[ 専門医の検査のはなし 23 ] 2005.03.01

脳波って何? 調べると何が分かるの?

日本臨床検査専門医会  原 田 俊 英


◇脳波とは?
 脳波は、神経細胞(人間の脳には約140億個存在)からなる大脳皮質の表面近くに位置する多数の樹状突起に生じたシナプス電位・後電位などの総和の電位変動を頭皮上から誘導し増幅したものです(下図)。したがって、脳の機能状態を簡便かつ無侵襲に検査することができます。すなわち、覚醒・睡眠の別、脳の機能障害(てんかん、意識障害など)の有無およびその程度や広がりなどを知ることができます。


◇正常脳波
 脳波の周波数はδ波(0.5〜3Hz)、θ波(4〜7Hz)、α波(8〜13Hz)、β波( 14〜30Hz)に分類され、δ、θ波が徐波、β波が速波です。健常成人(18歳以上)の覚醒、閉眼、安静時脳波はα波とβ波から成り、基礎波としてのα波にβ波が混入します。開眼、計算などの精神作業でα波が消え、β波に置き変わります。

◆年齢による変化:小児では徐波が多く、18歳前後で成人脳波になり、老人ではα波の徐波化がみられます。

◆睡眠時脳波:睡眠深度がわかります。入眠期、軽睡眠期、中等度睡眠期、深睡眠期、レム期の各ステージに特徴的な脳波所見から判断されます。脳波に呼吸曲線、眼電図、心電図、筋電図などを加えた多チャンネル・長時間睡眠記録は、睡眠時の種々の異常(睡眠時無呼吸症候群など)の病態解析に役立ちます。


◇異常脳波
1)正常所見の抑制・消失や左右非対称、2)健常人にみられない異常活動(棘波、徐波、棘徐波結合などの発作波)の出現があります。これらの異常脳波から、以下のような疾患の診断や病態解析ができます。また、脳波は脳死判定にも重要な検査です。

◆てんかん:脳波は診断的価値が高く、各臨床発作型に特徴的な発作波がみられます。鑑別診断、治療薬の選択や中止の判断材料になります。

◆脳の感染症:脳炎による脳障害や意識障害の程度、臨床経過、治療効果、予後などの判定や局在診断に役立ちます。クロイツフェルド・ヤコブ病、亜急性硬化性全脳炎、単純ヘルペス脳炎などでは周期性同期性放電がみられることがあり、診断に役立ちます。

◆代謝異常、中毒:甲状腺機能異常、糖尿病性昏睡、低血糖昏睡、無酸素脳症、一酸化炭素中毒、尿毒症、肝性昏睡(三相波)では脳波異常が出現します。

◆脳血管障害、脳腫瘍、頭部外傷、精神疾患、アルツハイマー型痴呆など:徐波化などの非特異的所見を呈します。脳幹症、非定型精神病、行動異常児などの中には特異な発作波を呈するものがあります。