[ 専門医の検査のはなし 15 ] 2004.07.01

肝炎ウイルスにはどんなものがあるの?

日本臨床検査専門医会  影 岡 武 士


[要約]
 肝臓は人体内で最大の実質臓器で、成人は1200gほどの重さがあります。食用として目にする牛のレバーと同じように表面に光沢がある滑らかで淡褐色をした軟らかい臓器です。肝臓は幅広い働きをしていて、赤血球が壊れたときにできる成分をビリルビンとして便中に排泄し、アルブミンという蛋白や止血のための凝固因子を産生して血液に供給し、脂肪やアンモニアの代謝やその他の解毒作用にも重要な働きをしています。

 肝臓障害を起こすウイルス疾患は沢山知られていますが、特に肝臓を主体に攻撃し肝炎を起こすいわゆる「肝炎ウイルス」はA,B,C,D,Eの5種類のウイルスをさします。しかし1995年に発見されたG型肝炎ウイルスもその一つに加えられました。

 これらの肝炎ウイルスは伝播経路により糞口経路によるA,E型肝炎、主として血液を介して感染するB,C,D,G型肝炎に大別されます。これら肝炎ウイルスの症状は似通っているため身体症状だけでは鑑別が困難です。

[肝炎ウイルスの特徴]

A型肝炎

 糞口感染で非衛生的環境の地域に蔓延し、流行性肝炎で慢性化やキャリヤーはありません。特異的な治療法はありませんが、不活化ワクチンが予防として使用できます。

B型肝炎
 世界で3億5000万人以上のキャリヤーが存在し、その4分の3が東南アジアやアフリカに集中しています。ヒトからヒトヘ感染し、主として血液を介しますが、性的交渉や母子感染もあります。感染後の経過は大部分は一過性の急性肝炎で終焉しますが、一部はキャリヤーから慢性肝炎、肝癌の発生にいたることもあります。輸血用血液のスクリーニングが厳密に実施されてからは感染者が激減しています。

C型肝炎
 日常的な接触では感染せず、輸血や麻薬注射が主たる伝播経路です。C型肝炎の特徴は高率に持続感染が成立し、慢性肝炎から肝硬変、肝癌まで数十年の経過で進展することです。1989年にC型肝炎ウイルスが発見されてから、スクリーニング法の確立で新規感染者は減少しています。インターフェロンによる治療も一部有効です。スクリーニング検査が献血に導入される以前の感染者があり、治療或いは経過を医療機関でチェックしています。検査法としては、ウイルスの抗体や蛋白或いはRNAを測定しています。

D型肝炎
 D型肝炎ウイルスはB型肝炎ウイルスの感染がある場合に感染が成立します。世界で1000万人以上の感染者がいるとされています。B型肝炎ウイルス単独キャリヤーに比べ数倍も高率に慢性化し肝硬変に移行します。

E 型肝炎
 経口感染により、しばしば貝類の摂食で流行します。大流行はインドで1955年に起こりました。最近は家畜からもウイルスが検出され人畜共通感染症として注目されています。

G型肝炎
 1995年に発見された新しいウイルスですがC型肝炎との重複感染や劇症肝炎の発生が注目されています。しかし、詳細は未解明のままです。