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◆赤血球恒数の生理的変動の許容範囲について
Q)赤血球恒数の生理的変動の許容範囲はどの程度でしょうか。教えて下さい。(神奈川県臨床検技師経査験10年)

(A) 生体の生理学的要因(性、年齢、食事内容、運動、飲酒など)により生ずる赤血球恒数(平均赤血球容積、平均赤血球ヘモグロビン量、平均赤血球ヘモグロビン濃度)の 変動の許容範囲に関して、参考文献などを検索しましたが、該当するものがありませんでした。ただ、私見ですが、健診において個人の検査データを時系列で確認したところ 赤血球恒数の変動はほとんど認めず、有意と思われる差を認めたとしても、それは病態による変動でした。よって生理的変動の許容範囲を設定するのは困難で臨床的に 有益ではないように思えます。
〔2006年2月3日 獨協医科大学越谷病院臨床検査部 鳥山満、森三樹雄〕

◆血液ガス(ヘパリン採血)用の検体の血算検査への転用
(Q)当院では夜間救急外来の検査時に、血液ガス(ヘパリン採血)用の検体で血液ガスを測定し、残った検体で血算・生化学検査を行っているようです。 本来が病理医でありよくわからないのですが、教科書的には血算ではEDTA採血検体を利用し、ヘパリン採血検体は適切ではないように思いますがいかがでしょうか。 このまま続けさせてよいものかわからずにいます。(大阪府 病理医 経験15年)

(A)血液ガス検査検体の血算検査への転用についてEDTA塩は、赤血球や血小板の膜を保護する作用があり、白血球の傷害も少ないことから、抗凝固剤として血球算定検査 (血算検査)に使用されています。一方、ヘパリンは、赤血球に対する影響はほとんど認めませんが、白血球を変形させることや凝集させやすい性質があるといわれております。 特に白血球凝集に関しては、時間の経過とともに凝集が大きくなる傾向を示す報告例があり、偽白血球減少の一因になります。また、血小板においても採血直後から凝集を認める 血液が一部の検体に存在するといわれており、その原因の一つとして、採血後のシリンジ内に空気が存在する場合が報告されております。血小板の凝集は偽血小板減少のみならず、 赤血球数や白血球数が偽高値を示すことがありますので注意が必要です。以上の理由により、ヘパリンによる血算検査は不適切であるので中止し、EDTAを用いた血液を使用する ことが望ましいと考えられます。
【参考文献】
1)古沢新平 他:新臨床検査技師講座 10 血液学,1983,医学書院
2)三輪史郎 他:諸種抗凝固剤の血算値に及ぼす影響. 臨床病理 5 376-380,1967
3)嶋崎明美 他:ヘパリン採血における混和による血小板凝集 38(4) 323-330,1997
〔2006年1月20日 獨協医科大学越谷病院臨床検査部 鳥山満、森三樹雄〕

◆間接抗グロブリン法での血球洗浄操作不要について
(Q)輸血検査におけるゲルカラム法にて「間接抗グロブリン法での血球洗浄操作不要」とありますがなぜ不要なのか原理を教えていただきたいのですが (大分県 臨床検査技師 経験3年)

(A)試験管法における間接抗グロブリン法での洗浄操作の目的は,血球に結合しなかった血清あるいは血漿中の免疫グロブリン成分を取り除くことです。これは,クームス血清が中和されて偽陰性と判定されてしまうことを防ぐためです。通常,生食で3回程度洗浄操作を行い,血清あるいは血漿中の未反応の免疫グロブリン成分を除去します。
 一方,ゲルやガラスビーズを用いたゲルカラム凝集法あるいはビーズカラム凝集法では,比重勾配分離法によって洗浄操作を不要としています。比重勾配分離法は,ゲルカラム凝集法あるいはビーズカラム凝集法でも原理は同様であり,一般的な方法として説明致します。
 カラムの中は抗グロブリン血清溶液で充填されていますが,その比重は血清と血球の中間付近(中間比重)に調製されています。判定する場合、緩やかな遠心を行うことにより抗グロブリン血清と血球・血清・LISS液の混合溶液を重層します。更なる遠心過程において血球成分は重層された比重の異なる2液の界面の下に沈み,未結合の免疫グロブリンを含む血清成分は界面の上層部に分離されるため抗グロブリン血清溶液中に入り込むことができません。試験管法での洗浄操作と同様な効果が得られるわけです。これが比重勾配分離法といわれる原理です。
 比重勾配分離法の注意点は,メーカーが指定する適切な遠心力(g)で遠心を行うこと,指定されたLISS溶液以外を使用しないこと,血漿蛋白異常や血球比重の軽い貧血患者などで比重のバランスが崩れることによる異常反応などです。
【参考文献】
1) K. J. Reis et al.: Column agglutination technology: the antiglobulin test, Transfusion, 1993, 33, 639-643
2) Ortho-Clinical Diagnostics Inc.: Scientific monographs, 1993, Volume 1, October,
3) 小黒博之:ゲルカラム凝集法を用いた輸血検査の自動化.検査と技術 32.1439-1446, 2004.
〔2005年1月11日 獨協医科大学越谷病院臨床検査部 森 三樹雄、柴崎 光衛〕

◆尿沈渣における卵円形脂肪体と脂肪顆粒細胞の違いについて
(Q)尿沈渣における卵円形脂肪体と脂肪顆粒細胞の違いについて教えて下さい (大分県 臨床検査技師 経験22年)

(A)日本臨床検査標準協議会JCCLSによる尿沈渣検査法指針提案GP1-P3、(2000)によると卵円形脂肪体(oval fat body)とは以下のように記載されている。
「尿細管上皮細胞由来の脂肪顆粒細胞を特に卵円形脂肪体として区別している。本細胞はとくに重症ネフローゼ症候群患者尿に高率に認められ、有用な検査情報の一つに含まれている。ほかに重篤な糖尿病性腎症、Fabry病、Alport 症候群などの患者尿にも出現する。」
 つまり脂肪顆粒を多く有する細胞(脂肪顆粒細胞)の中で尿細管上皮細胞由来と判断されるものを卵円形脂肪体としているわけだが、実際は形態学的所見では尿細管上皮細胞由来と判断できない場合も多い。一般的には尿蛋白陽性例について卵円形脂肪体としているものと思われる。
 現在の尿沈渣検査法指針提案GP1-P3では脂肪顆粒細胞という分類はない。尿細管上皮細胞由来と判断できるものが卵円形脂肪体で、判断できない場合は分類不能細胞ということになる。ただ分類不能細胞というだけではどのような細胞であるのか情報として伝えることはできないので、必ずその成分についてのコメントを付記する必要がある。そこで脂肪顆粒を多く有する分類不能細胞については、そのコメントとして「脂肪顆粒細胞」という用語を用いることがあると理解してほしい。
 しかしJCCLSの指針とは別に近年、卵円形脂肪体の由来について種々の意見が報告されている。1998年堀田ら(文献1)(文献2)はモノクローナル抗体を用いて卵円形脂肪体様成分(組織学的な由来の不明な脂肪顆粒を伴った尿中成分)を染色し検討した結果、上皮細胞の形質を示さないで大食細胞(マクロファージ)の形質を有するものがあると報告した。2000年川辺ら(文献3)も同様の検討を行い孤立散在性に出現している卵円形脂肪体様成分はCD68陽性、サイトケラチン陰性、EMA陰性所見よりこれらは大食細胞の形質を有すると報告した。一方、細胞集団として出現した卵円形脂肪体様成分はCD68陰性、サイトケラチン陽性所見よりこれらは上皮細胞の形質を有するとも報告し、起源には大食細胞と尿細管上皮細胞の2通りがあるとした。現在、これらの報告も含めて日本臨床検査標準協議会JCCLS尿沈渣検査法検討委員会では、GP1-P3の改訂作業を進めており、今後卵円形脂肪体の取り扱い指針に変更があることも予想される。
(文献4)
1)堀田 修 :尿中脂肪球および卵円形脂肪体の鑑別法と臨床的意義、検査と技術 26:441-446.1998
2)堀田 修、北村 洋:尿沈渣成分の卵円形脂肪体と粘液糸、検査と技術 26: 704-707.1998
3)川辺明昭 他:卵円形脂肪体の細胞起源と出現機序 第1報、第2報、医学検査 49:1282-1292.2000
4)油野友二、伊藤機一:我が国における尿沈渣検査の現状と課題-卵円形脂肪体の意義と鑑別時のも問題点-、Nephrology Frontier 3:300-303,2004
〔2004年8月4日 神奈川県立保健福祉大学 伊藤 機一, 金沢赤十字病院 油野 友二〕

◆糖負荷試験の結果について
(Q)糖負荷試験の結果で1人の方が血糖前126、30分198、60分109、120分190 インスリンは前4.8、30分70.3、60分15.0、120分32.6でした。別の方で前95、30分153、60分97、120分144 インスリンは前1.3、30分41.4、60分8.1、120分14.8でした。どう解釈したらよいのでしょうか。教えて下さい。
また糖負荷試験における採血手技についてですが、左右上腕交互に採血をしておりますが問題ありますでしょうか。それぞれ何か文献のようなものあれば教えて下さい。(神奈川県 臨床検査技師 経験10年)

(A)1.質問は要するに血糖値が30分が高く,60分値が低下し120分値が再上昇するタイプをどのように解釈したらよいかということである。インスリン値も参考にすれば,その解釈は極めて単純に,30分で血糖上昇し速やかにインスリンが分泌されこれが効いて60分には血糖が低下しインスリンも低下するが,その後,腸管内からのグルコース吸収が続いていて血糖値が再上昇したものと思われる。
 そのような症例は存在しうると思うが,報告されたデータはない。そこで,山形大学医学部附属病院で平成15年7月1日〜平成16年6月30日までの1年間に行われたOGTTのデータを調べた。全症例(129例)の血糖値の平均からは60分が頂値であった質問の症例のような,30分値>60分値<120分値の条件を満たす症例は11例(8.5%)であった。決してまれではないようである。糖尿病の診断基準は前値と120分値しか問題にしていないので,それに従うのが正しいと思われる。
2.採血する上腕が右と左で差があるか,という質問であるが,理論的にも実際的にも差はない,と考えて差し支えないと思う。ちなみに,医学中央雑誌とPubMedを検索したが,そのような論文発表はなかった。
〔2004年8月4日 山形大学医学部臨床検査医学教授 富永真琴〕

◆クレアチニンクリアランスについて
(Q)腎機能を評価する際にクレアチニンクリアランスを用いますが、神経筋疾患などの患者では実際に評価しにくいと思われます。beta-2ミクログロブリンを用いた腎機能評価法もあると聞いたことがありますが、実際に神経筋疾患の患者の腎機能を把握する方法を教えてください。また、その方法がクレアチニンクリアランスへ換算できるかも含めて教えてください。(熊本県 医師)

(A)御存知のようにCrによるGFRの評価は、神経・筋疾患、高度の肝機能障害などでは腎前性の低下により、困難となります。そこで、御質問のように血清beta-2m値をGFR(Crクリアランス)に換算する方法が考えられます。私共の過去のデータではbeta-2mは、Cr clearance 60 l/day位から上昇が見られます。英語の論文ですが、御参考下さい。和文では、下条文武先生からの文献を調べて下さい。
 beta-2mは、炎症(ウイルス・細菌感染症)、膠原病、悪性腫瘍などで腎前性に増加する疾患が合併していると評価が出来なくなります。この意味から最も信頼性の高いマーカーは、保険に収載されていませんが、血清シスタチンCです。Crと異なり優れている点は、全身の臓器、細胞から産生され、1歳から50歳まで基準値が1ug/lと一定で、腎前性の影響を受けません。日本人のデータはまだ出ていませんが、最近GFRの換算式(iohexol)の論文がいくつか出されており、これを参考にフォローされてはいかがでしょうか(Scand J ClinLab Invest 2004;64:25-30)。測定は苫小牧臨床の伊藤さん(ito@tcl.ne.jp、私の共同開発者)、あるいはSRLなどでも既に導入しており、尋ねて見て下さい。
〔2004年5月24日 旭川医科大学臨床検査医学教授 伊藤喜久(認定番号172)〕

◆ヘモグロビンA1c(LA法)の低値傾向について
(Q)現在、ヘモグロビンA1cをLA法で測定しています。HPLC法で測定していたときに比べて、基準値より低値になる場合が高いです (特に集団検診の場合)。 また健常者でヘモグロビンA1c低値の場合はどのように解釈すればよいのでしょうか? (埼玉県 臨床検査技師 経験20年)

(A)
Q1:HPLC法とLA法の測定法の違いによるものなのでしょうか?低値になる原因を教えてください。
A1:日本においてヘモグロビンA1c(HbA1c)の標準化は達成されています。日本糖尿病学会「糖尿病関連検査の標準化に関する委員会」は、2001年3月に福祉・医療技術振興会(HECTEF)から有償で供給されている新しい標準物質Lot 2を認証しています。試薬・機器メーカーはこれに基づきキャリブレータを作成し、提供しており、日常検査ではLot 2の値が引き継がれておりHPLC法であれ免疫法であれ、測定値は変わりません。このことを確認する目的で、2002年11月に全国の775施設でサーベイを行いました。委員会報告は「糖尿病」に公表される予定ですが、その結果は表1に示すごとく、HPLCと免疫法の差はありませんでした。しかし、試料が異なるとHPLC>免疫法はあるかもしれません。アークレイ社のHPLC機器ではHA8150まで♯Cと彼らが呼んでいる分画も含んでHbA1cとしていました。キャリブレータを用いて測定値を合わせているとしても、♯Cに含まれるカルバミル化ヘモグロビンなどが増加している症例では免疫法と比べて乖離が生じるかもしれません。

Q2:健常者でヘモグロビンA1c低値の場合はどのように解釈すればよいのでしょうか?
A2:日本糖尿病学会では基準範囲を4.3%〜5.8%と提案しており、多くの施設で用いられています。4.3%は正常と思われる人々の平均-2S.D.の値であるが、これ以下の値では慢性低血糖(インスリノーマなど)、あるいは、糖代謝は正常でもHbA1cが乖離して低値傾向を示す疾患(肝硬変や溶血性貧血など)以外は臨床的意義はあまりないと考えられています。
(2003年8月1日 山形大学医学部臨床検査医学 富永 真琴)

◆ NAP染色 朝長法について
(Q)当検査室では、 NAP染色を朝長法で行っていますが、現在標本は原法どおり、耳朶血の直接塗抹標本を30分以内に固定し染色しています。正常対照にはEDTA加血を用いています。 EDTA加血では、陽性顆粒がやや不鮮明傾向となり陽性指数が低くなるということですが、当検査室での正常対照のEDTA加血標本は良好な染色性を得ています。診断用標本にEDTA加血を用いた場合その判定に影響がどの程度でるのか、お教え下さい。(採取後の時間依存性だけの問題であるのならば、 EDTA加血標本に変更したいと思っています)よろしくお願い致します。 (三重県 臨床検査技師 経験35年)

(A)好中球アルカリフォスファターゼ neutrophil alkaline phosphatase(NAP)染色は末梢血塗抹標本上の成熟好中球に存在するアルカリフォスファターゼ活性をナフトール試薬とジアゾ試薬の作用により紫青色に発色させ、陽性細胞についてスコアー化し、半定量的に測定する検査です。この酵素は亜鉛原子を含む金属含有たんぱくであり、EDTAをはじめとする金属イオン吸着剤(キレート剤)などの抗凝固剤を使用すると亜鉛原子が阻害され不活性化されます。そのため抗凝固剤を使用せずに作製した塗抹標本が良いとされています。しかし、EDTA血を用いたとしても採血後すぐに亜鉛原子が不活性化されるわけではなく、採血後、すみやかに塗抹標本を作製し、30分以内に固定操作を行うことにより不活性化の影響を最小限に押さえることが可能であると思われます。当院では上記の処理操作を厳守するによりEDTA血で検査を実施しておりますが特に問題ありません。実際、EDTA血を用いて検査を実施している施設は多いと思います。もしご心配なら同一検体にてEDTA加血標本と抗凝固剤を使用せずに作製した塗抹標本で比較検討し、確認して見てはいかがでしょうか。
(2003年4月26日 獨協医科大学越谷病院 鳥山 満,森 三樹雄)

◆新生児ビタミンK欠乏性出血予防について
(Q)新生児ビタミンK欠乏性出血予防のためヘパプラスチン測定を実施しておりますが、その測定の必要性、意義、基準値についてご教示してください。 (東京都  臨床検査技師  経験25年)

(A)ヘパプラスチンテスト(HPT)に用いられる試薬には、第II、VII、X因子を除去した吸着血漿に組織因子として兎脳トロンボプラスチン、第V因子、リン脂質、Caが添加されています。この試薬に患者さんの一定量の毛細管血ないしはクエン酸加静脈血を加えて、凝固時間を測定します。従って得られる凝固時間は患者さんの血液中の第II、VII、X因子の凝固活性が低ければ、その分延長することになります。
 ビタミンKはビタミンK依存性蛋白にあるグルタミン酸残基をγ-カルボキシグルタミン酸残基に変換する補酵素です。ビタミンK欠乏時においてはγ-カルボキシグルタミン酸残基の生成ができません。その結果、γ-カルボキシグルタミン酸残基を持たない前駆体蛋白であるPIVKA(protein induced by vitamin K absence)が生成されます。PIVKAは生体膜上においてCaを介して、補助因子の役割を果たす他の凝固因子と複合体を形成できませんので、生体内における血液凝固反応が大きく遅延し、出血傾向をきたします。第II、VII、X因子はビタミンK依存性凝固因子ですから、ビタミンK欠乏時には凝固因子活性を持ったこれらの因子が十分に作られません。従ってヘパプラスチンテストの値(%)は低くなります。以上より新生児ビタミンK欠乏性出血予防のためのマススクリーニング検査として、ヘパプラスチンテストは行われています。
 ヘパプラスチンテストは新生児期には生理的変動が激しいことが知られています。参考までに鈴木らによると、完全母乳栄養児において平均値ア標準偏差で表すと、日齢0では22ア9%、日齢1で17ア8%、日齢2で13ア6%、日齢3で15ア9%、日齢4で18ア11%、日齢5で20ア11%、日齢6で33ア20%、日齢7で41ア19%という報告があります。
 最後にヘパプラスチンテストの必要性ですが、最近はほとんどが新生児期にビタミンKの予防内服を受けていますので、以前ほど検査が行われる回数は減っているようです。またPIVKA-II(ECLIA法:電気化学発光を利用した免疫測定法)の感度は良く、ヘパプラスチンテストでは発見できない潜在的なビタミンKの不足状態の検出に有用であるとうい報告があります。日常的にPTで監視しつつ、疑った場合にPIVKA-IIを行ってみることで代用も可能かと思います。
 参考文献
1) 鈴木千鶴子:特発性乳児ビタミンK欠乏症のスクリーニングとその予防 小児科臨床34 :2277,1981
2) 西口富三:母乳を介するビタミンK予防法の有用性:PIVKA-IIならびにヘパプラスチンテストによる評価
  日本産婦人科・新生児血液学会誌8:S-65,1998
(2002年12月2日 東京医科大学 臨床検査医学 腰原 公人)

(Q)◆慢性B型肝炎といわれる患者について
慢性B型肝炎といわれる患者で、HBs抗原陰性、HBs抗体陰性、HBe抗原陰性、HBVDNA陰性、HBVポリメラーゼ陰性、HBc抗体200倍陽性の症例が、ありました。教科書的にはあまりみないれいなので、どのように考えればいいか教えてください。 (東京都 臨床検査技師 経験7年)

(A)HBc抗体200倍陽性の他B型肝炎ウイルスマーカーすべて陰性の慢性B型肝炎ということですが、一般的には有り得ないパターンですね。1. HBc抗体200倍陽性は、再検済みでしょうか? 2. HBV DNA陰性は、TMA法で陰性ということでしょうか? 3. 肝機能検査値、例えばトランスアミナーゼのALT値は?症状は?など情報が欲しいところですが、できる範囲でお答えします。
 HBc抗体200倍測定は、一般的には異常高値を示すキャリアーと感染者とを区別するために行う検査です。ウイルスの活動を示すHBc抗体200倍陽性でHBV DNA陰性ということは通常有り得ないのでので、両者再検してみてください。より高感度の遺伝子検査法でHBV DNA陽性となれば、変異株のキャリアーが疑われます。再検ですべて陰性であれば、治癒したことになります。
(2002年9月2日 昭和大学藤が丘病院 臨床病理科 中村良子)

(Q)◆(造血幹細胞)移植に伴う合併症の一つのTMAについて
(Q-1)(造血幹細胞)移植に伴う合併症の一つにTMA(Thrombotic microangiopathy)が挙げられ、破砕赤血球が出現しますが、 ウエッッジ法で標本を作製した際のアーティファクトを考慮にいれると、具体的にどのような赤血球をTMA由来の破砕赤血球ととればいいのでしょうか? また、完全にアーティファクトを最小限に抑え、TMA由来の破砕赤血球のみをつかまえる標本作製方法があるのでしょうか?
(Q-2)他の移植を行っている施設はどのような形で破砕赤血球の確認と頻度(量)を表現しているのでしょうか?(宮城県 臨床検査技師 経験5年)

(A-1)我々の検査室では、末梢血塗抹標本の作成は、主治医が病棟や外来で生血から直接マニュアルで作成した標本と、EDTA-2K容器入り全血から自動塗抹標本作製機SP-100で作製した標本と2種類を顕微鏡下で観察していますが、アーティファクトと思われる破砕赤血球には、今まで遭遇したことがありません。
 破砕赤血球を作成するために、in vitroで熱を用いて血球を破壊させる方法がありますが、それぞれ異なった温度での報告があります。Williamconら(Blood,46(4):611-624,1975)は末梢血を50℃で熱し、赤血球に偽足や球状化などの変化をおこさせたと報告しています。最近では、シスメックス社のXE-2100を用いて破砕赤血球を定量的に測定をする報告があり(Sysmex Journal Web Vol2 No2 2001)、人工的に100秒50℃でインキュベートし、血球を固定して破砕赤血球を作製し実験等に使用した報告があります。実際人工的に破砕赤血球を作成するのはかなり難しいので、円滑な末梢血塗抹標本作製がなされていれば、日常の検査室で人工的な破砕赤血球をあまり気にしなくて良いと思います。
 また、破砕赤血球の定義は難しいですが、1990年厚生省の赤血球破砕症候群の診断基準(試案)では、「三日月型」「三角形」「角型」「不規則変形型」「ヘルメット型」「いがぐり型」「小球状型」「赤血球ゴースト」を破砕と定義し、全赤血球の0.6%以上を破砕赤血球症候群の診断基準としています。すなわち、健常成人でも0.5%は破砕赤血球が出現するということだと解釈もできます。この 0.5%の破砕赤血球はアーティファクトを考慮にいれているのかもしれません。日常診療上は、通常の静脈採血で、Aラインやカテーテルからの採血でなく、速やかに塗抹標本を作製したのであれば、問題ないと思われます。

(A-2)我々の施設では最低でも一月に2件(またはそれ以上の件数)、同種幹細胞移植が行われております。移植患者はあらかじめ登録していますが、主治医の先生と話し合い、特別の検査依頼用紙に「破砕赤血球比率」の依頼を提出してもらってます。このように検査漏れの無いようにして、破砕赤血球を目視でカウントし、比率を報告しています。技師は赤血球を1000個カウントして破砕赤血球の比率を算定し%で表記し、コンピューター上の検査項目にも報告するように設定してあります。最近では生体肝移植後にもTMAの発症が見られ、破砕赤血球をカウントするようになりました。
 我々の検査室では、厚生省の診断基準で提唱している「三日月型」「三角形」「角型」「不規則変形型」「ヘルメット型」までを、破砕赤血球としてカウントし『fragmentation』としています。「いがぐり型」や「赤血球ゴースト」は破砕としてはカウントしません。「小球状型」は『sherocyte』として別にカウントしています。「いがぐり型」をカウントすると人工的産物との鑑別が難しいのかもしれません。いずれにしても、きちんとした標準化がされてないことが問題かもしれません。近い将来標準化がなされることを期待しています。
(2002年8月7日 慶應義塾大学医学部 中央臨床検査部 川合陽子)

(Q)◆心エコー中隔motionのflutteringについて
基礎疾患高血圧・ホルターPAC 59/1日。今回動悸あり本人希望にて施行。心エコーEF 70%、IVS 11mm、LVPW 11mm、MR I°、PR I°、RVDd 30mm、LVDd 55mm、LVDs 37mmです。Bモード記録中IVSが震えて描出されていました。ルーチン中調律洞性。考えられる原因を教えていただけますでしょうか。 (神奈川県 臨床検査技師 経験8年)

(A)IVSの細動は大動脈弁逆流(AR)のジェットがIVSに当っている場合にみられます。ARはなかったのでしょうか。鑑別診断としてはIVSの近傍にみられる仮性腱索が駆出血流によって震えている場合もあります。
(2002年8月6日 獨協医科大学越谷病院 循環器内科教授 林 輝美)

(Q)◆血漿中のFDP及びDダイマー
血漿中のFDP及びDダイマーを、同一検体にて凝固自動測定装置STA-R(ロシュダイアグノスティック社)で測定したところ、 FDP 23.57μg/ml、 Dダイマー125.0μg/mlと逆転したデータが得られました。プローゾーンの影響も見られず、RA(−)でしたが、逆転の原因として何が考えられるでしょうか。試薬はFDPがコアグソルオートP- FDP 、 DダイマーがSTA LIATESTを使用しています。以上よろしくお願いします。(横浜 臨床検査技師 経験6年半)

(A)FDPとDダイマーともに、STA-Rによるラテックス凝集反応を用いた免疫学的測定法での出来事とのことです。ただしFDPの測定は血漿で測定可能なP-FDPを用いています。これらの検査における測定値は、モノクローナル抗体の認識部位の差異に起因する各試薬の反応性の違いから、バラツキが生じます。
 ちなみにSTA-R測定による血清FDPとSTA LIATEST Dダイマーの福田らの検討1)では、従来からよく使われてきたLPIAシステム(エルピアエースFDP、エルピアエースDダイマー)との相関も良好とのことです。実測値で比較すると、Dダイマーは若干低値傾向を示したようです。ただしFDP、Dダイマーともに希釈直線性のレンジが狭く、ちなみにDダイマーでは0.22〜4.5μg/mlです。
 前置きが長くなりましたが、通常生体内において凝固線溶系が亢進した場合、一次線溶と二次線溶は同時に起こります。しかし術後の血管内皮障害とDIC発症時の病態では、その線溶状態に優位差が生じます。その結果、FDPとDダイマーとの間に病態による乖離現象が生じます。ただし今回の数値ほどの現象は生理的な病態のみでは説明できません。どちらかの検査結果の偽性高値か偽性低値をも念頭に置かなければなりません。偽性低値の起こる状況としては検体そのものが何かのトラブルで希釈されていないか、測定機器のトラブルで検体量の不足に巻き込まれていないかという基本的なことがあります。もちろん再検をされて確認済みのことと思います。次にDダイマーが125μg/mlとかなり高値ですから、STA-Rの場合、希釈再検から得られた結果と思います。希釈操作上のトラブルの有無や再現性の確認が必要になると思います。
 次にラテックス凝集反応において考えることは、リウマトイド因子以外にも高γ-グロブリン血症、IgM高値などによる偽性高値の問題です。さらにヒト抗マウス抗体 (human anti-mouse antibody;HAMA) 陽性者においての非特異的な陽性反応が起きていないかの確認も必要です。他の測定系での値も参考にするか、抗フィブリノゲン抗体で吸収されるかを確認する必要があります。
 以上の問題点が否定された場合、以下のポイントについてのさらなる検討が必要になるかと思います。吉野らのDIC症例におけるSTA LIATEST Dダイマーの検討2)において、DD/Eのほかに、Dモノマーとの反応性が指摘されています。また山下らの血漿・血清検体間におけるコアグソルオートP-FDPとコバス試薬FDPの検討3)において、血漿低値乖離例においてDモノマーの存在が指摘されています。線溶優位なDICなどでは、Dダイマー以上の高分子分画ばかりでなく、一次線溶分解産物であるDモノマーが多く存在することが知られています。そのような症例の場合に上記の検討結果を合わせ考えると、P-FDPが低値に、STA LIATEST Dダイマーが高値傾向を示すことになります。その結果、今回のような逆転現象が生じてくる可能性も否定できません。以上を参考に検討され、新たな知見が得られましたら、是非ともご発表されることを期待しております。
参考文献
1) 福田晃子 他:全自動血液凝固線溶測定装置STA-Rの基礎的検討.医学と薬学42(5)797-808, 1999
2) 吉野悦子 他:Dダイマー測定試薬STAライアテストDダイマーの基礎的検討.機器・試薬 22(1)29-33, 1999
3) 山下保喜 他:血漿FDP測定試薬の基礎的検討と血漿・血清検体間におけるFDP測定値乖離例の解析.医学と薬学46(5)773-780, 2001
(2002年2月15日 東京医科大学臨床検査医学 腰原 公人)

(Q)◆真菌の検査法
(Q)真菌の検査法(塗抹、分離培養法)を詳しく教えてください。(神奈川県 臨床検査技師 経験5年)

(A)真菌の検査法(塗抹、分離培養法)についての参考書を紹介しますので、ごらんください。たぶん、文献1)がわかりやすいと思います。

1)阿部美知子,他:深在性真菌症の微生物学的検査 -直接鏡検および分離培養-.臨床検査,42:176〜184,1999
2)山口英世 監訳:医真菌図説 -同定のための手引き-.医歯薬出版株式会社,1984年
3)山口英世,内田勝久:真菌症診断のための検査ガイド.栄研化学株式会社,ファイザー製薬株式会社,1994年
(2002年2月12日 獨協医科大学越谷病院臨床検査部 森 三樹雄)

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