[ 検査結果でわかること 24 ]

梅毒血清検査で異常があるといわれたら

日本臨床検査専門医会 〆谷 直人



2003.03.01

梅毒とはTP(Treponema pallidum)という病原体(スピロヘータ)の感染により、皮膚や粘膜のみならず、全身の臓器や組織が冒され、さらに胎児にも障害を及ぼす感染症です。
 梅毒を診断するには、病原体を検出する検査のほかに、血清中の病原体に対して産生される抗体を調べる免疫血清検査があり、一般には後者の抗体検査が用いられています。
 TPの感染によって産生される抗体は、まず脂質抗原に対する自己抗体が4〜6週以降に血中に出現し、それより遅れて梅毒罹患約3ヵ月後にTPに特異的に反応する免疫抗体が認められるようになります。したがって、このような2種類の抗体を検出するために、梅毒の血清診断の検査は二つに分類されます。


◇梅毒血清検査
 脂質抗原 (カルジオライピンーレシチン抗原)を用いる方法はSTSとよばれ、ガラス板法、凝集法、RPRカード法などがあり、抗体がなければ陰性、抗体があれば陽性と判定されます。STSは、TP抗体を検出する方法に比べて早い時期に陽性となるため早期診断に適しており、また抗体価は臨床経過をよく反映して昇降するため治療効果の判定にも適しています。しかし、病原とは直接関係ない脂質を抗原としているため生物学的偽陽性反応を呈し、梅毒以外の感染症や膠原病、妊婦や免疫状態が低下している高齢者で陽性となることがしばしば認められます。
 そこで梅毒の確定診断にはTPを抗原としたTPHA法(梅毒血球凝集反応)とFTA-ABS法(梅毒蛍光抗体吸収法)が用いられます。とくにTPHAは手技が容易で、梅毒の血清診断法として最も有用とされています。しかし、感染後3ヵ月以降に陽性を示すことで早期診断には適しておらず、しかも一度陽性となると治療と経過にかかわらず陽性が持続するため治療効果や治癒の判定には使用できません。


◇検査結果の読み方と対応の仕方
 日常の梅毒の検査では非特異的なSTSの2〜3法と特異的なTP抗原を使用する血清反応(主にTPHA)とを組み合わせて実施しています。
◆STS陰性・.TPHA陰性: 既往歴や臨床所見に異常がないときには梅毒は否定されます。しかし、感染の初期には両者ともに陰性になるため、疑わしい場合には数週間おいて再検査を行う必要があります。

◆STS陽性・TPHA陰性: 生物学的偽陽性反応か梅毒の初期が考えられます。この場合にはFTA-ABSを行い、陽性であれば梅毒を考え、陰性であれば後日再検査を行います。再検査でもSTSのみ陽性の場合は、脂質抗原に対する自己抗体が見出されたと考えます。

◆STS陽性・TPHA陽性: 梅毒が考えられ、ペニシリン系の抗生剤などで治療を開始します。また、新生児では先天性梅毒の可能性が考えられ、子宮内感染を明らかにするための検査を行います。

◆STS陰性・TPHA陽性: 一般に梅毒感染の既往があったことを示します。梅毒の治療中、あるいは治癒後に認められます。