[ 専門医の検査のはなし 10] 2004.02.01

血液中の酵素を調べると何が分かるの?

日本臨床検査専門医会  清 島 満


 血液中にはさまざまな酵素が存在していますが、その多くは細胞の中の酵素が血中に流出したものです。体内の細胞は普段でも少しずつ壊れて新しい細胞に置き換わっていますので、健康で異常のない時でも酵素活性が少し認められます。ところが例えばある臓器が炎症などで急激なダメージを受けますと、多くの細胞が壊れ、酵素が大量に血中に出てくることになります。こういうものを特に逸脱酵素といっています。また癌においてもそれが増大していく過程で多くの癌細胞が壊れますので、中に含まれている酵素がやはり血中に現れます。
 例えば急性ウイルス性肝炎の場合、ウイルスの攻撃で急激に多くの肝細胞が壊れますので、その中に含まれていたASTやALTという酵素が大量に逸脱し、血中での活性が高くなリます。つまり普段は10〜40IU/lぐらいの数字が1,000IU/lを超えたりします。一方、慢性肝炎では細胞の壊れ方がゆるやかなので、数字としては急性肝炎よりは低くなります。そしてさらに病態が進行して肝硬変になりますと、新たに壊れる肝細胞はもっと少なくなりますので、数字も健常者と変わらないことがあります。しかし肝硬変の場合は肝細胞で合成されるchEという酵素やアルブミンという蛋白が血中で低くなりますので健常者との鑑別は容易です。
 そのほか、疾患と酵素で関係の深いものをあげると、アルコール性肝障害のγ-GT、閉塞性黄疸のALP、LAP、γ-GT、急性膵炎のアミラーゼとリパーゼ、心筋梗塞や筋疾患のCKやLDがよく知られています。また溶血性貧血などのように血管内で赤血球が壊れるような病態でも血中LDは高くなります。そしてそれは採血後の採血管の不適当な取り扱いでも溶血が生じますので、検査をする側としては注意しなければなりません。

 上記以外の疾患で増加する特殊な酵素もありますが、要するに細胞の種類によって多く含んでいる酵素が違うため、その値によって障害の部位と程度の推測がある程度可能となるわけです。しかし数値が基準値から少しだけはずれているような場合、その解釈は難しいことがあります。すなわちその人にとっては正常である可能性もあるわけで、そういう意昧でも毎年健診を受けたりして自分の普段の値というものを、医師に知っておいてもらうことが重要です。いずれにしましても医師はこれら酵素の数値だけではなく、患者さんの体の所見や訴えから総合的に診断しますので、数値に関して疑問が.あれば医師に直接ご相談されるのがいいでしよう。