[ 検査結果でわかること 23 ]

呼気テストで異常があるといわれたら

日本臨床検査専門医会 町田 勝彦



2003.02.01

 13C-尿素呼気テスト(13C-Urea Breath Test: 13C-UBT)は、13C-尿素を服用して、呼気中に排泄される13CO2を検出するものであります。胃内にHelicobacter pyloriが存在すると、13C-尿素は、その菌が時つ高いウレアーゼ活性により13CO2とアンモニア(NH4)に分解され、 この13CO2はH13CO2-の状態で消化管により吸収され血中を経て、肺より13CO2として呼気中に排泄されます。そこで呼気中に含まれるCO2中の13CO2濃度を13C-尿素服用前後の変化量(以下Δ13C)として測定することにより、H.pylori感染の有無を判定する方法です。判定基準は13C-尿素100mg服用後20分時点でΔ13C:2.5%以上を示した場合をH.pylori陽性と判定します。

 ヒトはウレアーゼを持たないのでこの反応はH.pyloriに比較的特異性の高い反応です。上部腹部症状保有者のうちで呼気テストにて高い値が得られた場合には、胃X線透視検査や内視鏡検査を行って、 H.pylori除菌適応疾患であるかどうかの確認を行います。

 日本ヘリコバクター学会が提唱しているガイドラインによれば、 H.pylori除菌治療の適応疾患として次の三種類に分類しています*(1)

 (A) H.pylori除菌治療が勧められる疾患として胃潰瘍と十二指腸潰瘍があります。しかし非ステロイド性抗炎症薬服用者の潰瘍について除菌効果有効性の判定が分かれているようです。

 (B) 専門施設でのH.pylori除菌治療が勧められる疾患として低悪性度胃MALT(mucosa-associated lymphoid tissue)リンパ腫があります。この疾患は、除菌によって50〜80%の症例で病理組織学的並びに内視鏡的改善がみとめられ、さらに腫瘍の退縮がみられたとの報告もあります* (2,3)

 (C) H.pylori除菌治療の意義が検討中の疾患として胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後胃および胃癌術後残胃、過形成性ポリープ、慢性萎縮性胃炎、Non-ulcer Dyspepsia (NUD)などです。

 なお、日本の若年者胃癌に開する疫学的データより、四十歳未満のH.pylori陽性者も(A)に含まれると考えられますが、信頼性の高い介入試験の成績はまだ報告されておらず、実際に除菌治療をおこなうかどうかを考えた場合、(C)のカテゴリーにおかれることになっています。またヒト由来H.pylori分離株をスナネズミの胃に内服させて胃癌を誘発したとの報告* (4) がありましたが、ヒトの胃癌発生との関連性については未だに因果関係は不明であって今後解明される課題となっています。

 13C-尿素呼気テスト(13C-UBT)以外のH.pylori感染診断法には、培養、鏡検、迅速ウレアーゼ試験(RUT)、抗体法などがありますが、いずれかを診断に用いることがガイドラインに記載されていますが、除菌前診断と除菌後診断に用る方法は同一にしなければなりません。除菌前診断で偽陽性となることは比較的少ないのですが、検査が陰性の場合には、サンプリングエラーの可能性もあるので、不都合が生じた際には再検査をおこなうか、ほかの検査方法を追加する必要があります。ただし、抗体法はスクリーニングには最適な方法であるが、キット間において精度にかなりのばらつきがあるためにその診断には注意が必要となります。除菌治療法にはランソプラゾールまたはオメプラゾール、アモキシシリン、クラリスロマイシンの3剤を同時に1日2回、7日間経口投与が行われています。しかし薬剤耐性菌の出現も増加傾向にあるために注意が必要です。


(参考文献)
1) 日本ヘリコバクター学会ガイドライン作成委員会: H.pylori感染の診断と治療のガイドライン Helicobacter Research 先端医学社.4(5).444-454. 2000.
2) Lancet342: 575-577. 1933.
3)J.Clin.Gastroentero 1. 21:118-122. 1995.
4) Gastroenterology115: 642-648. 1998.