[ 専門医の検査のはなし 5 ] 2003.09.01

尿検査の判定はどうして分かるの?

日本臨床検査専門医会  西 園 寺 克


 糖尿病の診断・検査には、自覚症状と尿検査、血糖検査が必要です。
 糖尿病の人では一度尿糖が陽性になって、食事制限などで、尿糖が陰性だと糖尿病が治ったという誤解 (都合のよい解釈)をする事があります。
 インスリンの自己注射をしている人では自己血糖測定用の簡易測定器を健康保険の自己負担分で購入可能です。インスリンを注射していない人では自己負担となります。ですから、糖尿病の自己管理のためには、手軽な試験紙を使った尿糖検査が重要です。
 自己血糖を測定している人でも血中のケトン体の測定をできる機器は一部の機器に限られるので、尿中ケトンの測定は大切です。

◆糖尿病では食後の高血糖の確認が必要な理由
 糖尿病の診断には、空腹時血糖が重要です。空腹時の血糖が低くても食後の血糖値が高い人は、冠状動脈疾患 (心筋梗塞など)による死亡率が高いことがわかってきました。
 合併症の発現や進行を防止するためには、食後の急激な高血糖を抑えることが重要です。そのために食後の高血糖を調べる事が大切です。
 食事をした後は消化・吸収に伴い、血糖が上昇します。血糖 (ブドウ糖)は腎臓の糸球体でほぼ100%原尿へ濾過されます。原尿中のブドウ糖は、近位尿細管でほぼ100%再吸収されて血液中に戻ります。再吸収する力は個体差がありますが、血糖値が170mg/dl以上になると再吸収できずに尿糖が陽性となります。

◆食後の高血糖の確認にはいつ尿糖検査をしたら良いでしょうか?
 消化と吸収の時間を考慮すると、尿糖が一番高くなる食後2〜3時間の尿を検査しましょう。

◆糖尿病の人ではケトン体の検査も必要
 インスリンの作用は量と細胞の受容体の関係で決まります。作用不足の時には、糖分をエネルギー源としてうまく利用できません。
 生体は脂肪を分解して必要な生物エネルギー (ATP)を得ようとします。脂肪の分解の過程で生じたケトン体の血中濃度が上昇します。ケトン体はエネルギー源としてある程度利用可能ですが、あまった分は尿中へ排泄されます。
 ケトン体の濃度の上昇 (ケトーシス)に伴い、血液が酸性化するとケトアシドーシス状態になります。尿糖は強陽性で尿中ケトン体も強陽性となります。危険な状態なので早く発見しなくてはいけません。
 食事制限や過度なダイエットコントロールをすると、エネルギー源として脂肪を使う事になります。血中ケトン体の上昇に伴ない尿ケトン体が陽性になります。ただし、この場合に尿糖は陰性です。

◆糖尿病の人はどんな時に尿ケトン体検査をすべきでしょうか?
 1. インスリン治療の中断時
 2. 食欲がなく、体調不良な時
 3. 腹痛、嘔吐などの消化器症状があり、食事が取れない時
 4. 過度なダイエットコントロールをした時
 5. 急激に体重が減少した時
 6. インフルエンザなどで発熱が続いた時
 ケトーシスやケトアシドーシスが進行すると意識障害から昏睡に至り、非常に危険です。尿ケトン体が陽性のときは、できるだけ早くかかりつけ医を受診しましょう。