Lab. Clin. Pract., 19(2) : 104-106 (2001)
第11回 春季大会記録
パネルディスカッション:検体検査管理加算と検査医の役割
病理部門の立場から
大阪市立総合医療センター病理部
井 上 健
は じ め に
検体検査管理加算が導入されてから,約5年が経過し,病院経営面の点からも,臨床検査医の役割が重要視されつつある.ここでは,病理医の視点から,病理部門と検体検査部門とのかかわり,病理医と検査医,臨床医とのかかわりを中心として病理医,特に検査医を兼ねた病理医の果たす役割について述べる.
病理部門の役割
病理部門は,従来は中央検査部の一部門として位置づけられていたが,大学付属病院では,1980年代半ば頃より徐々に中央検査部門より独立するようになり今日に至っている.また臨床研修指定病院の基準の中に,専任の常勤病理医を配置すること,病理学的検査,剖検が十分行われ,活用されていることなどについて触れられており,病理部門の重要性についても,認識されつつある1).保険点数の面からみた病理部門についても,最近の医療情勢の厳しさのあおりを受け,病理学的検査自体は保険点数は減少しているものの,検体検査管理加算に相当する病理診断料,判断料の加算については,点数は増加している.また病理医が勤務していないと運用できない迅速組織診断についても,点数は減少傾向にあるものの,比較的高い点数を維持している2).これらは,病理医を当該病院内に配置することに対して評価されたものとも考えられる.しかし,一般病院における病理検査の現状をみると,300床以下の多くの病院は,病理部門は設置されておらず,そのような場合,病理検査は外部検査センターなどに依託されているのが現状である3).
病理医と検体検査部門のかかわり
上述したような比較的小規模の病院では,検査部長は,内科医をはじめとした臨床医が兼任することが多く,一方,比較的病床数の多い病院では,病理部門が設置され,常勤の病理医が検査部長も兼任することが多いようである.すなわち,一般病院では,病理医は病理検査のみならず,検体検査業務に深くかかわる必要性が生ずることになる4).さらに検体検査管理加算が導入され,その算定には一定の条件があり,その中で,臨床検査を専ら担当する常勤医師の配置が必要であり,他の診療を行っている場合はこれに該当しない2),とされている.すなわち,検体検査管理加算の算定面からは,臨床医よりもむしろ病理医にとって有利となっており,それらの事情もあわせて,近年,臨床検査医の認定試験に多数の病理医が受験するといった現象が生じている.ところが,病理医が検査部長になっている場合は,その病理医は病理検査のみを管理し,検体検査の管理については,技師長にまかせ,管理そのものがおろそかになっている病院も少なくない.少なくとも検体検査管理加算を算定する限りは,病理医といえども検体検査に大きくかかわる必要があるものと考える.
ここで,最近実際に経験した症例の中から,病理医と検査医,臨床医のかかわりの重要性を認識されられた症例を提示する.症例は58歳の男性で,背部痛にて発症し,胸椎腫瘍を指摘された症例である.血液検査では,貧血があるほかには,特別な異常所見は認めない.整形外科にて腫瘍の摘出術が施行されたが,その病理組織像では,小円形核を有する細胞の密な充実性増殖よりなり,核は偏在し,形質細胞類似の細胞にて占められていた(図1).血液検査結果では,高グロブリン血症やMタンパク質血症はみられなかったが,病理組織標本の免疫染色にて,免疫グロブリン軽鎖κが全体的に陽性であり,重鎖は IgG, IgM, IgA いずれも陰性を示し,Bence Jones protein (BJP) 型の形質細胞腫と考えられた.尿中のBJPの検索や,免疫電気泳動などの検査依頼を臨床医に伝えるとともに,病理報告書が発行された後に行われた骨髄穿刺標本では,形質細胞類似の細胞(多核の細胞も含む)の増加を認め(図2),BJP型の多発性骨髄腫の診断に至った.この症例では,病理部と検体検査の血液部門,免疫血清部門の密な連携により,正しい診断に至った症例である.
図1 胸椎腫瘍病理組織像(H & E 染色) 小円形偏在核を示す細胞の密な増殖を認める.
図2 骨髄穿刺塗沫標本(May-Giemsa染色) 2核の細胞を含む偏在核を示す形質細胞様の細胞を認める.
検体検査管理加算と病理医
前述のように検体検査部門の協力が病理診断に寄与する場面も少なくなく,そのような場合,臨床検査認定医の資格をもつ病理医の実力が発揮できる場面でもある.また診断業務以外においても,近年,臨床検査認定医の資格をもつ病理医の増加に伴って,病理部門,検体検査部門の枠を越えた管理業務が必要になってくるものと思われる.検体検査管理加算を算定するにあたっての付記事項として,精度管理を行っていること,適正化に関する委員会が設置されていることなどが記載されている2).検査医は,検体検査の管理,運営にかかわっているわけではあるが,その行為に対する評価として,検体検査管理加算が設置されているものとも考えられ,病理医が病理組織検査診断書を発行して,病理診断料加算を算定しているように,検査医においても,検査部門の管理運営のみならず,一連の診療行為の中で,報告書の発行,コンサルテーション等に対する対応などを積極的に行い,さらに立場を高める必要があるものと思われる5).また逆に,臨床検査医の資格を取得している病理医においては,検体検査についても,このような業務の重要性を認識することが必要であるものと思われる.
臨床医と検体検査,病理検査の関係を考えた際,病理検査と臨床医の橋渡しは病理医であり,臨床医と検体検査の橋渡しは,臨床検査医であるが,それに加えて,検体検査と病理検査の橋渡しが病理医および臨床検査医に求められる(図3).大学病院以外の一般病院では,検査部長に病理医が任命されていることが多く,その場合の病理医は,臨床と病理部,検体検査部の3者の中心に位置するわけであり,その役割を果たす義務がある.またその実践のためには,今後,病理医の検査部門での研修システムの確立が大学病院を中心として整備される必要があるものと思われる6).
図3 臨床医と検査医,病理医のかかわり
文 献
1) 石河利隆:認定病理医の公認に至るはるかなる道程.病理と臨床,13, 442-455 (1995).
2) 社会保険・老人保健診療報酬 医科点数表の解釈平成12年4月版 社会保険研究所
3) 岡崎悦夫:病理業務と人員に関する全国調査.病理と臨床,13, 475-479 (1995).
4) 石原明徳:病理医による臨床検査室の運営.Lab. Clin. Pract., 18, 36-41 (2000).
5) 高木 康:Good Laboratory Management と臨床検査医.臨床病理,48, 843-845 (2000).
6) 手塚文明:臨床検査における病理医の試み.臨床病理,49, 593-595 (2001).