Lab. Clin. Pract., 19(2) : 95-96 (2001)

第11回 春季大会記録


パネルディスカッション:検体検査管理加算と検査医の役割

検体検査管理加算と検査医の役割

奈良県立医科大学附属病院中央臨床検査部
岡 本 康 幸



検体検査管理加算は,臨床検査が専門的な精度管理のもとに実施されることの重要性を認め,広い意味での検査判断料として設定されたものと考えられるが,加えて,検査成績の評価には検査成績の意味を説明できる病態生理学,生理的変動因子,アーチファクト,測定原理などの十分な知識を有するコンサルタントとしての検査専門医の存在が病院にとって必要であることが認められて設定されたものと考えたい.したがって,検査医が第1に望まれることは,検査室での検体の「診察」,すなわち検体になって初めて見つかってくるさまざまなサインを見逃さずチェックし(これには,現場の技師がそれを仕事の一部と認識し,協力してくれることが必須であり,そのための教育・研修も必要であるが),その原因と意義をつきとめて報告すること,そして,形態やパターンで示されるデータ,さらにセット化されたデータなどについて,臨床的に意味のある所見を付加情報として提供することであると思われる.また,市販のキットを使って実施する検査だけに留まらず,まれではあっても症例の診断に必要となる特殊な検査を検索あるいは考案し,実施することも望まれるであろう.さらに,検査部に集まる情報を整理・解析し,病院全体にフィードバックしていくことも検査医の役割と考えられ,とくに院内感染情報を提供することは今日では必須であると言ってもいい.今後,最も大事なことは,このような検査医特有の活動が真に病院の診療レベル向上につながり,かつ,それが目に見える形(検査医のいない病院より評価が高くなるといった)で臨床の現場に反映されていくことであると思われる.本稿では,主に検査医の役割についての私見を述べたいと思う.

1. 検査室の管理・運営

検査室の管理・運営は検査医の基本的な仕事であり,その内容には,基準値設定,精度管理,検査実施項目の取捨選択・外注検査との調整,機器や試薬の選定,人員配置・各種制度・システム設定などへの助言,などが挙げられる.一方,検査医が本来の力を発揮するためには,何よりも,現場の検査技師が単に測定するだけではなく,好奇心をもって検体に向かい,問題提起をしてくれる存在になってくれなければならない.そのために必要なことは,日常的に技師の指導・教育・研究支援などを積極的に行うことにより,さまざまな疑問に執着していく姿勢をとってもらうことである.その結果,検査医は,それらの問題提起の中から臨床的に意味のあるものを抽出することが可能となる.検査部が,検体への疑問から予期せぬ疾患を見つけ出すということは,まれではあったとしても,検査部が最後の診察室として機能していることを示すものとして意義あることと考えられる.また,質の高い医療という共通の目的意識のもとに,検査部・臨床科間が良好な交流を保てるように努めることも検査医の重要な役割と考えられる.

2. 検査医の臨床

検査医の臨床としては,検査成績の所見・コメント,特殊検査や研究検査の実施,データ解析のコンサルタント,そして週1回程度の一般外来,が挙げられる.臨床科の希望に即した特殊検査や研究検査の実施は,まれな疾患の診断や病態の詳細な解析につながり,病院全体の診療レベル向上に大きく寄与することが可能となる.とくに,感染症の早期診断,分子生物学的診断などにその需要が存在すると思われる.また,検査医は,検査というハードウェアを熟知しながらも,常に臨床医としての問題意識を持ち続けることが必要で,そのためにも週1回程度の外来診察(とくに初診外来)を行っていく必要がある.検査医とは,そのような両親媒性をもった存在であり続けるべきである.

3. 院内活動

検査部には多くのデータが集積されてくるため,これらを整理し,データベース化することで,診療科に有用な情報を提供することが可能となる.ただし,これらの情報は常に利用しやすい形で提供されていなくてはならない.具体的には,院内感染情報などの定期的なリポートの配付や,イントラネットにデータベースを公開するなどの活動が必要である.それと同時に,院内感染対策事業については,微生物検査室を擁する検査部の主体的な参加が必須であり,また検査部はこういった病院内の横断的な業務に適役の部門でもある.検査医は,これらの院内活動において中心的な役割を果たす必要があるだろう.

4. 院外活動など

外部精度管理や標準化事業への参加は検査医の社会的活動として重要である.また,検査医学の発展に尽くすことも重要な役割と思われる.検査医学とは,疾患の科学的診断のためのすべての方法論を扱う医学と定義できるかもしれないが,未だ確立された学問にはなりえていない.今後,検査医は,検査医学の確立のために努力する必要がある.そして,難解なあるいは未知の症例に遭遇したときに,どのように考え,どのような方法を使って,どのような手順で診断に達すれば良いかの示唆を与えてくれるような教科書が出来上がることを期待したい.そのためにも,まず,個々の検査医が,検査室診療の経験と成果を報告し,蓄積していくことが重要と思われる.症例解析は,検査医にとって最も重要な研究テーマである.

検体検査管理加算は,まさに検査医の人件費でもある.この制度が続いていくためにも,検査医の存在意義を示すことが,今,最も望まれていることだと思う.