や程度を判定できるかどうかは不明である.血小板減少症においてはMPVが鑑別に利用されている.すなわち再生不良性貧血などの骨髄での血小板産生低下ではMPVが減少し,ITPなどの破壊・消費亢進ではMPVが増加する.今回,手術患者で術後の血小板減少後の回復をみたところ,血小板数の増加に先行してMPVとともにMPMの増加がみられた.血小板減少の原因として,出血や血小板活性化などいくつかの要素が関与するような病態では,血小板数,MPV, MPM, MPC の値や経時変化に特徴がみられるかもしれない.MPCのばらつきを表す PCDW (platelet component distribution width) のようなパラメータにも注目すれば,局所で活性化されて流血中に希釈された血小板を末梢血で検出できる可能性も考えられる.いずれにしても臨床的にどう応用するかは今後の課題である.

表1 健常人における血小板関連パラメータ
MPV
(fl)
MPC
(g/dL)
MPM
(pg)
平均±SD  8.26±0.80    29.6±0.95    2.19±0.14  
n=31


図1 アゴニスト刺激血小板のMPC
   トロンビン刺激では放出反応に伴い減少する.ADP刺激では活性化に伴い増加する.

3. 網赤血球関連のパラメータ

前述のようにADVIA120では細胞を球状化処理した後,レーザー光の高角度散乱光と低角度散乱光の二次元のスキャッターグラムにより血球を識別する.球状化した赤血球の高角度散乱光は主にヘモグロビンを反映するとされており,原理的には1個1個の赤血球のヘモグロビンをパラメータとして算出することができる.オキサジン(Oxazine750)という青色の色素によって網赤血球の染色を行い,吸光度を測定して染色強度すなわちRNA量の程度により網赤血球の識別を行う.網赤血球のスキャッターグラムはY軸がヘモグロビン含量(CH),X軸が吸光度である(図2).同時通過赤血球はゲート外となり解析から除かれる.このようにして二次元解析を網赤血球の測定と組み合わせて行うと,網赤血球容積(MCVr),網赤血球ヘモグロビン含量(CHr),網赤血球ヘモグロビン濃度(CHCMr)が報告される.健常者31名での測定値を表に示す(表2).
鉄欠乏性貧血患者に対する鉄剤静注開始後,CHr, MCVr が3日目には増加していた(図3).これは網赤血球数の増加に先行していた.また通常の血球計数値や鉄代謝関連検査値はかなり遅れて正常化した.
慢性腎不全の透析患者では腎性貧血に対してエリスロポエチン投与を行うが,造血が回復する際に鉄欠乏が顕在化して思うように貧血が改善しないことがある.Fishbaneらの報告5) によれば,CHr 26 pg 未満(一世代前の機種テクニコンH*3を使用しておりADVIA 120 での測定値より 3〜4 pg 低い)を基準にすると血清フェリチンやトランスフェリン飽和度より正確に機能的鉄欠乏状態を評価しえたという.
網赤血球関連のパラメータはオリンピックなどスポーツ競技会におけるドーピング検査の一環として,エリスロポエチン投与の有無を判定する際にエリスロポエチン濃度や可溶性トランスフェリンレセプタとともに用いられるようになっている.健常人を対象にした検討6) では,エリスロポエチン投与後に鉄剤の同時投与にもかかわらず CHCMr, CHr はむしろ一時低下する.また網赤血球数ヘマトクリット(網赤血球数とMCVrの積)はエリスロポエチン投与中には増加するが,投与終了後には投与前と比べても低下を示し,競技会開催前に投与をやめた場合も検出可能と報告している.

図2 網赤血球のサイトグラムとヒストグラム


表2 健常人における網赤血球関連パラメータ
CHr
(pg)
CH
(pg)
MCVr
(fl)
MCV
(fl)
平均  32.03    30.81    106.7    93.1  
SD  1.71    1.58    3.11    4.15  
CV  5.34    5.13    2.91    4.46  
n=31


図3 鉄欠乏性貧血における鉄剤投与後のCHr,MCVrの変化
網赤血球集団を表すヒストグラムが時間経過に従って右にシフトしている.


4. お わ り に

ここに紹介したパラメータはいずれもルーチンの血球計数測定の中で同時に算定されるもので,特別な試薬の追加などの必要はなく,いわば副産物として提供されるものである.試薬コスト的には網赤血球測定を含めても1件当たり100円を超える程度であり,診療報酬から見ても経済的である(参考:末梢血液一般検査 27点,末梢血球像 29点,網赤血球数 20点).また細胞内タンパク質を反映するデータは個々の細胞について取得されたものであるから,サンプル中のすべての細胞の平均値をみるだけでなく,適切なカットオフ値の設定により特徴あるsubpopulationを拾い出すことも可能である.各血球のサイズやタンパク質量に応じて種々のパラメータを組み合わせた新しい診断基準が見いだされ,臨床に応用されることを期待する.

謝 辞 旭川医科大学附属病院検査部の竹中進氏,田中恵里子氏に感謝致します.

文  献

1) 秋葉俊一:二次元血小板分析の有用性について.日本臨床検査自動化学会会誌,25(4), 304 (2000).
2) 巽 典之,津田 泉,日野雅之,近藤 弘:現在行われている血小板自動測定法どのようにして血小板は測られるのか?─臨床病理レビュー2000年7月特別臨時号「血小板計測の信頼性─特に血小板数低値検体について─」,7 (2000).
3) 松野一彦:血小板数.検査と技術(2000年増刊号「血液検査実践マニュアル」),28, 699-702 (2000).
4) Macey, M. G., Carty, E., Webb, L., Chapman, E. S., Zelmanovic, D., Okrongly, D., Rampton, D. S., and Newland, A. C.: Use of mean platelet component to measure platelet activation on the ADVIA 120 haematology system. Cyto-metry, 15, 250-255 (1999).
5) Fishbane, S., Galgano, C., Langley, R. C., Canfield, W., and Maesaka, J. K.: Reticulocyte hemoglobin content in the evaluation of iron status of hemodialysis patients. Kidney Int., 52, 217-222 (1997).
6) Parisotto, R., Gore, C. J., Emslie, K. R., Ashenden, M. J., Brugnara, C., Howe, C., Martin, D. T., Trout, G. J., and Hahn, A. G.: A novel method utilising markers of altered erythropoiesis for the detection of recombinant human erythropoietin abuse in athletes. Haematologica, 85, 564-572 (2000).