Lab. Clin. Pract., 19(2) : 100-103 (2001)

第11回 春季大会記録


パネルディスカッション:検体検査管理加算と検査医の役割

悲観的観測から脱却するために

京都府立医科大学臨床検査医学
藤 田 直 久


は じ め に

検体検査管理加算は平成8年に初めて診療報酬として収載され,以後約5年が経過している.これまでにも検査医の役割について多くの議論がなされてきたが,日本臨床病理学会(現・日本臨床検査医学会)の提唱している「認定臨床検査医のためのGIOs」に検査医の役割が概括的に示されている.今回,検体検査管理加算を考慮した検査医の役割について,私なりの考えといくつかの今後考慮されるべき点について述べてみたい.

検体検査管理加算の施設基準

検体検査管理加算(II)は,平成8年100点で始まり,平成10年より200点,平成12年からは220点と,保健点数は増加している.検体検査管理加算取得に関する施設基準として
  (1) 臨床検査を専ら担当する常勤の医師が1名以上いる.
  (2) 勤務時間の大部分を検体検査の判断補助,検体検査の全般の管理・運営にあたっている.
  (3) 他の診療等を行っている場合は該当しない.
以上のような専任医師の条件がある.
これに加え,外部・内部精度管理,臨床検査の適正化に関する委員会の設置および血型・クロスマッチを含む血液・生化学緊急検査が常時可能であるという諸条件を満たした医療機関に対して,入院患者一人につき一月に一回,加算されるというものである.

当院臨床検査部における医師(検査医)の業務

大学病院の検査部医師の業務について述べる.
平成13年7月現在,当教室の教員は検査専門医(内科系)2名と内科医1名の計3名である.検体管理加算の登録は,大学での外来を実施している1名を除く,2名の医師で行われている
. 業務内容については,大学の臨床検査医学教室と付属病院検査部とに二分される.なお研究については今回は省略する.
  1) 臨床検査医学教室という大学の教育施設として
    これらは,全く検体検査管理加算とは関係しない業務であるが,「良き医師・看護婦・医療従事者」を育てるための大学病院に勤務する検査医の責務である.
   a) 大学(検査医学)としての学生教育
    ・臨床検査医学講義100分×17回(担当教官3名と病院病理医師2名,客員講師2名)
    ・総合講義 100分×4回(院内感染,食中毒,遺伝子診断,骨髄移植と感染症)
    ・学生実習 100分×2回/週×4人(担当教官)×21週
   b) 看護技術短大講義(年間3回)および看護専門学校(年間3回)
    ・講義のみであるが,講義数が少なく十分な臨床検査に関する教育ができていないのが現状である.
  2) 付属病院検査部での業務(検査医が実施)
   2)-1 検体検査管理加算にかかわる業務
    a) 血液検査(担当医師1名)
     末梢塗沫および骨髄検査診断判定,コメント・報告書作成
     フローサイトメトリーの検査結果判定,コメント・報告書作成
    b) 生化学検査:検査結果への一部コメントおよび異常値の項目に対する主治医へのコメント(電話連絡)(担当医師1名)
    c) 細菌検査(担当医師1名)
     分離菌の病原性への解釈,結果報告書へのコメント
     感染症新法該当病原体検出の連絡と対応・指導
     抗菌剤の選択のアドバイス
    d) 精度管理(外部精度管理と内部精度管理)
    e) 院内からの相談:検査結果,検査アドバイス,診療支援,治療への介入など(感染症・血液疾患・循環器疾患等)
   2)-2 検体検査管理加算に関連しない業務
    a) 生理機能検査:心電図の判定,心臓エコーおよびトレッドミル検査・結果報告書作成(担当医1名,兼任2名)
    b) 院内感染対策:教育・啓蒙,ラウンド,サベイランス,コンサルテーション(院内の各部所からの問題点・質問等へのアドバイス,解答)(対策委員会副委員長として1名)
    c) 医療情報部:医療情報システムおよびオーダリングシステム(医療情報部副部長として1名)
    d) 経営改善:機器・試薬購入,人員問題(特に検査部)
    e) 診療:外来(週1回血液外来×医師1名),入院(患者4〜5人×医師1名)
    f) 機器・試薬の選定業務
    g) 他院からの相談および検査依頼(血液および細菌検査,感染症等)
以上が当院における検査医の業務内容である.大学病院という教育機関としての特殊性のため,各教員あたり5日間のうち約1日半が臨床実習・講義に当てられることとなる.また17回の系統講義のうち,各教員4回程度の講義が割り当てられる.一方,検査部としての業務は,担当医師により大きく異なるが,検体管理加算には算定されない生理機能検査が,大半を占める検査医もおり,手術前の患者の呼吸機能検査や心電図検査の結果に対し,適切なコメントとアドバイスを行い,安全に手術が実施できるように活動している.今後この生理機能部門への加算も必要ではないかと考える.
検体管理加算に関する検査医の業務内容としては,他大学と比較すればまだ十分とは言えないかもしれない.自分自身,自分の与えられた業務をやるだけで精一杯であり,他の2名の医師のうち1名は血液病の臨床との二足のわらじを履いており,もう1名は生理機能検査・生化学検査で頑張ってくれている.多忙な毎日であるが,さらに検査医としての責務を果たすべく,日々研鑽しなければならないと思っている.

臨床系検査医と病理系検査医

現在,検査専門医の試験には,多くの病理系医師が受験し,臨床系医師よりも受験者が増加している現状がある.多くの病理医が臨床検査に興味をもっていただき,病院検査部の管理・運営に携わっていただけることは,歓迎すべきことである.
しかしながら,一方で日常的に病理診断を専らとしながら,検体管理加算の管理医師として登録されていることがある.都道府県により実態は異なるようであるが,これが事実で,病院がそれを知りつつ検体検査管理加算を取っているとするならば,本来の検体検査管理加算の目的からは大きく外れる.「質の高い検体検査が実施・管理・運営されている証」が,診療報酬として認められているからである.
また,施設基準からは「臨床検査を専ら担当する」という条件があるため,臨床系検査医は当然外来患者や入院患者への診療は制限されている.一方で,病理系検査医も,当然検体の管理業務に時間の大部分をさかなければならない,にもかかわらずそれが行われず,病理検査に大半を費やしているとするならば,今後の「検体管理加算」の存続にも大きな問題が生じてくるのではないかと危惧する.この問題を取り上げるのは,臨床検査を築き上げてこられた諸先輩方の努力の結果,ようやく獲得された「検体検査管理加算」を将来的に廃止という悲劇を避けたいからである.これは検査医の医学における役割と密接に関係することであり,検査医会あるいは検査医学会が実態調査を行い,適切な対処が必要であろうと考える.

検体検査管理加算における検査医の役割

検査医の役割については,いままで現場で活発に活動されている多くの先輩検査医により議論がなされてきており,それに関する論文は数多く出ている.しかしながら,検体検査管理加算を考慮したうえでの検査医のことについては,あまり論じられていない.「認定臨床検査医のためのGIOs」から引用すれば,7つのうち検体検査管理加算に関連した部分は,1) 各種臨床検査に関して臨床医のコンサルタントとして機能できる,2) 臨床検査医の診断・コメントが必要な各種検査報告書を発行できる,3) 臨床検査部(室)ならびに臨床検査医学関連に関連した部署の適切な管理・運営の基本を身につける,の3点であろう.この3点についてどれだけの検査医が身につけ,実行しているのであろうか?
一方,先述の生理機能検査であるが,検査部を管理運営していくうえでは,決して検体検査のみでは十分ではないことも事実である.専門性を活かしながら GLM (good laboratory management) が行われることが必要であり,臨床検査管理加算として生理機能検査もその一部として組み込まれるか,あるいは別途加算があれば良いのではないかと考える.

検体検査管理加算のとれる検査医をどう育ててゆくのか?

検査医の業務は,広範囲でありそれぞれが得意とする分野での活躍を望まざるをえない.その影響もあってか,臨床検査医学会として臨床検査専門医の具体的で詳細な業務内容はない.
医科大学の検査医学教室は,日本の多くが内科のディビジョンのひとつとなっている感がある.検査医学としてのディビジョンを確立している大学はわずかでる.この是非については議論があるところであろう.検査専門医の研修内容の前半は,内科学全般であり,医師としてこれだけの研修は必要である.とするならば,内科系医師を育て検査医学に興味を抱く人材を,取り込むことが現実的な気がする.日常の診療に当たりながら,検査医として臨床検査の管理を行う医師がいても不思議ではないように思う.
検体検査管理加算の本来の目的と,前述の考えとは相反するような話であるが,後進を育てるためには,ツールが必要であり,検査医の未来はない.いかにすべきか,迷う毎日である.

最 後 に

検体管理加算は,検査医の存在意義を明確にした点で極めて重要なことであり,諸先輩のご尽力の賜であると思う.しかしながら,問題点もいくつかあり,見直しの必要な時期にきているのではないかと考える.検査医の役割とその議論について述べたが,検査医学が,他の医学と異なり医学全体を取り扱う極めて広範な領域から成立しており,それぞれの検査医の立場や専門性の多様性が,今まで多くの議論を作り出してきた理由にほかならないのではないかとも思う.臨床現場で必要とされる検査医を育てるためには,やはりさらに具体的な指標が必要であり,教科書の作成,教育のシラバス等はその具体策ではないかと思う.また検査医の認定試験の内容についても同様に明示すべきだと考える.また,検査医としての役割を果たすのみならず,後進を育てるための努力も必要ではないだろうか.

文   献

  1) 小林 功:臨床検査医を目指す若い方々に.臨床病理,48, 846-849 (2000).
  2) 高木 康:Good Laboratory Management と臨床検査.臨床病理,48, 843-845 (2000).
  3) 高橋伯夫:21世紀に向けて検査医に何が求められているか.Lab. Clin. Pract., 18(2), 127-128 (2000).
  4) 日本臨床検査医会ホームページ(http://www.jaclap.org/)
    日本検査医会要覧(http://www.jaclap.org/directory2000.html)