[ 知っておきたい! 病気予防の検査の知識(2)] 2005.05.01

基準値、基準範囲を超えると病気なの?

日本臨床検査専門医会  大 谷 慎 一


 今回の「基準値、基準範囲を超えると病気なの?」は実は大変奥深いテーマです。永遠のテーマかもしれません。

 一般的に健常人であれば、基準値、基準範囲を超えているからといって心配するような病気である可能性は低いのですが、自分では多少気になることはあってもたぶん健康であると考えていて、基準値、基準範囲を超えていないから心配ないと考えていても、実は病気である患者さんは存在します。ありえないと感じている方もいらっしゃるかもしれませんが、臨床の現場では遭遇します。

 最近、外来で経験した症例ですが、約半年以上前より、くしゃみや鼻水の自覚症状があり近くの内科や耳鼻科に通院され風邪やアレルギーではないかと言われ内服薬などを処方され様子をみていました。当然近医では通常の一般血液検査が行われており異常はなく、胸部レントゲン写真も複数回撮影されていましたが、いずれにも異常がないとの事でありました。しかしながら、自覚症状が完全に消失しないため、当院を受診されました。たまたま、総合外来の診察日でありその方を私が拝見することになりました。アナムネ(現病歴)をとり、診察をしてアレルギー症状と考えるのが自然であると考えました。
 血液検査、生化学検査、炎症反応、アレルギーなどの検査をオーダーし、検査結果を確認しましたが、全て基準範囲であり異常はみられませんでした。症状から抗アレルギー薬を中心に処方し外来に再び来て頂くことにしました。二、三ヶ月程通院され、自覚症状は改善されてきましたが、多少は残っておりました。そのため、再び血液検査、生化学検査、炎症反応などの検査を行い、胸部レントゲン写真も撮影しました。前回同様に全て基準範囲でありました。胸部レントゲン写真も大きな異常はみられませんでしたが、本人とも相談し念のために胸部CT(造影なし)を撮る事にしました。結果は肺門部に本当にわずかなmassが発見されました。
 同期の呼吸器内科医に相談したところ、診てくれることになりました。肺癌腫瘍マーカーはいずれも陰性(異常なし)でありましたが、気管支鏡検査となりました。肺生検の結果は肺腺癌の診断となり、全身検索にて転移がないことが確認され呼吸器外科で手術となり、無事に手術摘出されました。術後の経過もよく退院され現在過ごされております。この症例のように検査データの基準値、基準範囲の意味では、病気ではないはずですが、総合的な判断では病気が存在していました。当然この逆もしかりです。やはり気になることがあれば、予防が一番でありますので医師にご相談下さい。