[ 検査結果でわかること 20 ]

尿糖が陰性でも糖尿病なのですか?

日本臨床検査医会 富永 真琴



2002.11.01

 糖尿病と尿糖は言葉をひっくり返しただけなので、尿糖が出ることが糖尿病の特徴のように思われており、これが誤解の元になっています。尿糖が陰性でも糖尿病であることはいくらでもありえます。

 では、そもそも糖尿病の特徴は何でしょうか。現在では慢性の高血糖がその最大の特徴であると考えられています。

 なぜなら、糖尿病に典型的だとされる口が乾くとか尿の量や回数が多いとか全身がだるいとかの症状はなくても、たとえ尿糖が陰性でも、慢性の高血糖が持続すると糖尿病に特有の網膜症、腎症などの合併症や、糖尿病に必ずしも特徴的ではありませんが、心筋梗塞や脳卒中という動脈硬化症に関連する疾患を生じるリスクが高いことが知られているからです。

 高血糖と尿糖の関係について説明しましょう。腎臓は体内にたまった老廃物質を尿として体外に排泄している大切な臓器です。腎臓が体外に排出しなければならない物質は尿毒症物質とも呼ばれ、物質としては低分子量です。ブドウ糖も低分予量物質ですが、人の生命を維持するのに必要です。このように同じ低分子量物質でも生命にとって必要であり排泄してはいけないものと体外に排泄すべきものを腎臓は極めて巧妙に区別しています。腎臓はろ過する部分(糸球体)と再吸収する部分(尿細管)に分けられます。糸球体では必要な成分も不必要な成分も全て尿中に排泄し、その後、尿細管でブドウ糖など必要なもののみを再吸収します。こうして不必要な成分だけが尿中に排泄されます。このことをイラストで示しました。通常の血糖値ならブドウ糖はほとんどが再吸収されます。ところが、血糖値が高くなると、再吸収が追いつかなくなり尿中に糖が出現することになります。つまり、尿糖が出現するのは高血糖の結果に過ぎないのです。

 通常、尿糖が現われる血糖値は170mg/dl前後といわれており、一方、糖尿病と診断されるブドウ糖負荷試験の2時間血糖値は200mg/dlなので、尿糖が陽性であることは糖尿病が疑われる根拠になるのは事実です。しかし、尿糖の出現には個人差が大きく、尿糖が陰性でも、慢性的に高血糖である人はいくらもいます。事実、私たちが山形県舟形町で糖尿病検診を行った成績では、慢性の糖尿病を診断された方で尿糖が陰性であったのは30%以上にものぼりました。

 たとえ、尿糖が陰性でも高血糖であれば糖尿病と診断されることを良く理解して頂きたいと思います。