Lab. Clin. Pract., 19(2) : 109 (2001)

臨床検査医会振興会セミナー


21世紀の臨床検査を考える

「第19回日本臨床検査医会振興会セミナー」の座長を務めて

庶務・会計幹事
高 木   康

渉外委員会委員長
村 井 哲 夫



臨床検査医会の振興会会員に毎年の協賛に対する御礼の意味を込めて第1回が開催されたのが1982年である.企業が厚生省(当時)などの行政機関と直接接触することが禁止されており,公の場で,行政機関の考えや施策の方向性を伺うための機会を企画したのが,このセミナーの産みと育ての親である森 三樹雄先生(当会副会長)である.これ以降最初の10年間はこの主旨に沿った企画が練られ,実践されてきた.しかし,最近の10年間は諸般の事情により,行政機関や役人による講演は必ずしも許可にならなかったために,新しい検査試薬や機器などの知識を得たり,あるいは検査室形態の利点と欠点を把握するためのセミナーになってきた.
今回は2001年の開催であるため,「21世紀の臨床検査を考える」を基調テーマとして各領域での代表的役割を果たしている5人の演者に講演を願った.
まず,臨床検査のまとめ役である日本臨床検査医学会を代表して渡辺清明副会長に「学会の方向性」について講演していただいた.先生が委員長を務めている「在り方委員会」の答申に沿った構想とすでに実現されている項目などについての説明があった.いかに学会の活性化を行うかが,臨床検査領域の発展と密接に関連しており,目標達成のために邁進する覚悟を訴えた講演であった.
つづいて「検査室の運営の立場から」と題して桑島 実先生(香川県立中央病院副院長)からお話を伺った.これからの臨床検査は従来の質の高い検査に加えて,適時適温検査,テーラーメイド検査の必要性がある.これらを実践することは検査室の増収には直結しないが,医療費全体の効率的活用には貢献し,患者のQOLの追求からも大切であると結ばれた.
今回初めての試みとして企業トップから講演をいただいた.まずは外資系企業の雄であるロシュ・ダイアグノスティックス社の平手晴彦氏からは「診断薬企業の戦略」と題してお話を伺った.診断や治療モニタリングの手段としての検査から疾病予防のための検査へと方向性の拡大を図る時期にきており,これまで診断できなかった診断項目の開発,医療行為における付加価値の高い項目の開発が重要になってくる.特に遺伝子検査に関しては研究向けからルーチン検査への展開が必要になってくる,との持論を展開された.また,21世紀の臨床検査と認識されている遺伝子検査については「遺伝子検査の将来」と題して,ベンチャー企業である Japan Genome Solutions Inc. の窪田規一氏より,会社設立の経緯,遺伝子解析の方向性,遺伝子検査の可能性,遺伝子検査の問題点について,将来の夢も含めた講演を伺った.
最後は厚生労働省保険局医療課の松谷有希雄課長に「医療行政について」と題して講演願った.松谷氏は平成14年度医療制度改革について,老人医療費の高騰を是正するための医療制度の見直しなどのこれまでの改革で残された課題と,医療保険財政の悪化,診療報酬の改定を3本柱とする平成14年の医療保険制度改革についての詳細を紹介して下さった.
今回のセミナーでの講演は臨床検査にかかわる広範囲な領域を網羅しており,21世紀の臨床検査を担う我々はいかに生きるべきかを自問自答する絶好の機会となった.