[ 専門医の検査のはなし 6 ] 2003.10.01

貧血の判定はどうするの?

日本臨床検査専門医会  鈴 木 美 登 利


 「貧血」の指摘を受けたことのある方は多いのではないでしょうか?「貧血」という言葉は非常に一般的で、誰でも知っている言葉のひとつと思われますが、正しく理解をしている人は案外少ないようです。貧血とは、赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値が基準の値よりも低下している状態を総称したものと定義されています。血液の中には赤血球という細胞が存在し、その形は円板状で、中にヘモグロビンという物質が含まれているために赤色を呈しており、体内の組織へ酸素を運搬することを担っています。よって貧血の代表的な症状は動作時の息切れ、動悸、疲労感などです。
 またその赤血球数の恒常性は、骨髄で造血される産生と、寿命によって壊される崩壊のバランスによって保たれています。そして造血に必要な物質は鉄、造血ビタミン、エリスロポエチン等様々な物質が必要です。ヘマトクリットというのは、血液を遠心し、沈降した赤血球との容積を比 (%)で表したものです。
 以上のような赤血球数、ヘモグロビン濃度、ヘマトクリット値を赤血球の検査として行い、これらの数値が基準値より減少していると貧血と判断されます。しかし基準値より僅かに減少しているだけでは異常と決められません。それぞれに異常値の目安があり、男女で異なります。男女各々について、赤血球数は400万/mm3、300万/mm3以下、ヘモグロビン濃度は13g/dl、10g/dl以下、ヘマトクリット値は40%、35%以下が異常値の目安となリます。さらにこの3つの数値から、平均赤血球容積 (MCV)、平均赤血球ヘモグロビン量 (MCH)、平均赤血球ヘモグロビン濃度 (MCHC)の3種類の赤血球恒数といわれるものを算出し、赤血球の形態による貧血の分類を行います。それによって3つのタイプ、小球性低色素性貧血(MCV≦80, MCHC≦30)、正球性正色素性貧血(MCV=81〜100、MCHC=31〜35)、大球性正色素性貧血(MCV≧101、MCHC=31〜35)となります。ですから基本的には最初の3つの検査値から貧血の有無をみて、3つの計算値から3つのタイプの形態による貧血として分類します。異常値の目安以下となった場合には、例えば小球性低色素性貧血で最も一般的な貧血は鉄欠乏性貧血といわれるものですが、鉄に関する検査を行い、原因の検索をし、治療の準備を行います。これら以外にもそれぞれのタイプに様々な原因による貧血がありますから、それらの貧血の診断は、赤血球の検査以外の検査を用いて行います。