Lab. Clin. Pract., 19(2) : 131-134 (2001)

医学部の学生教育


千葉大学における臨床検査医学の学生教育

千葉大学大学院分子病態解析学
野村文夫・朝長 毅


は じ め に

医学部学生教育をめぐる事態は,近年急速に変化しつつある.臨床実習の充実,とくに見学型の実習から参加型への転換の必要性が叫ばれるなか,参加型の臨床実習を行うに足る能力を学生が身につけているかどうかを適切に評価することが求められている.その結果として,臨床実習開始前の学生評価のための全国共用試験システムがクローズアップされ,平成14年3月からの試験的運用に向けて,千葉大学においても準備を進めている.一方では,従来各大学の裁量に任される部分が多かったカリキュラム内容についても,いわゆるコアカリキュラムの整備が進められている.また,従来の知識伝授型の系統講義を削減し,学生参加型のチュートリアル制を採り入れる大学が増えている.
以上の背景を考慮すると本学の臨床検査医学の教育体制も,例えばいわゆるOSCEにベッドサイド検査を積極的に採り入れるなど,将来変化する可能性があるが,本稿では本学における臨床検査医学教育の現状について記す.

1. 千葉大学医学部における臨床カリキュラム

千葉大学医学部における臨床カリキュラムを図1に示した.本年度より,従来各講座単位で担当していた系統講義を廃し,領域別に計18のユニット(表1)に分け,講義の重複をなくし,系統性を保つことを目指している.まだ初年度であり,私の前任地の筑波大学の整備されたカリキュラム1) にはまだ及ばないが,確実な一歩を踏み出したところである.テュートリアルについては以前に本誌2) で岐阜大学の清島教授が詳しく紹介されているが,本学での実施方法について簡単に記す.
臨床テュートリアルの教育目標は「学生は患者に関連する事象を領域,学科に限定されない統合的な学習,少人数によるグループ学習を通して理解,解決することにより,医師として必要な学識,技能,態度と継続的な自己学習能力,問題解決能力を修得すること」である.
学生を15グループに分け(6〜7名/グループ),5グループごとに全12ユニットを行う.
テュートリアルユニットは前期が消化器,呼吸器,循環器,精神・神経,内分泌・代謝,アレルギー・膠原病,後期が成長・発達,腎・泌尿器,運動器,頭頸部,生殖・周産期,麻酔・救急の計12である.
臨床テュートリアルは各ユニットを構成する関連担当各科の責任において1ユニットを2週間で行い,12ユニットを3カ月間でローテーションして終了する.現在は6つの異なるユニットが同時進行しているが,一学年全体が一つのテュートリアルユニットを同時進行する形とし,後述のユニット講義と有機的に合体させることが急務と考えている.


図1 千葉大学医学部の臨床カリキュラム

表1 臨床ユニット講義の構成と担当講座

  1. 成長・発達                  小児科・小児外科
  2. 精神・神経                  精神科・神経内科・脳外科
  3. 呼吸                        呼吸器内科・呼吸器外科
  4. 循環                        第3内科・第1外科
  5. 消化器・栄養                第1内科・第1外科・第2外科
  6. 血液                        第1内科・第2内科
  7. 内分泌・代謝                第2内科・第1外科
  8. 膠原病・アレルギー          第2内科・整形外科
  9. 腎・泌尿器                  第1内科・泌尿器科
 10. 運動器                      整形外科
 11. 皮膚・形成                  皮膚科・形成外科
 12. 頭頸部                      耳鼻科・歯口科
 13. 生殖・周産期                産婦人科・泌尿器科
 14. 麻酔・救急                  麻酔科・救急医学
 15. 放射線・画像                放射線科・放射線部
 16. 臨床検査                    臨床検査医学
 17. 視覚                        眼科
 18. 医療情報                    医療情報部

(講座名は大学院部局化以前に用いられていた名称とした)

2. 臨床検査ユニット講義

上述のように従来の各科の系統講義から領域別のユニット講義に変更するにあたり,計18ユニットが設定された.表1から明らかなように多くのユニットが複数の講座で構成されている.すなわち従来各講座の裁量で行われていた各論講義を改革するための第一歩と考えている.このことは現在進められている附属病院における臓器別診療科再編成を進める上でも推進力の一つとなっている.
臨床検査は一つの独立したユニットを担当することとなった.その講義の時期として,今年度は臨床の講義がかなり進んだ後の4年次の終わりとしたが,学生からは,各ユニットの講義に備える意味でも,早い段階での講義を希望する声が多く,次年度は変更の予定である.臨床検査ユニットの講義内容を表2に示した.本ユニットの総論では検体の取り扱い方,検査前変動要因など臨床検査の最も基本となることを学習するほか,いわゆる臨床判断学についての教育も検査の診断効率と合わせて検査医学講座が担当している.また腫瘍マーカー,自己抗体,遺伝子検査など各診療科にまたがる事項を横断的・体系的に扱うことも有効と考えられる.各論の講義内容は将来どの進路をとったとしても求められる臨床検査の minimum essential を学ぶことを主眼とし,各臨床ユニットにおける検査関連講義と異なった切り口となっている.専門領域を問わず医師であれば必ず遭遇する検査に関連した状況,たとえば人間ドックにおける検査結果をもって知人が尋ねてきた場合など,を想定し,基本的検査の適切なデータ解釈と次に行うべき検査・専門家へのコンサルテーションの必要性の有無についての教育を重視している.感染症も各診療科にまたがる領域であるが,臨床微生物検査,院内感染対策などを中心に本ユニットで扱っている.

表2 臨床検査ユニットの講義日程表(平成13年度)

 (1) 10月19日(金)     1時限      臨床検査医学総論(1)        野村
 (2) 10月19日(金)     2時限      臨床検査医学総論(2)        野村
 (3) 10月26日(金)     1時限      遺伝子診断(1)              朝長
 (4) 10月26日(金)     2時限      遺伝子診断(2)              朝長
 (5) 11月09日(金)     2時限      腫瘍マーカー                野村
 (6) 11月16日(金)     2時限      自己抗体・免疫学的検査      牧野
 (7) 11月30日(金)     2時限      血液疾患の検体検査          浅井
 (8) 12月07日(金)     2時限      腎疾患の検体検査            牧野
 (9) 12月14日(金)     2時限      消化器・肝疾患の検体検査    野村
(10) 12月21日(金)     2時限      消化器・肝疾患の検体検査    野村
(11) 01月11日(金)     2時限      代謝・内分泌疾患の検体検査  龍野
(12) 01月18日(金)     2時限      感染症の主な病原体          菅野
(13) 01月25日(金)     2時限      抗菌薬と感受性試験          菅野
(14) 02月01日(金)     2時限      尿路・呼吸器感染症          菅野
(15) 02月07日(木)     1時限      神経系・腸管感染症          菅野
(16) 02月08日(金)     2時限      敗血症,法的規制            菅野
(17) 02月15日(金)     2時限      試験と解説


3. 検査部実習

5年次のベッドサイドラーニング開始直前に検査部実習を行っている.スモールグループに分けて通年行っている大学が多いようであるが,本学では従来より全員を対象に1週間,計20コマを用いた実習を行っている.その日程表を表3に示した.
Point of care testing (POCT) の実習では夜間一人で当直している場面を想定し,種々の case study に関連した検査,たとえば急性腹症における妊娠反応,肝性脳症におけるアンモニア定量,針刺し事故時の肝炎ウイルス簡易検査など,を行っている.
本年度からはあらたに全員を対象に遺伝子診断を採り入れ,学生の関心が強く,また我々も慣れているアルデヒド脱水素酵素(ALDH2)のexon12のミスセンス変異(E487K)を allele-specific primer (ASP)-PCR により検出することとした.予定の2日間で最終結果を得るためには教官側の仕事量も多かったが,学生には大変好評であった.
表3 平成13年度臨床検査医学実習

  4月2日    AM            検体の採取法,POCT
            PM            遺伝子診断(1)
  4月3日    AM            遺伝子診断(2)
            PM            尿検査
  4月4日    AM            輸血適合試験
            PM            血球計算・血液像
  4月5日    AM            細菌検査(1)
            PM            細菌検査(2)
  4月6日    AM            検査部見学


お わ り に

千葉大学医学部の臨床系のカリキュラムは現在変革期であるが,本学における臨床検査医学教育の現状について紹介した.臨床系の各ユニット講義の中で,検査部教官が検査関連事項の講義を分担するというやり方もあり,私自身,消化器内科の講義の一部を分担している.しかし,検査医学の立場から総論的・横断的系統講義を行うことは極めて重要と考えられ,本学の学生もそれを望んでいる.臨床検査医学の魅力と重要性をさらに学生に伝えることができるように,教育法・教育内容をさらに改善し,充実させていきたいと考えている.

文  献

  1) 中井利昭,ほか:筑波大学における Laboratory Medicine 教育の概要.Lab. Clin. Pract., 13, 50-52 (1995).
  2) 清島 満:岐阜大学医学部における臨床検査医学の学生教育. Lab. Clin. Pract., 17, 159-162 (1999).