Lab. Clin. Pract., 19(2) : 66-69 (2001)

第11回 春季大会記録


シンポジウム:最近注目されている専門分野での臨床検査

細 菌 学
抗真菌剤感受性試験の現状と今後の展望

近畿大学医学部臨床病理学
山住俊晃・古田 格


は じ め に

酵母様真菌に対する抗真菌剤感受性試験の標準法が確立されたことにより,より便利な方法論への発展の扉が開けられた.マクロ液体希釈法のみならずミクロ法が開発され,その両者が記載されたNCCLS M27-A1)の公表後,その臨床的有用性が一気に高まり,我が国においても1995年日本医真菌学会標準化委員会により標準法2)が提案されるに至った.さらに,抗真菌剤主要5薬剤に対する標準株とそのMIC許容範囲が設定されるとともに,フルコナゾール,イトラコナゾール,およびフルシトシンの3薬剤についてはブレークポイントが定められ,Candidaその他の酵母様真菌の感受性試験法として現在広く利用されている.このような抗真菌剤感受性試験の発達は,各施設での実用化と多数の臨床研究を可能にし,われわれの真菌の薬剤感受性動向への理解をより深める契機となった.ここでは,国内外で検討されている抗真菌剤感受性試験の問題点を挙げるとともに,今後の展望について述べる.

1. 標準法の問題点

NCCLSの提唱する標準法は,MOPS buffered RPMI 1640 液体希法で,接種菌量,培養条件,終末点判定などの測定結果の変動要因について,細かく規定されている(表1, 2).その高い再現性は多くの多施設間共同研究で確認されているが,問題点もいくつか残されている.
まず,アンフォテリシンBについてであるが,カンジダ属に対するMIC分布が狭く,0.25〜1 μg/mLにほとんどの菌株が分布する.一方,1〜2 μg/mL程度のMICでも臨床的に耐性を示すことがあり,現行法では耐性株の検出に困難がある3).測定培地としてRPMI1640の代わりにAntibiotic medium 3を使用したり3),Etestを応用することによって4),MIC分布域が広がることが見いだされており,これらの方法を用いれば臨床的に重要なアンフォテリシンB耐性株の検出率が向上する可能性が示唆される.ただし Anti-biotic medium 3はlotによる変動があり,現状では代替法としての公表はなされていない.
NCCLS法は当初カンジダ属を対象に開発されてきたが,Cryptococcus neoformansに対しても応用可能であることが認められている.しかしC. neoformansの場合RPMI1640の発育支持能に難点があるため,判定に72時間を要し,時には発育の見られない菌株も存在する.この点でNCCLSはYeast Nitrogen Brothを使用することにより24時間速く判定が可能であるとしている1)
さらに,C. albicansのアゾール系薬剤の終末点判定がしばしば困難で,これはTrailing現象として知られている.特に24時間判定では感性であるが,48時間では耐性と判定されてしまう,いわゆるLow and High phenotypeは,in vivoでの治療反応性は良好であり,判定結果の報告には注意が必要である.なお,このTrailing現象はpH依存性でpH 5以下の培地では,Trailingが抑制されることが報告されている5)

表1 NCCLS標準法M27のまとめ

  因子      M27 methodology
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
  方法      マクロ液体希釈法,1 mL final volume
          ミクロ液体希釈法,0.2 mL final volume
  培地      RPMI 1640 containing 0.165 M MOPS (pH 7.0)
  接種菌液    0.5−2.5×103 organisms
  培養温度    35℃
  培養時間    48 h (Candida species) or 72 h (Cryptococcus neoformans)
  終末点判定   Amph B, 完全発育阻止濃度
          アゾール系薬剤と5-FC, 80% 発育阻止濃度
  精度管理    QC isolates C. parapsilosis ATCC22019, C. krusei ATCC6258
          Amph B, ITCZ, FLCZ, KCZ, 5-FCの5薬剤でMIC許容範囲を設定


表2 NCCLS M27-Aによる判定基準

 Agents   Susceptible (S)   Susceptible-dose   Intermediate (I)   Resistant (R)
                  dependent (S-DD)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 FLCZ     ≦8          16−32          −         ≧64
 ITCZ     ≦0.125       0.25−0.5         −         ≧1
 5-FC     ≦4           −          8−16        ≧32


2. 抗真菌剤感受性試験標準法の応用

NCCLS法の公表後,この標準法を試金石として,検査室で容易に実施されうる方法論の開発が進んだ.多数の方法がさまざまな検討段階にあるが,日本医真菌学会の提案するspectrophotomet-ric method, resazurinなどの酸化還元反応呈色色素を利用したcolorimetric method, 主としてヨーロッパで使用される Disk diffusion あるいはAgar dilution法やEtestがこれまでに開発され,一般にこれらの方法は,再現性や標準法との互換性も満足するレベルで,より簡便な市販キットへの応用も進んでいる.現在国内では,酵母様真菌FP, 酵母様真菌DP, ASTY, ATB FUNGUSが使用可能である.
標準法公表前には,評価指標がなかったため検査室の抗真菌剤感受性試験の精度についてはあまり知られていなかった.近年米国ではCollege of American Pathologists (CAP)による外部精度管理が,Candida spp. と5薬剤(アンフォテリシンB, フルコナゾール,ケトコナゾール,イトラコナゾール,フルシトシン)の組合せで行われている.統括するDr. Pfallerによれば,参加施設の大多数は NCCLS M27-A あるいはその改良法を導入していて,その精度は高く,一般細菌の薬剤感受性試験と同程度との結果が得られている(Dr. Pfaller: personal communication).
また,感受性検査の標準化とともに大規模かつ長期のサーベイランスが施行され,真菌の薬剤耐化傾向について報告がなされるようになった.病原性真菌として分離頻度の高い C. albicans については,現在までのところAIDS患者の口腔食道カンジダ症を除き目立った耐性株の増加は報告されていない.米国アイオワ大学を中心に1997年より展開されている多国間サーベイランスの報告によると,カンジダ属では菌種により薬剤感受性成績が異なる結果が得られている6).すなわち,カンジダ血症の原因菌で見ると, C. albicans, C. parapsilosis, C. tropicalisではフルコナゾール耐性率は 0〜1% と低く,年次による耐性率の増加は認められていない.また,C. kruseiではフルコナゾール耐性率は 100%, C. glabrataではイトラコナゾール耐性率が 32〜36% と高く,同じく経年的変化は見られなかった.
一方で,AIDS患者の口腔食道カンジダ症の場合疾患の反復のため,アゾール系薬剤の長期投与が余儀なくされる症例が多く,経過中に治療に反応しなくなるケースがある.このような症例から検出されるアゾール系薬剤耐性菌について,分子生物学的な耐性機構の解明が進んでいる.これまでの研究から,アゾール系薬剤の場合標的酵素である14α-ステロール脱メチル化酵素の過剰産生や点突然変異,あるいは薬剤排出ポンプをコードするCDRMDR遺伝子の過剰発現が薬剤耐性に関与していることが明らかにされた7).また,C. neoformansでは,フルコナゾール感受性株の中に低頻度ながら,薬剤耐性クローンが存在するヘテロレジスタンス株が報告されている8).このような薬剤耐性機構の解明が進むことにより,今後耐性菌の検出能力を向上させる方法論やより効果的な新薬の開発が進むことが期待される.

3. 現時点での利用法

さて,医療の効率化が叫ばれる昨今,臨床検査室では標準化された方法論をいつ,どのように利用するかを考える必要がある.言うまでもなく感受性試験が真に有用であるにはブレークポイントの設定が不可欠であるが,現在までのところ,口腔食道カンジダ症および深在性カンジダ症でのフルコナゾール,口腔食道カンジダ症でのイトラコナゾールという二つの設定で確立されているのみである1)ことを明記しなければならない.薬剤のlow dosage, 吸収,患者のコンプライアンス,免疫応答など多くの要因が,in vitroでのMIC値以上に治療の失敗に関連し,ほかの薬剤と菌種の組合せでのブレークポイントの設定を困難にしている9)
このように限られた条件下で,抗真菌剤感受性試験を施行するに際し,まず強調したいのは,同定を菌種レベルまで確実に行うということである.前に述べたように,薬剤感受性は菌種別で傾向が異なることがわかっており,特に深在性の材料からのCandidaはspeciesレベルまでに同定することで治療効果の予想は大方可能であるといってよいと思われる.全例で感受性試験をセットアップするよりは,宿主の状態を考慮した上で,臨床サイドのリクエストに答えるのが実情に即している.病原性の糸状菌の場合,現時点では少なくともgenusレベルまで同定することで,治療方針の決定には必要かつ十分であろう。
AIDSに関連した口腔食道カンジダ症の場合でも,治療開始後数週単位の短期間に耐性化が見られるのは非常にまれであり,頻回の感受性検査は必要ないと思われる.アゾール剤による治療に反応しなくなった場合には有用な情報になる.
一方,多くの施設にとって,施設内,地域内でのantibiogramは有用な情報源となり,定期的に感受性動向を調べる意義は大きい.得られたantibiogramと確実な同定結果は治療の方針決定の指標として,現時点では満足しうるものである.このアプローチは分離頻度が低くかつ感受性試験の難しい嫌気性菌感染症のそれと似ている.

4. 今後の検討課題

アンフォテリシンB耐性株検出能の向上,trail-ing現象などの従来からの問題点の見直しとともに,今後検討されるべき領域は,新規抗真菌剤への対応と,糸状菌に対する感受性試験標準法の開発および皮膚糸状菌への応用である.
近年数種の新規抗真菌剤,すなわち第二世代triazole (Voriconazole, Ravuconazole, Posaco-nazole), Glucan synthesis inhibitors (Echino-candin: Vesicor, Capsofungin, FK463), Cithin synthesis inhibitors (nikomycin) が開発されているが,これまでの検討によると,カンジダ属以外の酵母様真菌や糸状菌に対しスペクトラムが広がり,CDR-expressed C. albicansに対しても効果がある結果が得られている10), 11).いくつかはすでに臨床試験が行われているが,これらの薬剤の臨床評価が進むとさらに感受性試験の必要性が増すと予想される.
糸状菌についても,M27-Aをたたき台にして,胞子を接種菌液作製に用いた微量液体希釈法が開発され,Aspergillus spp., Fusarium spp., P. boydii, Rhizopus arrhizusなどの菌種では,良好な再現性が確認済みで,その成果はNCCLSよりM38-Proposal Standardとして発表されている12)
これまで記してきたように,新たな薬剤と菌種の組合せについては,培地,判定時間などの測定条件を新たに検討する必要があり,さらにはQC parameterの設定も済ませなければならない.In vitro-in vivo correlation の確立が望まれるのは無論のことである.
最後に,他の理論に基づく薬剤感受性検査法の検討も望まれる.Fungicidal testing (Minimum fungicidal concentration: MFC)については,カンジダ血症におけるアンフォテリシンB投与の臨床検討で,ブレークポイントをMFC>1 μg/mLに設定した場合,治療の失敗が特異度 94% で予測できたと報告されている3).またTime Kill Curveは薬物動態を考慮した検査法で,薬剤併用効果の評価にも有用であり,一般抗菌剤で多数の検討があるが,抗真菌剤においても標準化の試みがなされている13)

ま と め

ここ10年間で抗真菌剤感受性検査は大きく進歩したが,解決すべき点は依然多く,検査室での使用にあたっては十分留意する必要がある.新薬やこれまであまり検討されていない菌種への標準法の応用と,従来からの問題点であるアンフォテリシンB耐性検出能の向上の努力は今後も続けていく必要がある.また,カンジタ属とアゾール系薬剤以外の組合せにおけるブレークポイントの設定は大きなチャレンジであるが,抗真菌剤感受性試験の臨床的有用性を高めるには欠かせず,この領域でのさらなる研究が期待される.

文   献

  1) National Committee for Clinical Laboratory Standards: Reference method for broth dilution antifungal susceptibility testing of yeasts: Approved standard M27-A. NCCLS, Villanova, PA, 1997.
  
2) 山口英世,他:日本医真菌学会標準化委員会報告(1992〜1994年).日本医真菌学会雑誌,36, 61−86 (1995).
  
3) Nguyen, M. H., et al.: Do in vitro susceptibility data predict the microbiologic response to amphotericin B? Results of a prospective study of patients with Candida fungemia. J. Infect. Dis., 177, 425-430 (1998).
  
4) Pfaller, M. A., Messer, S. A., and Bolmstrom, A.: Evaluation of Etest for determining in vitro susceptivility of yeast isolates to amphotericin B. Diagn. Microbiol. Infect. Dis., 32, 223-227 (1998).
  
5) Marr, K. A., et al.: The trailing and point phenotype in antifungal susceptibility test-ing is pH dependent. Antimicrob. Agents Chemother., 43(6), 1383-1386 (1999).
  
6) Pfaller, M. A., et al.: Bloodstream infections due to Candida species: SENTRY antimicro-bial surveillance program in North Americal and Latin America, 1997-1998. Antimicrob. Agents Chemother., 44(3), 747-751 (2000).
  
7) White, T. C., Marr, K. A., and Bowden, R. A.: Clinical, cellular, and molecular factors that contribute to antifungal drug resistance. Clin. Microbiol. Rev., 11(2), 382-402 (1998).
  
8) Mondon, P., et al.: Heteroresistance to fluconazole and voriconazole in Cryptococcus neoformans. Antimicrob. Agents Chemother., 43(8), 1856-1861 (1999).
  
9) Rex, J. H., et al. for the Subcommittee on Antifungal Susceptibility Testing of the National Committee for Clinical Laboratory Standards: Development of interpretive breakpoints or antifungal susceptibility testing: conceptual framework and analysis of in vitro-in vivo correlation data for fluconazole, itraconazole, and Candida infections. Clin. Infect. Dis., 24, 235-247 (1997).
  
10) Hossain, M. A. and Ghannoum, M. A.: New investigational anifungal agents for treating invasive fungal infections. Expert Opin. Invest. Drugs, 9(8), 1797-1813 (2000).
  
11) Yamazumi, T., et al.: In vitro activities of ravuconazole (BMS-207147) against 541 clinical isolates of Cryptococcus neoformans. Anti-microb. Agents Chemother., 44(10), 2883-2886 (2000).
  
12) National Committee for Clinical Laboratory Standards: Reference Method for Broth Dilution Antifungal Susceptibility Testing of Conidium-Forming Filamentous Fungi; Proposed Standard M38-P. NCCLS, Villanova, PA, 2000.
  
13) Klepser, M. E., et al.: Influence of test conditions on antifungal time kill curve results: proposal for standardized methods. Anti-microb. Agents Chemother., 42(5): 1207-1212 (1998).