巻 頭 言

臨床検査医に必要なもの

(総泉病院特別顧問)
大 谷 英 樹



医療において臨床検査医の存在価値が認められ,確固たる地位を築くために,臨床検査医は何をすべきか.このことは多くの方々によって論じられてきたが,一般的に具体性に欠けるために臨床検査医のイメージが明確に浮かんでこないのが実状です.診療科に属する臨床医との差異は,臨床検査医に特有の,そして共通したベースとなる業務が乏しいためではないだろうか.
臨床検査への役割の一つとして,検査室の管理運営が挙げられるが,この業務はMDに特有のものではなく,Ph.D. でも十分にその役割を果たすことが可能である.一方,臨床医に対するコンサルテーションは,臨床検査医にとって特有のもので重要な業務であることはいうまでもない.しかしながら,臨床検査医に共通した業務のベースが欠けているために,どの程度,あるいはどの範囲でコンサルタントが可能なのかは明確ではない.例えば,臨床化学の領域に関するコンサルタントが優れている臨床検査専門医でも微生物学の領域についてはほとんど不可能であることもしばしば見受けられることである.
卒後教育カリキュラムの基本的臨床研修目標の中で,診療に直接関係があり,臨床検査医に特有のものとしては,1)臨床医のコンサルタントとして機能し,また診断,コメントに必要な各種検査報告書が発行できる.2)予防医学,健康管理の分野で貢献できること,などが挙げられている.このような目標を具体的にすることのみならず,臨床検査医に共通した日常業務の拡大を図ることが可能かどうかが臨床検査医の存在価値を決める要因になると考えられる.臨床検査医に共通したベースとして次の業務を身につけることを奨めたい.すなわち,検体検査に関するものとしては,1)骨髄像など血液形態検査の報告ができる,2)細菌感受性検査の設定,また治療において薬剤の選択ができる,3)輸血交差試験不適合の読み方ができる,4)タンパク質・酵素など分画パターンが読めること,などである.
さらに,生理機能検査も臨床検査医を特徴づける一つとして日常業務に採り入れ,その業務を広げることが非常に重要であると考える.すなわち,1)超音波(腹部)検査による画像診断(毎週1日は日常業務として実施する),2)心電図や胸部X線像などがよく読めること,などが挙げられる.後者は健康管理を行ううえで最低必要な業務である.
このように臨床検査医に共通した日常業務が具体的に明確になることは,臨床検査医へのidentityが確立され,ひいては医療において臨床検査医の存在価値が高められ,専門医としての将来が開かれていくと思われる.