[ 専門医の検査のはなし 17 ] 2004.09.01

腫瘍マーカーって何? 調べると何がわかるの?

日本臨床検査専門医会  桑 島 実


腫瘍マーカーとは
 腫瘍には良性と悪性があります。進行が速く、転移しやすい悪性のものを一般には「癌」と呼んでいます。腫瘍マーカーの腫瘍は「癌」を意味します。腫瘍マーカーとは本来、癌細胞から産出される物質であり、これが主に血液、体液、癌細胞の中に検出でき、癌の診断や経過の指標になるものを指します。癌細胞から産生される物質ではないが、生体が癌に対して反応し、身体の中でつくられた物質も腫瘍マーカーに含めることもあります。ところで、癌以外のときにはみられず、癌細胞にのみ検出できる物質は現在のところほとんどありません。このため、正常の細胞内にもみられますが、比較的、癌細胞中に多い物質も腫瘍マーカーとしています。

腫瘤マーカーの種類
 腫瘍マーカーには、さまざまな化学的性質を持ったものがあります。また、癌細胞は細胞の成熟段階からみると未熟なものが多く、胎児期の細胞と似たところがあります。そこで腫瘍マーカーのうちで正常の胎児期の細胞からも産生されるものを、癌胎児性物質(抗原)と呼んでいます。日常、比較的よく利用している腫瘍マーカーは、結腸癌、その他の癌のスクリーニングや経過観察に用いられるCEA(癌胎児性抗原)、肝細胞癌の指標にされるAFP(アルファー胎児蛋白)やPIVKA-II、膵癌や胆道系の癌のCA19-9やCA50、卵巣癌のCA125、肺癌のNSE(神経特異エノラーゼ)、CYFRA(サイトケラチン19フラグメント)、食道癌や子宮頸部癌のSCC(扁平上皮癌抗原)、前立腺癌のPSA(前立腺特異抗原)、乳癌のBCA225,CA15-3,NCC-ST-439、絨毛癌のhCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)などです。

データの見方
 現在のところ、癌の早期診断に役立つと同時に、特定の癌にのみ陽性になる腫瘍マーカーはほとんどありません。また、数値で表現する腫瘍マーカーの値は、陽性、陰性と判定する基準をどの値(カットオフ値)にするかが間題です。低い値に設定すれば、癌での陽性率(感度)は高くなりますが、癌以外で陰性になる率(特異度)は低くなります。逆に高い値に設定すれば感度は下がり、特異度は上がります。癌であるのに陽性にならない、癌でもないのに陽性になることがしばしばあります(図)。そこで日常診療では腫瘍マーカーだけでなく、他の臨床検査、症状や経過、診察所見、放射線検査などの所見を総合的にみて、癌の判定を行っております。