2001.6.1

 高齢化と食習慣の欧米化により我が国でも前立腺癌が増加しています。前立腺はクルミ大の大きさで、膀胱底部で尿道を取り巻くようにして存在しています。この前立腺に発生する悪性腫瘍が前立腺癌です。トイレに行ってもなかなかおしっこが出ないとか、おしっこの勢いがないなどと訴えます。また、膀胱におしっこが残っているように感じてたびたびトイレに行くようになり、さらに進行するとおしっこをするときの痛みや血尿も発症します。

前立腺の腫瘍マーカー
 前立腺癌の腫瘍マーカーとして日常的に測定されているのがPSA(Prostate specific antigen、前立腺特異抗原)です。PSAは主に前立腺上皮細胞で生成され、前立腺液として精液中に分泌され、精液の凝固を阻止して、精子が自由に動き回れるようにして、受精を助ける役目をしています。前立腺癌ではこのPSAが異常に産生されたり、前立腺組織が腫瘍細胞により破壊されて血中にPSAが出てくるため血中濃度が上昇します。

PSAが高値の時
 前立腺癌ではPSAが高値となりますが、前立腺肥大症でも高値となりますので、鑑別が必要です。特にグレーゾーンと呼ばれる軽微な上昇(PSA濃度として4〜10ng/ml)の場合には、前立腺癌か前立腺肥大症かを鑑別する必要があります。症状はほとんど同じですから、症状からは鑑別できません。そのため、泌尿器科で直腸内指診や超音波検査、さらには組織検査を行うのが一般的な診断手順です。この際PSAに関連した指標を工夫して診断的価値を高めています。
一つは定期的な測定による前回値からの上昇率です。前回値からの上昇率が小さければ癌ではなく、肥大症の可能性が大きくなります。次にPSA密度です。これは直腸内指診や超音波検査で前立腺の大きさを測定し、前立腺1mlあたりのPSA濃度を算定したものです。もう一つはタンパク結合型の比率です。PSAは血中では一定の割合で蛋白と結合しています。前立腺癌では癌組織がこの結合蛋白を産生しますので、結合型の比率が上昇します。一方、前立腺肥大症では結合蛋白は産生されませんので、結合型の比率は低値です。
 PSA測定は唯一スクリーニング検査が適応されている(老人保健)腫瘍マーカーです。このため、一般医(開業医)で一次検診を行い、組織診をはじめとする精密検査を泌尿器科専門外来で行うことができるようになりました。このシステムでは大規模な検診が可能で、さらにPSA関連指標を有効利用することで、 グレーゾーンでの診断効果が高まり、無用な検査を行わず、患者さんの負担を軽くすることも可能になりました。