[ 検査結果でわかること 19 ]

カルシウムが高い時

日本臨床検査医会 影岡 武士



2002.10.01

 血液中(血中)カルシウムの調節
 体内のカルシウムの99%は骨(歯牙含め)に含まれていて、血中にはわずか0.1%にしか過ぎませんが、この血中カルシウム濃度は狭い範囲に精密に調節されているものの代表です。血中カルシウムの調節は、骨を巨大な貯蔵タンクとして、カルシウムの出し入れに関わる主たるホルモンの副甲状腺ホルモン及び活性型ビタミンDなどで行われています。

 血中カルシウムが高くなる原因高
 カルシウム血症となる原因の大半は、原発性副甲状腺機能亢進症によるものと悪性腫瘍に伴う場合があります。悪性腫瘍が原因の場合には、腫瘍から分泌されるホルモン様物質の作用で骨から溶け出すカルシウムが多くなり、あるいは骨に転移した腫瘍が骨を侵食することにより骨から血液に押し出されて血中カルシウムが高くなります。副甲状腺ホルモンはPTHともよばれ、甲状腺の裏についている四個の米粒大の内分泌腺から分泌され、その作用で骨から血液にカルシウムを溶出させます。副甲状腺の腫瘍などによりPTHの分泌が過剰になると、骨がもろくなったり血中のカルシウムが大量に尿に排出されて尿路結石ができたりします。ただ、高カルシウム血症の症状は目立たないので尿路結石を繰り返すような場合には、血中カルシウムやPTHを測ることでようやく診断ができることもあります。その他、甲状腺機能亢進症や褐色細胞種などの内分泌疾患やビタミンA、ビタミンDの過剰摂取、急性腎不全などでも血中カルシウム値が高くなります。
 一方、カルシウムと同様に生体にとって重要な電解質としてリンがあります。このリンの大部分は人体細胞の構成成分あるいはエネルギー産生成分として存在しますが、血中の無機リンは血中カルシウム濃度により左右され、ほぼ拮抗関係にあります。例えば、PTHにより血中カルシウムが高くなると血中のリンの値は低くなり低リン血症となります。逆に慢性腎不全などで腎臓からのリンの排泄が障害され血中にリンがたまってくると、血中カルシウムは低くなってきます。

 高カルシウム血症の症状
 細胞内のカルシウムの重要な働きとして、ホルモンや神経刺激などの情報を細胞の中に伝播し、細胞を活性化する作用があります。しかし、過剰のカルシウムは逆に中枢神経系、循環器系など全身臓器に重大な影響を及ぼすことになります。高度の高カルシウム血症になると多尿となりこれによる口渇感、多尿が見られます。また、精神症状ではイライラ感がつのり更にうつらうつらする状態から眠りこけるまでになり、そのまま放置されますと死に至ることもあります。特に、悪性腫瘍が原因で起こる急速な高カルシウム血症の場合には、症状も早期に現れます。

 カルシウムパラドックス

 カルシウムの摂取不足からカルシウム欠乏になると、そのことが副甲状腺を刺激しPTHを過剰に分泌させ、骨という巨大なカルシウムプールから血液中にカルシウムを余分に押し出し、余ったカルシウムが脳や動脈に沈着します。これをカルシウムパラドックスといい、それにより生活習慣病である高血圧や動脈硬化および神経系の疾患が生じます。わが国でのカルシウム摂取量は欧米に比べきわめて低く一日600mgにも満たないので、カルシウムを豊富に含む食品(牛乳や乳製品、小魚や海藻類、大豆)をしっかり摂り、健康な骨と体を維持しましょう。