Lab. Clin. Pract., 19(2) : 110-113 (2001)

臨床検査医会振興会セミナー


21世紀の臨床検査を考える
日本臨床検査医学会の方向性

慶應義塾大学医学部中央臨床検査部
渡 辺 清 明


は じ め に

日本臨床検査医学会は昨年11月に長年なじんできた日本臨床病理学会から名称を変更した.これは本学会にとっては画期的なイベントであった.親学会の名称変更は臨床検査専門医(認定医ではなくなった)の会である日本臨床検査医会(名前が紛らわしいが)にとっても大変意義深いものとなった.しかし,名前が変わっても中身が変わらなければ意義が薄れる.そこで重要なのが学会の中身の充実化である.
筆者は平成10年から櫻林郁之介現会長のもとに本学会の副会長の任にあり,また在り方委員会の委員長として,微力ながら少しでも学会に貢献できるよう努力している.本稿では特に在り方委員会の委員の先生方や執行部の常任理事の先生方と学会の在り方を議論したことを中心に日本臨床検査医学会の方向性を述べる.もちろん,今までにも本学会の在り方について真剣に議論があり,そこで答申された案が実行されてきたと思われる.したがって,ここで述べるものはあくまで従来あるものをベースにしながら,少しでも時代のニーズに合ったものに改良しようとするものである.

在り方委員会と検討事項

在り方委員会は平成10年に櫻林会長の発案で本学会の在り方を考え,会長に答申する目的で設置された.第一回在り方委員会は平成10年5月に行われた.メンバーは池田 斉,勝山 努,桑島 実,高木 康,中原一彦,奈良信雄,濱崎直孝,吉田 浩の各先生方と筆者である.本委員会は平成11年から約2年にわたり数回開催された.委員会で議論した検討項目の主なものは以下である.
 1. 学会の活性化:総会をさらに活性化し魅力あるものにする.より若い人に門戸を開くようにし,医師以外の方にも活躍の場を今以上に与えるようにする.具体的には以下の項目が挙げられた.
  1) 総会の在り方を検討し活性化のための具体的方策を探る.
  2) 評議員の定数,資格,選出規定の見直し・整備が必要である.また,学会の組織,機構が複雑であるので評議員のみならず,役員についても選出方法などをオープンにする.さらに各種委員会委員についても今後検討する.
 2. 医師国家試験への対応:臨床検査医学の国家試験への参入が不完全であるので,試験委員に臨床検査医を参加させる.
 3. 教授選考に関する学会の対応:現在臨床検査医学講座の教授に必ずしも臨床検査医が選出されない.したがって,臨床病理,臨床検査診断学を専門とする者を教授にするに当たっての対応策を学会としても検討し,アピールする.
 4. 治験に対する検査部としての対応:検査部として治験の検査を担当しており,何らかの配慮が欲しいので,学会でも具体策を考える.
 5. 卒前教育について:臨床病理学,臨床検査診断学のカリキュラム,教育技法について考える必要がある → 医学教育の中でidentityを明確にする.
 6. 臨床病理学会の学会としての総論的な形での在り方を継続審議する.特に今後どのような方向の発展すべきかを考える.
 7. 学会名称変更 → これはあらかじめ名称変更小委員会(中原一彦委員長)で検討することになっていた.

在り方委員会の重点検討内容

上記の検討事項を会長に答申した.その結果,会長を中心に常任理事会で検討し以下のものを重点検討することとした.
 1. 総会活性化のための方策
 2. 評議員定数および臨床検査技師の参加のための具体策
 3. 国家試験への参加
 4. 学会名称変更
 5. 学会としての総論的な形での在り方を検討する.今後どのような方向の発展すべきか.
そして,上記項目の詳細をさらに在り方委員会で検討した.その概略を以下に述べる.

総会活性化のための具体案

総会活性化のためには在り方委員会では以下が提案された.これについては現在常任理事会や理事会レベルで順次検討してゆく方向にある.
 1. 学会の基本的意向を総会に盛り込むようにする.学会執行部と総会長と共同で企画を作成するようにする.これらは継続性を持たせて何年かかけて試行し,最終評価を得るようにする.
 2. 関連学会(日本臨床検査自動化学会,日本医学検査学会,日本臨床化学会,日本検査血液学会,日本臨床微生物学会など)との共催について考え,場合によっては臨床検査医学会weekなども考える.
 3. Non MD を活用する(できる限りワークショップ,シンポジウムでの演者に参加する).
 4. 現場に即した教育的内容を多く盛り込む.
 5. R-CPCは入門編,応用編など数レベルとする.
 6. スライドカンファレンス(血液,病理など)を多く採り入れる.
 7. 検査室管理学的な内容のセッションを作る.
 8. 日程をある程度限定する(10月下旬あるいは11月中旬など).
 9. 最近は遠い場所には旅費がかかり,参加が困難になっている.会員のアクセスしやすさを考慮し,便利な東京,大阪を頻回とし,数年に1回地方で開催する.
 10. EBLMについてのセッションを活性化する.
以上が具体的な検討事項であり,今後の総会で各々の項目が評価が下されるような方策が必要となる.
また,これら以外にも総会での機器展示の在り方など重要な懸案事項があるが,この点については学会の在り方の本質的な部分であるので今後慎重協議が必要である.

評議員の定年制の導入,評議員および役員の選出や更新基準の変更

これについては在り方委員会で具体案を作成した.昨年その案が,理事会,評議員会,総会で認められた.下記がその主な項目である.
 1. 定年制の導入:評議員の任期は満65歳となった年の12月末日までとする.
 2. 功労会員の導入:功労会員は原則として評議員を定年退任した者とする.
 3. 評議員の選出や更新条件の緩和 
 4. 会長,副会長選出を評議員の直接選挙とする.
 5. 理事の定義を明確にする.

国家試験への参入

臨床検査医学の医学教育におけるアイデンティティーを深めるためには医師国家試験への臨床検査の専門家の参入が必要である.これについては,在り方委員会の答申を受けて以来,学会の常任理事会で鋭意検討され,実際には昨年から1名の専門家を参入させることができた.ただ,現在さらに人数を増すように検討中である.

学会名称変更

学会名称の変更については,先述の学会名称変更小委員会で鋭意検討された.国際的にも臨床病理学と言うより臨床検査医学という言葉が普及してきたことや我が国の講座名も臨床検査医学講座が相当数あることなどから検討されてきた.また,現在,学会は法人化に向けて検討が進められているが,法人化関連省庁の文部科学省からは特に学会が「名は体を表す」形であることの要請があったことも一つのきっかけとなった.そして,その名称については評議員の全員に意見を聴取する形をとった.その結果,現在の日本臨床検査医学会が適当であるとの意見が 90% 近くを占めた.その後昨年臨時総会,評議員会でいろいろの議論がなされた.そして最終的には,ご存知のとおり,昨年11月の日本臨床検査医学会総会で本学会の名称は日本臨床病理学会から日本臨床検査医学会に正式に変更された.

総論的な形での学会の在り方についての検討

本学会が今後どのような方向の発展をすべきかなど,より総論的で学術的なことをまず議論すべきであるとの意見が在り方委員会でも出された.つまり,学会であるからには当然学術的なレベルアップが,学会の活性化に重要である.臨床検査の原理の発見や技術の開発を,他の学問領域の先生が行っている実状があるが,本学会会員が臨床検査医学のレベルの高い仕事ができるようにするのが第一の目標である.この点の改善は難しい一面もあるが,逆に学会の本質的な在り方を考えると大変重要な課題である.
現在は予防医学とよく言われるが,疾患予防医学には臨床検査医は必須であることを考えると,臨床検査医学の将来はむしろ明るいと思われる.
最近臨床検査医学講座に属する先生より,例えば内科,基礎医学の先生の方が研究業績が多く,教授選ではここが問題となるとの意見を耳にする.これを解決するには他の領域の先生を非難するのでなく,本学会会員がより高度な医学研究をすることが大切である.本学会はそれができる環境を作る必要があり,これも努力によって可能ではなかろうか.また,本学会は多くの学問分野を擁しているが,現在各学問体系が分散方向にある.今後はすべての領域を包括する方向にあるが,いかにすべきかを考えねばならない.検査診断をする上には,化学,血清学,血液学,微生物学,病理学的検査などを総合的に考える必要性がある.したがって,このような検査全般を理解した上での検査診断学を追求する学会になれないかなどの意見もある.また,内科学会のように,トピックスの教育講演を中心にやるような学会になるのかなども考慮すべきかもしれない.どこの学会もやっていないこと,例えば検査の感度・特異度を明確にすることについてのサポートはできないか.また,臨床検査の使い方のガイドラインを作成することはできないかなども重要課題の一つである.
臨床検査技師とのかかわりでは,臨床検査技師認定制度などでは臨床検査全体を統括する団体の一つになれないかとの意見もある.一方,学術的なアプローチ以外でも,医療経済,特に医療保険制度などについて,学会として厚生労働省などに積極的にアピールできるようなシステムを確立するべきである.そのためには,本学会が学会活動の一環として保険医療に関与してゆくべきとも思う.さらに,検査室の標準化や認定などについてもISOやJCCLSなどとコミットして積極的に推進を図るべきである.

臨床検査医学のアピール

私の知る範囲では,かなりの数の一般病院の中検部長は専門が内科か病理学などであって,必ずしも臨床検査医学ではない.したがって,臨床検査学あるいは臨床検査医が他医学領域へアピールができるように研究を増進する必要がある.よく臨床検査医学のアイデンティティーと言われるが,アイデンティティー自体は十分あると思われるが,問題は他の領域の先生や看護婦など,場合によっては患者さんにも臨床検査医学の重要性を十分理解してもらうことである.
臨床検査の保険点数の包括化やブランチラボなどについても,やはり臨床検査医学の医療における重要性が医療や病院の中枢にいる人などに十分理解されていないために起こるように思う.また,臨床検査施設認定についても同様である.このような臨床検査医学のあらゆる方面へのアピールが本学会の今後の重要課題の一つである.

お わ り に

現在,日本臨床検査医学会では,例えば法人化への準備,財政上の安定,名称変更,若手や臨床検査技師への門戸開放,教授選考への支援などかなりの部分のインフラの整備ができた.これは会長をはじめとする現執行部の努力に負うところが大である.したがって,今後はこの基盤の上に立って以下のことを今後の課題としてさらに考えていく必要がある.
 1. 学術的な基盤を整備し,より高度な臨床検査医学研究を増進できるようにする.国際的に通じるようにする必要がある.また,この際産学協同も必要な形となる.
 2. 臨床検査医学教育の必要性を十分他に理解できるような具体策を講じる.
 3. 学会活動としては,医療への臨床検査の重要性をさらにアピールする必要がある.
 4. 臨床検査施設の認証,保険制度における臨床検査のランクアップ,医療における最低限の検査の確保,検査の標準化の推進,精度管理システムの一本化,検査の有用性などに対して学会として十分支援する.
 5. 学会をできるだけオープンにし,さらに多くの人に理解できるような透明性を持たせる必要がある.
 6. 現在DRG/PPS対応検査の使い方ガイドラインを作成中であるが,これをさらに充実させる.
 7. EBDの臨床検査への応用について十分時間をとって考える.