2001.11.1

 まず血清とは何でしょうか? 赤血球などの細胞成分と、血液が固まるときに使われるフイブリノゲンなどの凝固因子といわれる蛋白が、血液から除かれた部分が血清です。血液全体に対して体積にして半分程度の液体です。この血清中に含まれる各種の蛋白すべてを合わせたものの濃度が総蛋白 (Total protein. TP) で健康な人では6.5〜8.2g/dl (平均7 g/dl) の範囲にあります。すなわち重さでいえば血清の7%ほど含まれる成分ということになります。
 血清蛋白濃度が低くなる原因としては、低栄養、体外への喪失(ネフローゼ症候群、蛋白漏出性胃腸症)、肝臓での合成低下のほか、血液が希釈されて水分過多となり相対的に蛋白が減る場合などがあります。たとえば入院中、ベッドに寝た状態で採血された場合は、血液が希釈されて一割ほど低く測定されるので、外来での値とはずいぶんと異なることもあります。一方高くなる原因としては、相対的に水分が減る場合(脱水)か、グロブリンが増える場合(感染症、骨髄腫など)が考えられます。
 過激なダイエットや拒食症では材料不足のため血清蛋白が減少するほどの低栄養状態になってしまいます。血清蛋白の多くが肝臓で作られるため、肝臓の働きを大まかに知る手がかりにもなります。
 血清蛋白の減少の原因を知るための第一歩は、アルブミンの測定です。 アルブミンは血清蛋白のなかで6〜7割を占めるほど最も多量に存在する蛋白なので、この減少が総蛋白の減少に結びつくことが多いのです。
 ネフローゼ症候群では主にアルブミンが尿に失われて行きます。腎臓に多数存在する糸球体というフィルターの異常のため、分子量が大きく通常は漏れ出ない蛋白が通り抜けてしまいます。このとき血清濃度が最も減ってしまうのは蛋白の中でも比較的サイズの小さいアルブミンです。
 血清の総蛋白からアルブミンを除いた部分がグロブリンです。肝硬変ではアルブミンの合成が減る一方で、グロブリンが増えるために総蛋白の減少がみられないことがあります。
 アルブミンが増える病気はないとも言われていますが、脂肪肝では軽度に増加して総蛋白が8g/dlを超えることもあるようです。健康診断で脂肪肝と判定される方は少なくありません。肥満やアルコールの飲み過ぎが改善されれば蛋白も正常化するでしょう。
 血清蛋白の増加は多くの場合、グロブリンの増加によって起こります。感染症や自己免疫疾患では炎症が各種のグロブリンの増加を引き起こします。多発性骨髄腫などの腫瘍性疾患では、増殖した腫瘍細胞がM蛋白とよばれるただ一種類の免疫グロブリンを産生し、総蛋白が10 g/dlを超えることもあります。M蛋白には良性で全く無症状のものもありますが、一部は悪性化するため経過観察が必要とされています。
 このように血清蛋白の減少増加はさまざまな原因で生じ、自他覚症状もそれらに応じて多彩です。正確な診断を得るためには、他の臨床検査項目と組み合わせて判定したり、グロブリンの細かい分類を行う検査(血清蛋白分画)や免疫グロブリンの定量検査が必要になります。いずれにしても何らかの病気の発見の糸口にもなりますので、減少や増加を指摘されたときには担当医にお尋ねになることをお勧めします。